【クイーンS回顧】ゴールドシップ産駒コガネノソラが少し遅い決着を制す 高速時計にも対応できる点で秋GⅠが楽しみ
勝木淳
ⒸSPAIA
札幌巧者だったゴールドシップ
勝ったコガネノソラの父ゴールドシップは現役時代、札幌【1-2-0-0】。2戦目コスモス賞は中団から動き、4コーナー3番手から抜け出し、札幌2歳Sではスタートでアオリ、後方から直線勝負。上がり最速35.6で2着に押し上げた。キャリアを積み、凱旋門賞の壮行レースに選んだ札幌記念ではハープスターとマッチレースを演じ、3/4馬身差2着。すべて違う騎手が騎乗し、多彩な戦法で結果を残した。間違いなくコース巧者といっていい。
適度に時計がかかる洋芝、コーナーが緩く追い上げやすいコース形態が、ちょっと不器用だけど破壊力は文句なしのゴールドシップにハマった。
産駒全体の成績は7/21までで福島40勝、勝率12.0%や小倉27勝、勝率9.7%には及ばないながら、札幌は14勝で勝率8.0%と悪くない。福島、小倉は小回りながらスパイラルカーブを採用しており、ゴールドシップ産駒にとってコーナーは走りやすいのだろう。
重賞9勝は東京4、中山1、阪神3に対し、札幌は1(障害の3勝含む)。この勝利は札幌重賞2勝目。今後はもっと増えるだろう。唯一の平地GⅠ馬ユーバーレーベンはハイペースの札幌2歳Sをまくって、ソダシのタイム差なし2着。ドバイ以来だった札幌記念は11着に終わったが、札幌は得意としていた。
中身の濃い後半の攻防を制したコガネノソラ
前日のSTV賞(札幌芝2000m)ではゴールドシップ産駒フェアエールングが馬群を縫う器用な立ち回りで札幌3勝目をあげた。勝ち時計は2:00.6。少し遅い決着に強いあたりゴールドシップ産駒らしい。コガネノソラはフェアエールングと比べると速い時計に対応できる力もある。この日は当日朝の雨の影響から稍重で若干時計を要する馬場だったが、春にはスイートピーSを1:45.6で勝利しており、好走できる時計の範囲は広い。なにせまだ3歳で伸びしろも大きい。
古馬との戦いに身を投じた今回は、しぶとい逃げ馬コンクシェルがウインピクシス、スタニングローズにマークされプレッシャーをかけられるなか耐えるという、持久力戦になった。牝馬とはいえ、さすがに古馬はレースの中身も濃い。前半1000m通過こそ1:00.3と平均ぐらいだったが、3コーナーからゴールまで11.8-11.6-11.8-11.9と最後までラップが落ちない厳しさがあった。洋芝の札幌を踏まえると、後半800mすべて11秒台は濃い。
コガネノソラは斤量51キロを味方に外目を攻めて好位勢をねじ伏せた。過去10年クイーンSで通用した3歳馬は春のGⅠ好走馬ばかり。このデータを覆したコガネノソラの可能性は評価すべきだろう。時計への対応力もあるので秋のGⅠでも楽しめる。ステイゴールド、ゴールドシップから受け継いだ成長力を味方にさらに強くなっていくだろう。
充実期にあるコンクシェル
2着ボンドガールは同じ3歳でも対照的な競馬になった。最内枠から古馬に揉まれ勝負所でも進路がなく、思うように順位をあげられない形に。4コーナーを回った時点では馬群の最後方に近く、この時点で厳しいと思わざるを得ない状況にあった。ここから馬群を縫って最後はコガネノソラとアタマ差まで持ち込んだ。まくれず脚を溜められた、先行勢に厳しい流れになったことで展開が向いたといった見方もあるが、これも実力がなければ追いあげられない。4コーナーでの位置取りから、一切ブレーキをかけることなく抜け出した武豊騎手の集中力も見応えがあった。
3着アルジーヌはこれで通算【4-2-1-2】。掲示板をはずしていない。中内田充正厩舎らしい的確なレース選択で、ほぼ最短ルートで重賞までやってきた。出世はスローでも着実に力をつけていく。先行馬に辛い流れを踏ん張っており、早くも重賞通用のメドは立てた。母キャトルフィーユは10年前にこのレースを1:45.7のレコード勝ち。5歳夏のことだった。娘もまだまだ楽しみがある。
写真判定の末、5着だったコンクシェルはマークされる立場であっても堂々たる逃げで見せ場を作った。序盤からウインピクシスにプレッシャーをかけられ、勝負所ではスタニングローズにかわされかけた。続々とやってくるライバルを跳ねのける持続力から、今後も決して評価を落とせない。自身より後ろの馬がマークされるようなメンバー構成やレースになったとき、チャンスが巡ってくるだろう。
ライタープロフィール
勝木 淳
競馬を主戦場とする文筆家。競馬系出版社勤務を経てフリーに。優駿エッセイ賞2016にて『築地と競馬と』でグランプリ受賞。主に競馬のWEBフリーペーパー&ブログ『ウマフリ』や競馬雑誌『優駿』(中央競馬ピーアール・センター)にて記事を執筆。Yahoo!ニュースエキスパートを務める。『キタサンブラック伝説 王道を駆け抜けたみんなの愛馬』(星海社新書)に寄稿。
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