【マイルCS】本命候補は富士Sから巻き返しを狙う外枠2頭 穴馬は復調気配のマテンロウスカイ
山崎エリカ
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馬場の中目と外から差せる馬がやや有利
マイルCSの舞台となる京都外回り1600mは前半3F目の3角頂上を目指して坂を上るコース。坂の上り下りの3角付近となる4、5F目でどうしてもペースが緩む。そのため極端なスローペースやハイペースにはなりにくい。
実際に京都開催の直近10回で一度も極端なスローペースやハイペースになったことはなく、平均前後半4Fは46秒64-46秒28とあまり差はない。
しかし、京都開催の直近10回で逃げ馬の3着以内は2016年のミッキーアイル(直線で苦しくなり外に斜行しながら1着)に対し、追い込み馬が3勝。意外と差し、追い込み馬が活躍している。
これは京都開催15日目で行われるため、馬場の内側が傷み、中目と外目から差せる馬がやや有利というのもあるが、3角付近で内の馬が包まれ気味になり、外のほうが動きやすいことも影響している。ペース自体は速くなく、内の先行馬も十分に残れるが、馬場の中目と外目から差せる馬の一発は警戒しておきたい。
能力値1~5位の紹介
【能力値1位 ソウルラッシュ】
3走前のマイラーズC(稍重)は休養明けで快勝。同レースは14番枠からまずまずのスタートを切ったが、そこから押してもあまり進まず、中団中目を追走。道中も促されながら追走し、3~4角の外からじわっと好位列まで押し上げていった。
4角では大外をぶん回しながら勢いに乗せ、直線序盤で3/4ほど前に出た。そこからラスト1Fでそのまま抜け出し、セリフォスを突き放して1馬身3/4差で完勝した。
3走前はやや時計の掛かる馬場で、前後半4F45秒6-46秒9のややハイペース。4角で大外を回したが、そこでペースダウンしており、仕掛けのタイミングはドンピシャだった。それでも自己最高指数を記録した辺りに地力強化を感じさせた。
前々走の安田記念は3着。休養明けで好走した反動で指数をダウンさせたが、中団中目から4角出口で外に誘導し、外からナミュールに並ばれても負けじと伸びており、半馬身+ハナ差の3着は立派だ。
前哨戦の前走は2着。同レースは中団中目を追走。最後の直線では序盤で中目のスペースを拾いラスト2Fでは進路があったが、ジュンブロッサムに伸び負けする形で1馬身差の2着に敗れた。
前走は好内容だったが、本番を見据えたレースぶりではなく、今回で大幅な前進は期待しにくい。それなら富士Sの3~4角で包まれ能力を出し切れなかった馬の巻き返しに期待したい。
【能力値2位 ブレイディヴェーグ】
昨年のエリザベス女王杯の優勝馬。今年はレガレイラとの使い分けで前走の府中牝馬S勝ちからマイル戦のここに出走してきた。
前走は5番枠からやや出遅れ、そこから促してはいたが、中団やや後方からの追走。向上面で外に誘導し、前にスペースを作って中団外目で3角へ。3~4角でじわっと仕掛けてライラックの後ろから直線に入った。
直線序盤で外に誘導しながら追われたが、伸びはまだ地味。ラスト2F目で伸びて2列目まで上がると、ラスト1Fで内から粘り込みを図るマスクトディーヴァを交わして抜け出し、1馬身1/4差で完勝した。
昨年のエリザベス女王杯は1番枠からやや立ち遅れたが、内ラチ2頭分に出して立て直し、好位内目を追走することができた。しかし、今回はマイル戦でポジションが取れて中団、出遅れれば後方からの追走になるだろう。
雨の影響で馬場がタフになり、いっそ外からエンジンをかけていく形ならチャンスはありそうだ。ただ良馬場だと外から被されて先週のレガレイラのようにエンジンをかけきれないまま終わる危険性もある。
【能力値3位 ジュンブロッサム】
前哨戦の富士S勝ち馬。同レースは16番枠から五分のスタートを切り、そこから軽く促して中団外目で進める形。道中はコントロールされながら中団外目で3角へ。
3~4角の前が息を入れたところで、外からじわっと動いた。直線序盤で追われると、すっと伸びて好位列に上がり、ラスト2Fで2列目に並ひかけると、ラスト1Fではソウルラッシュをしっかり捉えて1馬身差で完勝した。
本馬はゲートも二の脚も甘く、芝マイルでは自ら動けない点がネック。2走前の関屋記念は前後半4F47秒7-45秒2のかなりのスローペースだったことが災いする形で、前を捉え切れずに3着に敗れた。
一方、前走の富士Sはこの馬としてはゲートを決め、3~4角で前がペースダウンしたところで外から挽回し、最後の直線で上手くスピードに乗せての勝利だった。
つまり、前走は展開が噛み合い自己最高指数を記録したということ。また今回はその疲れが懸念され、前走の16番枠から一転して5番枠と内目の枠に入った。後方からレースを進める馬で、進路取りが難しくなる可能性がある。
【能力値4位タイ ナミュール】
昨春は不振に終わったが、秋は富士SとマイルCSを連勝。昨年の富士Sは6番枠からやや出遅れ、軽く促されたが、先行争いが激化して隊列が縦長になったため、後方外目で我慢していた。
3角手前で内に潜り込み、3~4角でも緩みなくレースが流れた中、最短距離から前のスペースを詰めて4角で外へ。序盤はイルーシヴパンサーの後ろで我慢していたが、ラスト2Fで同馬の外に出すと、すっと伸びてラスト1F付近で先頭。外から猛追するレッドモンレーヴを最後まで寄せつけず1馬身1/4差で完勝した。
ここでは3着馬を4馬身近く突き放し、今年の富士Sの勝ち馬ジュンブロッサムと同等の自己最高指数を記録。地力強化を感じさせる一戦だった。
昨年のマイルCSは大外16番枠で展開と馬場に恵まれての追い込み勝ちだったが、今年は4番枠と内枠。昨年のように2列目の後方まで下げての直線一気は難しいだろう。
昨年のマイルCS後は香港マイル3着、ドバイターフ2着と海外で結果を残し、前走の安田記念も2着。休養明けで展開に恵まれたドバイターフで好走し、その後のヴィクトリアマイルは8着と崩れたが、安田記念では2着と巻き返し、安定した強さを見せている。
今回はぶっつけ本番。調教後の馬体重は22Kg増だった。ただ調教は動いており、重苦しさを感じさせない。緒戦から能力全開となるかはともかく、それなりには走れそうで警戒したい。
【能力値4位タイ ウインマーベル】
2022年のスプリンターズSで2着に健闘するなど、重賞4勝、2着3回の実績馬。2走前の京王杯SCは大外15番枠から五分のスタートだったが、わりと楽に2列目の外を確保。道中も2列目3頭の一番外を追走していたが、3角手前で一列下げて3列目付近で直線へ。
直線序盤ですっと2列目に並びかけ、ラスト2Fで先頭列へ。ラスト1Fでは外からグンと伸びたレッドモンレーヴと叩き合いになり、いったんは前に出られたが差し返してハナ差で勝利した。
近走は1400mでポジションを取っての好走が目立つ点から、追走に忙しい1200mで展開が嵌るのを待つより、1600mでレースの流れに乗って結果を出すほうが現実的である。内枠だと積極的な競馬で失速する恐れもあったが、今回は14番枠と外枠。ある程度、脚をタメることが出来ればチャンスがありそうだ。
本命は馬場次第 穴馬はマテンロウスカイ
【アルナシーム】
今夏の中京記念(小倉芝1800m)で初重賞制覇を達成した馬。同レースは2番枠からまずまずのスタートを切ったが、促してもあまり進んで行かず中団中目からの追走。道中はテーオーシリウスとセオが競り合い縦長の展開になったが、中団の最内で我慢して3角へ。
3~4角ではじわっと仕掛けてエルトンバローズの後ろを走り、その外2列目から直線へ。直線序盤で並ぶ間もなくすっと先頭に立ちクビ差ほど前に出ると、ラスト1Fでしぶとく伸び、内から食らいつくエピファニーを振り切ってクビ差で勝利した。
今夏の小倉は梅雨の影響を強く受け、開催8日目で行われた中京記念当日は、雨の降る時間帯もあってタフな馬場だった。
そのうえ前2頭が競り合い消耗戦となり、前へ行った馬には不利な展開だった。しかし、昨年の毎日王冠の勝ち馬で、今年は同レース3着のエルトンバローズを撃破しているように、それなりのレベルにあった。
前走の富士Sは6着に敗れたが、消耗戦で好走した疲れを取ることに専念した休養明けの一戦。能力を出し切れる状態ではなかった面がある。それでも12番枠から好位の中目を追走としっかりポジションを取り、最後の直線で前が壁になって仕掛けが遅れる不利がありならも、4着と0.1秒差だった。
本馬はあふれる前進気勢が出世を遅らせたが、エプソムC以降は折り合うことができている。ただ、タフな馬場でこそのタイプ。レース当日、予報どおりに雨が降れば本命の可能性もあるが、最終決断は当日の馬場を見てからにしたい。
【セリフォス】
2022年の3歳春で挑んだ安田記念で4着。同年秋に富士Sと阪神芝1600mで行われたマイルCSを連勝。早期から活躍していた素質馬だ。
2022年のマイルCSは、10番枠から五分のスタートを切り、促されて中団中目を追走。ただ序盤のペースがやや遅く、団子状態だったため位置が下がって後方追走となった。
3~4角では中団の中目の馬たちが包まれていたが、4角出口で外に誘導。直線序盤の伸びは地味で中団に取りつくまでだったが、ラスト1Fで一気に前を捉えて1馬身1/4差で完勝した。
このときは時計の掛かる外差し有利の馬場で、先行勢がラスト1Fで甘くなったことや、差し勢の中では比較的スムーズに運べていたことが好走要因だが、スピードが乗ってからの末脚は確かなものがあった。
昨春の安田記念は2着。その後に夏負けした影響で秋の富士Sを回避。調整が狂ってしまい昨秋のマイルCSは8着、香港マイルも7着に敗れた。ただそこから立て直した3走前のマイラーズCでは2着だった。
3走前は3番枠を利して中団最内を上手く立ち回るも、口向きの悪さや直線序盤で詰まる場面がありながらも2着に善戦、復調気配を感じさせた。前々走の安田記念は、休養明けで好走した後の5着敗戦で仕方ないものがあった。しかし前走の富士Sでも4着というのは…。
衰えたのかもしれないと思ったが、レースは出遅れ終始内にモタれ、かなり折り合いを欠いて頭を上げていた。また3~4角で包まれ最後の直線で仕掛けが遅れていた。
ラスト1Fでもさほど伸びておらず、仕掛け遅れ自体はそこまで影響がなかったと見ている。ただ酷く折り合いを欠いていたこともあり、能力を出し切ったものではないだろう。
前走で前に壁を作っても折り合えないレースぶりを見ると、馬場がタフになったときはスタミナに不安が残る。ただ良馬場である程度レースが流れれば、巻き返しの可能性は十分ある。本馬も馬場次第で本命候補だ。
【マテンロウスカイ】
今春の中山記念の勝ち馬。同レースは8番枠からまずまずのスタートを切り、しっかり先行。ハナをうかがいながら好位の最内3番手を確保した。道中では逃げるドーブネとのスペースを広げて3角へ。3~4角でドーブネとの差をじわっと詰め、4角で同馬の外に誘導。直線序盤で並びかけると、ラスト1Fで抜け出し2馬身差で完勝した。
後の札幌記念2着馬ジオグリフや宝塚記念2着馬ソールオリエンスに先着したように、かなり強い内容で自己最高指数を記録。中山記念はタフな馬場でラスト5F目(向上面半ばから3角にかけて)が最速の消耗戦だった。
この内容だけを見ると「タフな馬場の消耗戦でこそ」と感じさせるが、前走の超高速馬場だった天皇賞(秋)でも、好位の最内で折り合いを欠く場面がありながらも5着に善戦。高速適性はある。また昨年暮れのリゲルSは2番手からすっと抜け出し勝利しているように、マイル実績もある。
3走前のドバイターフは、中山記念で自己最高指数を記録した後の一戦。疲れ残りの海外遠征で大幅に馬体を減らした。そんな中で折り合い欠きながら逃げて15着に大敗。前々走の毎日王冠は出遅れて中団最内を追走と無難に乗ったが、最後まで進路がなく、追うこともできず8着に敗れた。
ベストは芝1800mだが、折り合いを考えるなら極端なペースにはならないこの舞台は合っている。前走で復調を見せているだけに、ここでさらなる前進に期待したい。
※パワーポイント指数(PP指数)とは?
●新馬・未勝利の平均勝ちタイムを基準「0」とし、それより価値が高ければマイナスで表示
例)ソウルラッシュの前走指数「-23」は、新馬・未勝利の平均勝ちタイムよりも2.3秒速い
●能力値 =(前走指数+前々走指数+近5走の最高指数)÷3
●最高値とはその馬がこれまでに記録した一番高い指数
能力値と最高値ともに1位の馬は鉄板級。能力値上位馬は本命候補、最高値上位馬は穴馬候補
ライタープロフィール
山崎エリカ
類い稀な勝負強さで「負けない女」の異名をとる競馬研究家。独自に開発したPP指数を武器にレース分析し、高配当ゲットを狙う! netkeiba.com等で執筆。好きな馬は、強さと脆さが同居している、メジロパーマーのような逃げ馬。
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