【毎日王冠回顧】好位から上がり33.3、大人びたセンス光ったシックスペンス 本格化気配ある2着ホウオウビスケッツ

勝木淳

2024年毎日王冠、レース結果,ⒸSPAIA

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挑戦権を獲得したシックスペンス

GⅠ馬の出走がないのはグレード制が導入された84年以降では初めてだという。秋の東京、京都開幕週はどちらもいわゆる伝統のGⅡ。豪華メンバーが顔をそろえ、いよいよ秋競馬が本格的に動き出すのを実感できる。夏を休み、収穫の秋へと歩み出す有力馬たちの始動戦。そんなコンセプトが伝統を支えてきたが、これもまた時代とともに変わる。毎日王冠はGⅠへの挑戦権をかける場になり、東京でどれだけ走れるかを試す機会でもある。

挑戦権を争う戦いという意味では、3歳シックスペンスはコンセプトにふさわしい勝ち馬といえよう。春はスプリングSで好位から瞬発力を繰り出すという大人じみた競馬を披露するも、皐月賞はパス。間隔があいたダービーでは独特の雰囲気に飲まれたか、行きたがってしまい、9着。実力をすべて出し切れなかった。

不完全燃焼のダービーから4カ月。馬体重プラス14キロと体も大きくなり、春から成長した姿をみせた。好位3、4番手から上がり600m33.3と相変わらずのセンスで古馬を撃破。一度使って、精神状態がどう変わるかわからないが、滑り出しとしては上々だろう。


東京に異常なほど強いルメール騎手

逃げたのは函館記念を勝ったホウオウビスケッツ。2走前の巴賞で逃げており、自然な形で先手をとった。600mごとに区切ると、35.3-36.1-33.7という構成。序盤、ダッシュを効かせ、中盤でリラックス、後半勝負に挑む。いよいよ完成の域に達した手ごたえがある。理想的な流れをつくられては、待機策は厳しい。先行有利の流れにあっさり持ち込むあたり、歴戦の古馬による争いにふさわしいレースだった。

これに順応したシックスペンスはやはり大人びたところがある。もっと激しい流れになった際は未知数ではあるが、こういった流れに対応できれば、重賞タイトルの上積みは可能だろう。

どの馬も手応え十分で迎えた直線は、スペースの奪い合い。各馬止まらないわけだから、進路を譲ってもらえるはずもない。東京特有なスキのない競馬になると、ルメール騎手は異常なほど強い。終始、エルトンバローズの外に出すプランを貫いた。ここに入られないよう運び、残り400mで満を持して外へ出てきた。タイミングもお見事だった。少し反応まで時間がかかったのは休み明けの分だろう。完調手前でGⅡを勝ったことで次もみえてくる。毎日王冠をメイチで勝つようでは、秋の主役にはなれないだけに、仕上げも絶妙だった。ダービー以外はすべて1着。そうそうある戦歴ではない。もっと評価していい。


本格化気配のホウオウビスケッツ

2着は逃げたホウオウビスケッツ。デビュー2戦目で東京芝2000mを後半1000m11.8-11.6-11.2-11.2-11.9で乗り切った好素材が4歳夏を境に本格化しつつある。気性のコントロールも効くようになり、もう大崩れはなさそう。後半600m33.7は同馬にとってちょっとだけ速く、シックスペンスの瞬発力に屈したものの、もう少し持続力寄りに中盤を進められれば、大舞台でも一発ある。

母系にノーザンテースト、トニービン、サンデーサイレンス、エアグルーヴ、キングカメハメハ、ディープインパクトと現代日本競馬の結晶が詰め込まれた理想的な血統。活躍するほどに価値はあがっていく。岩田康誠騎手が騎乗すると、【2-1-2-0】と崩れない。久々のGⅠ勝利を目指す康誠騎手にとっても、この秋は正念場。ホウオウビスケッツとなら。そんな気持ちも強い。次走も強気に“らしさ”あふれる騎乗をみせてほしい。

3着エルトンバローズは復調を示した。スローの外枠のため、外を回らざるを得なかったが、 直線では持ち前のしぶとさをみせた。勝った昨年と同じ1.45.3で駆け抜けており、現状の力はきっちり出した。GⅠとなると、ワンパンチ足りないが、脚質的に流れに恵まれる可能性もある。

4着ヤマニンサルバムは前の先行馬が粘ったため、なかなか進路を見出せず不完全燃焼だった。ホウオウビスケッツの背後にいた5着シルトホルンやその内にいた8着マテンロウスカイも競馬の手筋は悪くなかったが、末脚を伸ばすスペースがなかった。明らかに脚を余しており、内にいた馬たちには次走も注目しよう。

2024年毎日王冠、レース回顧,ⒸSPAIA


ライタープロフィール
勝木 淳
競馬を主戦場とする文筆家。競馬系出版社勤務を経てフリーに。優駿エッセイ賞2016にて『築地と競馬と』でグランプリ受賞。主に競馬のWEBフリーペーパー&ブログ『ウマフリ』や競馬雑誌『優駿』(中央競馬ピーアール・センター)にて記事を執筆。Yahoo!ニュースエキスパートを務める。『アイドルホース列伝 超 1949-2024』(星海社新書)に寄稿。

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