【アンタレスS回顧】厳しい流れで示した格の違い ミッキーファイト、帝王賞へ視界良好
勝木淳

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高い経験値を獲得した4歳世代
アンタレスSはミッキーファイトが勝ち、キャリア8戦で早くも重賞3勝目。2着タイトニット、3着ラインオブソウルで決着した。
ダート戦線は層が厚く、さらに経験値を重視するため、4歳より5歳以上が強いとされる。若さと可能性だけでは通用しないカテゴリーだけに、4歳ミッキーファイトのパフォーマンスには驚かされる。ダート三冠路線の整備は異論反論あるものの、結果としてその初年度世代が3歳時からハイレベルな戦いを繰り広げ、上の世代より高い経験値を獲得した。創設の意義はあったか。
経験値でいえば、ミッキーファイトは4歳シーズンの初戦フェブラリーSに挑戦し、3着。いきなり古馬GⅠ挑戦は、どちらかといえば慎重派の田中博康厩舎としては大きく出たと思われたが、結果を見る限り、挑戦というより勝負になるという確信があったようだ。
そもそもワンターンのスピード勝負は新馬戦だけ。コーナー4回の中距離戦でキャリアを築いただけに、フェブラリーSは厳しかろうという意見もあった。
であれば、コーナー4回のアンタレスSは確勝級。そう上手くいかないのが競馬だが、その通りの完勝劇。内の2頭が競り合う形になり、厳しい流れであっても、なんのその。3番手で余裕の追走から抜け出した。器が違うと言わざるを得ない。
ミッキーファイトに宿るニジンスキーの底力
父ドレフォンの産駒は芝でもジオグリフを出すなどそこそこ走り、ダートでは距離を問わない万能型。スピードと持続力のバランスに長け、日本競馬のスタイルにマッチしている。
対して母系は母スペシャルグルーヴを遡れば、華麗なるダイナカール牝系。トニービン、サンデーサイレンスの血が入り、さらに母父スペシャルウィークからニジンスキーの血も受ける。ニジンスキーは軽い競馬だと威力を発揮しないが、大舞台の底力勝負になると、最後のひと押しに大きな影響を与える。
ダイナカール牝系のなかでもスペシャルグルーヴの仔はニジンスキーのひと押しがある。ミッキーファイトの兄ジュンライトボルトは芝からダートに転向し、たった4戦で頂点であるGⅠを手にした。
日本競馬において、ニジンスキーはダートで力を解き放つ。ミッキーファイトも同世代のライバルが海外を転戦する間に、着実にその底力を強化してきた。再戦の機会が楽しみだ。
底力強化という意味ではアンタレスSはまたとない機会でもあった。1000m通過1:00.8と前半突っ込んで入った流れに対し、受けて立つ形で、後ろを寄せつけず。心肺機能が明らかに違った。文句なし。
次走を予定する帝王賞の舞台、大井2000mでもこの競馬なら勝ち負けだろう。もちろん、チャンピオンズCが行われる中京ダート1800mも問題なく、田中博康厩舎はレモンポップ連覇の続きがみえてきた。
好プレーだった2、3着
2着タイトニットはミッキーファイトが強く、先行勢がバテた利をかっさらう形だった。中盤までは外目で砂を被せず、3、4コーナーだけ内を意識し、距離ロスを軽減させ、直線は外で勝負するという味な競馬だった。
昇級初戦でも追走に苦労するような場面はなく、オープンでの手応えをつかんだ。慣れてくれば、条件戦時代のように序盤から位置をとれるようになるだろう。
3着ラインオブソウルはタイトニットより後ろにいた。最後は外から飛んできたが、道中は内への意識が強く、4コーナー出口までインでじっとした分、末脚を温存できた。メリハリの利いた走りは松若風馬騎手の好プレーによるものだった。
展開待ちのタイプで、安定した成績をあげられず、勝ち味の遅さは否めないものの、先行勢に活気があるときは買い目に入れておきたい。キャリア通算【4-2-3-16】のうち、13頭立て以下【2-0-2-4】、真ん中から外枠【2-2-3-8】。そして4~9月【2-2-2-5】とムラ駆けタイプながら、傾向はくっきり出ている。
2番人気ヤマニンウルスは7着。ミッキーファイトの後ろから進めたが、直線で反応できなかった。デビューから5連勝はすべて平坦コースであり、坂適性は敗因のひとつだろう。
さらにアルデバランS除外後に芝の小倉大賞典、短距離のコーラルSと適性外のレースに出走してきたのも影響したかもしれない。リズムが悪いので、一旦、休んで立て直すのもいいのではないか。

《ライタープロフィール》
勝木 淳
競馬を主戦場とする文筆家。競馬系出版社勤務を経てフリーに。優駿エッセイ賞2016にて『築地と競馬と』でグランプリ受賞。主に競馬のWEBフリーペーパー&ブログ『ウマフリ』や競馬雑誌『優駿』(中央競馬ピーアール・センター)にて記事を執筆。Yahoo!ニュースオーサーを務める。『オルフェーヴル伝説 世界を驚かせた金色の暴君』(星海社新書)に寄稿。
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