【皐月賞】無敗の怪物候補クロワデュノールを後押しするノーザンテーストの血 カギはハイペースへの対応力
坂上明大

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適性面の評価が重要な一戦
牡馬クラシック第1戦・皐月賞。中山芝2000mという紛れが多いコースで行われ、求められる適性も日本ダービーとは大きく異なるレースです。
さらに、今年は現3歳牡馬で重賞2勝以上を挙げているのがクロワデュノールのみという混戦模様。条件によって着順が入れ替わっているだけに、適性面の評価がより重要な一戦となりそうです。
本記事では血統面を中心に、皐月賞のレース傾向を整理していきます。
「ハイペース対応」がカギ
まず紹介したいポイントは、前哨戦と皐月賞での前半1000mのペース差。「多頭数でハイペースが多い皐月賞」と「少頭数でスローペースが多い前哨戦」では求められる適性が大きく異なります。
今年は比較的タイトな前哨戦が多かったものの、過去10年の皐月賞の平均前半1000m59.1秒を切ったのは京成杯ときさらぎ賞のみ。前走で逃げた馬が3頭もいる顔ぶれを見ても、本番での大幅なペースアップに対応できるかが大きな課題となりそうです。
▼ 皐月賞・主な前哨戦の前半1000m通過タイム
58.3秒 京成杯
58.7秒 きさらぎ賞
<59.1秒 皐月賞(過去10年平均)>
59.5秒 すみれS
60.0秒 共同通信杯
60.3秒 若葉S
60.9秒 弥生賞
61.4秒 ホープフルS
61.7秒 スプリングS
63.4秒 若駒S
前述の理由から(1)前走1800m以下、あるいは(2)前走初角3番手以内の先行実績というペース経験は大きなアドバンテージとなります。
反対に、過去10年の1番人気で馬券圏外に凡走した5頭中4頭(サトノクラウン、ワグネリアン、ダノンザキッド、レガレイラ)はいずれにも該当していません。該当馬のその後の活躍を考えれば、如何に皐月賞で苦戦したかがわかるでしょう。
<先行実績>
(1)前走1800m以下【7-4-7-25/43】
勝率16.3%/連対率25.6%/複勝率41.9%/単回収率209%/複回収率123%
(2)前走初角3番手以内【6-5-5-14/30】
勝率20.0%/連対率36.7%/複勝率53.3%/単回収率186%/複回収率162%
※過去10年、9番人気以内
ノーザンテーストとデインヒルに注目
血統面ではノーザンテーストの血に注目。同馬は1982~88、90~92年と10度も日本リーディングサイアーに輝いた大種牡馬で、Hyperionの4×3(Lady Angelaの3×2)などから優れた底力を子孫に伝えています。
また、道悪適性も非常に高く、荒れた馬場になりやすい皐月賞の舞台はピッタリ。一昨年はノーザンテースト内包馬のワンツー決着となっており、今年も大注目の血統です。
また、ノーザンテーストと同様に底力が求められる舞台に強いのがデインヒルの血。同血脈は高額2歳GⅠが多いオーストラリアで繁栄した血だけあって早熟性の強化にも繋がっており、ハイペースの世代限定重賞はまさにピッタリの舞台です。
ただし、日本で種牡馬生活を送るハービンジャーはデインヒルらしさを伝えづらい傾向にあるため、同ラインは除く必要があるでしょう。
<血統別成績>
ノーザンテースト内包馬【4-4-2-15/25】
勝率16.0%/連対率32.0%/複勝率40.0%/単回収率133%/複回収率138%
デインヒル内包馬(ハービンジャー以外*)【2-2-2-6/12】
勝率16.7%/連対率33.3%/複勝率50.0%/単回収率83%/複回収率140%
※過去10年、9番人気以内
*ファントムシーフ(父ハービンジャー)は母方にハービンジャーを経由しないデインヒルの血を持つため集計対象
他では、中山芝2000m重賞でお馴染みのNureyev≒Sadler’s Wellsの活躍も目立ちます。両血脈は内回りコースをうまく立ち回る機動力とタフな競馬でもへこたれない底力を兼ね備えており、日本の主流血脈に足りない資質を補強してくれるスパイスとなっています。
有力馬の血統解説
・クロワデュノール
母ライジングクロスは2006年英オークス2着、愛オークス3着の活躍馬。Bustedの5×5やSir Ivorの6×5、Princely Giftの6×6などを持つ本馬は血統通りのスレンダーな馬体で、頭の高い走りからも将来的には父キタサンブラックと同じようなカテゴリーで強い姿を見せてくれるのではないでしょうか。
機動力に優れたFair Trial血脈を豊富に併せ持ち、素質面でも世代最上位の実力を持っていることは疑いようがありません。ただ、ペース経験は薄めで、適性自体も平均~スローペース向き。ハイペース戦で横綱競馬を見せるとラストで甘くなる可能性はありそうです。
・サトノシャイニング
母スウィーティーガールは2歳芝1600mの亜GⅠ勝ち馬で、ディープインパクトと同じHalo≒Sir Ivorの相似クロスを持つ点が特徴的。キズナ産駒の本馬はディープインパクトの瞬発力源とStorm Catのスピード源を強化した配合形で、高速馬場の2000m前後が主戦場ではないでしょうか。
早熟性に優れ、現時点での完成度はメンバー中屈指ですが、開催最終週の中山芝2000mへの条件替わりはプラスとは言えません。ただ、前走のきさらぎ賞でハイペース戦を経験したアドバンテージは大きく、高速馬場になるようなら高評価せざるを得ない素質馬です。
・エリキング
3代母User Friendlyは1992年英セントレジャーなど長距離GⅠを5勝した名牝。母ヤングスターはShirley Heightsの4×4を持つ瞬発力型で、芝2200mの豪GⅠ・BRCクイーンズランドオークスでは血統通りの末脚を披露して差し切り勝ちを決めています。
キズナ産駒の本馬もデインヒルの血を持つとはいえ、トモの薄い末脚強化型で、ベストは直線の長い芝中長距離コース。素質は世代屈指のモノを持っていますが、適性面と経験面については皐月賞より日本ダービーの方が持ち味を活かせそうです。
《ライタープロフィール》
坂上明大
1992年生まれ、岐阜県出身。元競馬専門紙トラックマン(栗東)。2019年より競馬情報誌サラブレにて「種牡馬のトリセツ」「新馬戦勝ち馬全頭Check!」などの連載をスタートさせ、生駒永観氏と共同執筆で『血統のトリセツ』(KADOKAWA)を上梓。2023年11月には本島修司氏との共同執筆で『競馬の最高戦略書 予想生産性を上げる人の取捨選択の技術』(主婦の友社)を出版。現在はYouTubeチャンネル『競馬オタク』を中心に活動し、パドック解説や番組出演、映像制作、Webメディアでの連載もこなす。
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