【フローラS回顧】中距離特有の“我慢比べ”が勝負の分かれ目に 血統背景文句なし、カムニャックが樫の女王へ名乗り
勝木淳

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中距離への対応力みせたカムニャック
オークストライアル・フローラSはカムニャックが勝ち、2着ヴァルキリーバース、3着は最低人気タイセイプランセスで決着。上位2頭がオークスへの優先出走権を獲得した。
牝馬クラシック戦線はマイルから中距離にシフトしたことを象徴するかのような競馬だった。発馬を決めたロートホルンがハナに立ち、並びかけるハギノピアチェーレは抑えが効かず、隊列が決まりかけたところに外からやってきたエストゥペンダも我慢できずに前を目指さざるを得ない状況にあった。
中距離戦では欠かせない中盤のひと溜め。それができない馬たちが動き、前は入れ替わり立ち替わり。我慢比べに打ち勝てるかどうか。自身との戦いが鮮明になった競馬だった。1000m通過59.9は開幕週の良馬場を踏まえればスロー。3、4コーナ―で12.1-12.4-12.1とペースは落ちたものの、序盤のガチャガチャした展開は先行馬にとってしんどかった。
勝ったカムニャックは馬群で抑え込みつつの追走。ドイツに拠点を置く腕達者A.シュタルケ騎手にとってスローを馬群で我慢させるのは自国のスタイルに近く、得意技だ。マイル戦に2回続けて出走したカムニャックを抑え込んだ。
カムニャックの初勝利は中京芝2000m。それも3ハロン目から7ハロン目まで5ハロン連続13秒台ととてつもないスローだった。後方から我慢して運び、徐々に前を射程にとらえ、抜け出して完勝。デビュー戦で早くも中距離への対応力をみせていた。
その後はアルテミスS6着、エルフィンS4着。マイル戦では脚を溜められず、桜花賞出走を逃す。だが、エルフィンSで早くもマイル戦に見切りをつけた陣営の判断が吉と出た。約2カ月の休養でリフレッシュし、中距離への対応も乗り切った。
キタサンブラックとダンスパートナー
カムニャックは父ブラックタイド、母の父サクラバクシンオーという、キタサンブラックと同じ組み合わせ。明らかにマイルではなく、中距離で本領を発揮する血統でもある。かつて母の父サクラバクシンオーという血統には距離不安説もあったが、キタサンブラックがこれを払拭してくれた。カムニャックのマイルからのシフトチェンジには歴史のあと押しがあった。
血統をもう少し掘り下げると、母ダンスアミーガは現役時代に最低人気でターコイズS2着と大穴をあけた馬で、本馬の半兄(父ロードカナロア)キープカルムはこの春のダービー卿CT3着馬。これもシュタルケ騎手騎乗で、ジョッキーとの相性もあったか。
マイル重賞での実績が目立つが、母の母ダンスオールナイトだから、3代母はダンスパートナーでダンシングキイ一族。96年の菊花賞馬ダンスインザダークがいる血統だ。ダンスパートナーはそこにエルコンドルパサーが配され、距離延長で力を引き出せる。血統背景は文句なし。ダンスパートナーは桜花賞2着からオークス優勝。カムニャックも可能性を感じる。
伯母デニムアンドルビーのヴァルキリーバース
2着ヴァルキリーバースは勝ち馬には完敗も3着タイセイプランセスをハナ差退け、オークスへの道が開けた。序盤から中盤はギリギリ我慢できたものの、行きたがったため、消耗もあった。前走フリージア賞で早めに動いて勝負に出た影響だろうか。
直線ではカムニャックに先に進路を奪われ、その背後で進路を探したため、仕掛けが一歩遅れてしまった。母グロリアーナの母はベネンシアドールであり、2013年フローラS1着、オークス3着馬デニムアンドルビーの妹にあたる。その娘ヴァルキリーバースも当然、中距離でこそ。オークスだって軽く扱えない。
3着タイセイプランセスはハナ差でオークスへの道が閉ざされた。18番人気、単勝304.0倍の大穴らしく、後方で脚をしっかり溜め、直線勝負に出るという大胆な作戦が当たった。外を回さず、馬群で距離ロスを抑える味な競馬だったが、その分、直線では前が馬の壁。ヴァルキリーバースの内に飛び込むも進路がなく、そこから3、4頭外へ持ち出し、追い込んだ。このロスが響いた形だ。
とはいえ、未勝利勝ち直後という経験不足の状況でこれだけ走れれば、未来は明るい。本来は流れに乗れるタイプであり、自己条件で正攻法なら間違いない。

《ライタープロフィール》
勝木 淳
競馬を主戦場とする文筆家。競馬系出版社勤務を経てフリーに。優駿エッセイ賞2016にて『築地と競馬と』でグランプリ受賞。主に競馬のWEBフリーペーパー&ブログ『ウマフリ』や競馬雑誌『優駿』(中央競馬ピーアール・センター)にて記事を執筆。Yahoo!ニュースオーサーを務める。『オルフェーヴル伝説 世界を驚かせた金色の暴君』(星海社新書)に寄稿。
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