【オールカマー回顧】「勝利への一本道」見逃さなかったレーベンスティール 着差以上に価値ある内容で勝負の秋へ弾み

勝木淳

2024年オールカマー、レース結果,ⒸSPAIA

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完璧だったアウスヴァールのレース運び

2024年9月22日に中山競馬場で開催されたオールカマーは、レーベンスティールが断然人気に応える重賞3勝目。逃げて完璧に近いレースを展開したアウスヴァールをゴール寸前でとらえた。

中山は3週目を迎え、芝は今週からCコースに替わり、1200mで2歳レコードが更新されるなど変わらず絶好の状態が続く。さらにこの日も風は南風。冬は最後の直線で正面から風を受け、上がりがかかる競馬場だが、春の終わりや秋に吹く南風は最後に出走馬の背中を押してくれる。

急坂のしんどさも向かい風の向正面で無理さえしなければ、そこまで負担にならない。今開催はどうもそんな状況が最終週まで続きそうだ。高速決着に注目が集まるが、時計が速いことより、今の中山が走りやすい状況にあると考えよう。

さすがに歴戦の古馬同士の争いとあって、展開は非常に読みやすかった。行くのは北海道の重賞でペースを握ってきたアウスヴァール。極端にペースを落とさず、持続力勝負にもちこみたい。タフな展開を願うアウスヴァールに田辺裕信騎手を配したのは心憎い演出だった。

中山で勝負所を早めに動き、レースを支配するなど差し馬のイメージもある騎手だが、滅多にない逃げ馬に騎乗した際は怖い男だ。かつてロゴタイプに乗り、安田記念で最強マイラーのモーリスを破ったレースは強烈だった。相手に背後の2番手確保と申し分ない競馬を展開されながらも、粘り切った。3、4コーナーでの絶妙な押し引きが際立ったことを記憶している。

アウスヴァールの単騎逃げを脅かす存在はいない。相手は好位にいるレーベンスティールであり、レースの視点は当然、そこに注がれる。

また、脚質も定まった古馬だけに、いくら馬場がインの先行有利であっても、形を崩すこともできない。最後は速い時計になることを承知しているからこそ、序盤、中盤で無駄なことはできない。固まって進む馬群を引き連れるアウスヴァールと田辺騎手は内心、もらったと思っただろう。

前半1000mは1:01.0。最初のコーナーにあたる3ハロン目に12.6を踏み、マイペースを完成させていた。

ここからレースは動かず、残り1000mから11.9-11.8-11.6とじわっと加速。好位勢に脚を使わせ、4コーナーから直線入り口で11.3と最速ラップを繰り出し、好位との差をわずかに広げる。あとはこのリードを守るだけ。直線は背中を押す風。完璧だった。


熱くならざるを得ない「母父トウカイテイオー」という文字列

ところが、ゴールに飛び込む寸前、馬群をさばいたレーベンスティールが襲いかかる。

こちらはアウスヴァールの背後、インの3~4番手にいた。しかし、アウスヴァールの巧みな逃げにより各馬十分に余力を残す状況とあっては、脚があっても進路がない。急坂までは危険な状況にあったが、リカンカブールが少し外に動き、生じた勝利への一本道を見逃しはしなかった。

そこを抜けてから、ゴールまでの瞬発力は圧巻のひとこと。アウスヴァールと田辺騎手の幻惑戦法を打ち破ったことも、レーベンスティールの価値を示す。勝ちに行く地力がついたいま、目指すはてっぺんただひとつだ。

母の父トウカイテイオー。この文字を目にするだけで熱くなるファンは数多い。まさか令和の世にトウカイテイオーの名が轟くとは。やはりどうしたってGⅠを獲ってほしい。肩入れせずにはいられまい。

2着アウスヴァールは実に完璧な運びだった。直線半ば、リカンカブールとの脚色を比べれば、勝利は決定的だった。

ここまで運べれば、勝ちたかった。そのひと言に尽きる。相手が悪かった。道中で力んで強気に行きすぎるきらいもあったが、今回はそういった面もなく、今後も同じようなレース運びができれば、重賞は近いだろう。

だが、強い逃げ馬は必ずマークを受ける運命にある。さすがにオールカマー2着でターゲットにされるので、今後は真価が問われる。

3着リカンカブールは、そもそも中山金杯の勝ち馬。大阪杯大敗後は脚部不安で休養していたが、休み明けの函館記念を叩き、型通り上昇した。その手ごたえがあったからこそ、今回は馬場を踏まえ積極的なレース運びに出た。

中山向きの立ち回りと速い時計への対応力が備わっており、今後も内回り2000m前後では期待したい。なかなか順調にレースを使えない面があり、5歳でもキャリアはまだ13戦。伸びしろにかけよう。

3番人気サヴォーナは4着。上位が逃げ、好位勢だったことを踏まえると、ちょっと物足りない。

2400m以上の長めの距離に実績があり、函館記念も4着。もう少し序盤でゆったり進める距離で先行し、地力勝負に持ち込む形がベストだろう。アルゼンチン共和国杯あたりで面白い。


2024年オールカマー、レース回顧,ⒸSPAIA


ライタープロフィール
勝木 淳
競馬を主戦場とする文筆家。競馬系出版社勤務を経てフリーに。優駿エッセイ賞2016にて『築地と競馬と』でグランプリ受賞。主に競馬のWEBフリーペーパー&ブログ『ウマフリ』や競馬雑誌『優駿』(中央競馬ピーアール・センター)にて記事を執筆。Yahoo!ニュースエキスパートを務める。『キタサンブラック伝説 王道を駆け抜けたみんなの愛馬』(星海社新書)に寄稿。

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