【阪神C回顧】淀の直線で切れ味みせたナムラクレア “平坦巧者”ミッキーアイルから受け継ぐ適性光る
勝木淳
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“平坦巧者”の血、ミッキーアイルの宿命
毎年、ゴール前激戦になる西日本最後の重賞。1着賞金6700万円は古馬中距離GⅡレベルであり、GⅠを除くマイル以下の重賞では最高水準だ。スプリンターズS経由、同距離スワンS経由、マイルCS経由など前走レースも様々で戦力比較が難しい一戦も、終わってみれば1番人気ナムラクレアで決まった。
だが、阪神Cは本来、前走スプリンターズS組は相性がよくない。過去10年で【1-1-1-14】。だが、これは同レース10着以下【0-0-0-8】が足を引っ張っているだけで、9着以内は【1-1-1-6】と悪くない。ただ、3着以内馬から参戦した2頭は阪神C10、5着。昨年はママコチャが連勝を狙って敗れた。
ナムラクレアも危ないのではという見立てがあった。なにせ昨年キーンランドC以来、勝利がない。今年は休み明けの京都牝馬Sから2→2→5→3着。安定しているものの、さすがに力にかげりが見られてもおかしくない。
1400m出走は昨年の京都牝馬S2着以来4度目。その京都牝馬Sは目標が次の高松宮記念という状況ながら、猛然と追い込んで2着。1着ソーダズリングとはクビ差だった。京都芝1400mはナムラクレアがもっとも末脚を発揮しやすい舞台といえよう。思えば、短距離GⅠは中京と中山で行われ、どちらも急坂での加速力が勝負を決める。過去のGⅠを見直しても、ナムラクレアにとって急坂は必ずしも得意とはいえない。坂で勢いが鈍るのは平坦巧者の証でもある。
父ミッキーアイルは京都でのマイルCSを勝っているが、高松宮記念、スプリンターズSは惜敗。同じく京都のスワンS勝利もあり、一概にはいえないが、ベストは平坦だった。同じくミッキーアイル産駒で、キャラクター的に重なるメイケイエールはパワー型で坂を苦にしなかったが、とうとうスプリントGⅠに手が届かなった。平坦一族の血にとって、スプリントGⅠは勝つ力があったとしても、わずかに足りない。ミッキーアイルは母系にデインヒル、ヌレイエフの血をもつディープインパクト産駒。欧州のスピード血統とディープインパクトが組み合わさると、スピード色が特化される一方で、坂適性が落ちる。
ナムラクレアも若い頃と比べると、中団後方で脚を溜め、直線に賭ける競馬が増えた。いかに余力を残し、勢いをつけて急坂をクリアするかという課題に取り組んだ結果だろう。阪神Cは今年、得意の平坦京都で行われ、上がり33.3と切れた。自信満々のルメール騎手は大胆であり、細かいことは考えない。流れに乗り、大外へ出し、直線勝負。シンプルながらインパクトある手だった。
来年以降、楽しみなオフトレイル
レースは前後半600m34.5-34.4のイーブンペース。間の1ハロンも11.2で、スタートからゴールまでほぼ一定のペースで流れた。緩みがない力勝負になったのもナムラクレアに味方したか。ゴール前はマッドクール、ママコチャのスプリントGⅠ馬が抜け出すところに、ナムラクレア、オフトレイル、セリフォスら後方待機組が迫った。
残れなかった先行勢も末脚を使えなかった差し馬たちも現状、そこまで力がないことを露呈した。そう考えるなら、2着マッドクールは負けて強し。高松宮記念を重馬場で勝って以来、香港GⅠ、スプリンターズSと大きな着順が続き、もしかして高松宮記念勝ちはフロックでは、と思われた矢先の好走だった。1400mに替わって本来の積極策を取り戻した。粘り腰とスピードが身上のタイプで、この形ならまだやれる。
3着オフトレイルは3歳。当日の騎手乗り替わりを踏まえれば、大健闘だ。後ろで脚を溜めたとはいえ、最後に加速しきれないライバルも多かっただけに、このイーブンペースでも末脚を繰り出せたのは収穫だ。現状、自力で勝ちにいけない弱さは抱えてはいるが、これも経験を重ね、変わってくるのではないか。
これが引退レースだったセリフォスは4着。父ダイワメジャーのイメージを変えた馬だった。先行して、とにかく粘るという父に似た戦法がベストだと考えられていたが、2年前の阪神で行われたマイルCSは上がり600m33.0と切れた。“切れるダイワメジャー”という新たなタイプが種牡馬入り。ダイワメジャーの裾野も広がりそうだ。
ライタープロフィール
勝木 淳
競馬を主戦場とする文筆家。競馬系出版社勤務を経てフリーに。優駿エッセイ賞2016にて『築地と競馬と』でグランプリ受賞。主に競馬のWEBフリーペーパー&ブログ『ウマフリ』や競馬雑誌『優駿』(中央競馬ピーアール・センター)にて記事を執筆。Yahoo!ニュースエキスパートを務める。『アイドルホース列伝 超 1949-2024』(星海社新書)に寄稿。
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