【福島牝馬S回顧】アドマイヤマツリの勝因は「前走」にあり 田辺騎手は見事な戦略で地元の福島重賞完全制覇
勝木淳

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福島特有の緊迫した流れ
春の福島唯一の重賞福島牝馬Sはアドマイヤマツリが勝ち、重賞初制覇。2着フェアエールング、3着フィールシンパシーで決着した。福島県出身の田辺裕信騎手はこの勝利で、福島記念、七夕賞、ラジオNIKKEI賞を含めて、地元・福島の4重賞完全制覇を達成した。
皐月賞当日に移った福島牝馬Sは開催2週目に繰り上がり、Aコースで行われた。例年より馬場状態が良好だったこともあり、1:46.2の好時計決着となった。特に近年は速くて46秒台後半ばかりで、これは1週繰り上がった影響もあるだろう。
さらにレースは先手候補としてアリスヴェリテ、アマイなど逃げ候補が複数いて、活気ある流れが予想された。アマイが内から先手を主張するも、ハナに立ったのは外枠アスコルティアーモ。逃げたのは3走前関越S9着以来。逃げて結果を出したわけではないが、意表を突く作戦に出た。
控える予定のペイシャフラワーが隣のアスコルティアーモについていくように2番手をとり、アマイは3番手。3ハロン目から5ハロン目まで12.0が続き、緩みない緊迫した流れになった。ここからゴールまで11.8-11.8-11.7-11.7。小回りの中距離戦らしい極端な減速も加速もない一定のリズムを刻んだ。
ポイントになったスピカS
こうなると、折り合いやコース取りなどロスをいかに減らせるかが勝負をわける。勝ったアドマイヤマツリは田辺裕信騎手の意思が明確にみえたレース振りだった。
1枠1番からコースは最内一択。頑としてポジションを譲らず、1コーナー入り口ではラチに接触する場面もあった。守り通した最内が結果としてロスを抑え、勝利を呼び込んだ。4コーナーでも進路に余裕があり、先行勢の外に出す最少手で抜け出した。
タイトな小回り重賞はこの最少手が重要。これが福島重賞完全制覇の地元、田辺裕信騎手らしい見事な戦略だった。
福島牝馬Sはローカル牝馬重賞ながら、思いのほか昇級組が揮わない重賞でもある。昨年までの全21回で前走条件戦【1-4-6-75】。このうち前走3勝クラス1着の昇級は【0-1-1-11】と勝ったことがなかった。22回目にしてアドマイヤマツリが初というのも意外な気もする。
だが、前走中山牝馬S【15-12-7-96】と同距離が続く牝馬重賞にはシリーズのような特有の流れがあり、ここに割り込み勝利をさらうのは容易ではない。それを可能にしたのは前走スピカSだろう。
アドマイヤマツリは東京で3連勝し、3勝クラス入りするなど広いコース中心だったが、前走は中山で2番手から抜け出し勝利。このレースは1ハロン目と3ハロン目の12秒台以外はすべて11秒台。後半1200m11.6-11.5-11.4-11.9-11.7-11.9と中盤で加速しながら、終盤までキープするスケール感ある競馬だった。
スピカS2着コスモフリーゲンは20日の中山最終サンシャインSを快勝。ハイレベルな競馬であり、先行していた馬たちに今後、注目してほしい。
さて、ここにきて小回りでの機動力が強化されたアドマイヤマツリの適性はどこだろうか。未経験のマイル戦で対応できるか疑問だが、一定のリズムを刻む強みは東京マイルでも通用するかもしれない。もちろん、夏場のローカル重賞なら有力で、そう崩れそうにない。
人気の盲点だった2、3着馬
2着フェアエールングは小倉牝馬S1着同着直後にもかかわらず6番人気は盲点だった。1コーナーでアドマイヤマツリとポジション争いをし、一歩後ろになったことでアドマイヤマツリに先をいかれてしまったが、それでも直線で盛り返し2着。小回りだと最後までしぶとい。
3着フィールシンパシーは昨年の2着馬。昨年と同じ8番人気はやはり盲点だった。近走は以前ほど位置をとれず着順も冴えなかったが、差す形を覚えたことで、一定のペースで進む流れを上手くクリアできた。
とはいえ、アドマイヤマツリに離され、フェアエールングに差されるなど精一杯の競馬でもあった。今後はオープン特別など選択肢を増やしたい。
2番人気ホーエリートは12着。同じ位置から内を立ち回った上位馬たちに対し、こちらは早めに手応えが怪しくなり最後は外を回って失速した。前走中山牝馬S2着がピークだった可能性がある。小回り巧者というより中山巧者。コース替わりがマイナスに作用したか。

《ライタープロフィール》
勝木 淳
競馬を主戦場とする文筆家。競馬系出版社勤務を経てフリーに。優駿エッセイ賞2016にて『築地と競馬と』でグランプリ受賞。主に競馬のWEBフリーペーパー&ブログ『ウマフリ』や競馬雑誌『優駿』(中央競馬ピーアール・センター)にて記事を執筆。Yahoo!ニュースオーサーを務める。『オルフェーヴル伝説 世界を驚かせた金色の暴君』(星海社新書)に寄稿。
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