【北九州記念回顧】他馬を圧倒した天性のダッシュ力 ピューロマジックのスピードが秋に向けてのポイントに
勝木淳
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自然流で2番手につけた2、3馬身
2年前のCBC賞は同じ開幕週の小倉で行われ、テイエムスパーダが1:05.8の快時計を叩き出した。このとき、ペースが厳しかろうと、馬のリズムさえとれていれば、簡単には止まらないということを知った。小倉の開幕週ならではの現象でもあった。今年、同じシチュエーションで行われた北九州記念は重に近い稍重という条件こそ違ったが、結果は似たようなものだった。前走重賞勝ちのピューロマジックは53キロ。3歳牝馬の基礎重量より1キロ背負わされるも、リズム重視の競馬で見事に押し切った。
小倉の短距離戦らしく、スタートで勝負を決したといってもいい。ピューロマジックはゲートの出こそ抜群とはいえないが、そこからのダッシュ力がすべての出走馬を圧倒した。それも鞍上は決して急かしてはなく、馬自身の天性のダッシュ力が違った。最初の200mで、2番手に2、3馬身差をつけた。後ろのプレッシャーを受けない絶妙な間隔を労せず取れれば、あとはマイペース。後続は短距離では大きな差といえる2、3馬身差に苦しんだ。直線入り口でついてきたのはヨシノイースターだけ。ほかの先行型がバテたことで、固まって進んだ中団馬群は進路を作るのにワンアクション必要になった。ピューロマジックの術中にはまったようなものだ。
この日の小倉は南西方向からの風が強く、1200mは前半追い風、後半は向かい風を受ける状況にあった。前半600m32.3はハイペース判定ではあるが、風のあと押しと後ろからプレッシャーを感じないピューロマジックのマイペースを踏まえれば、厳しくはない。気分よく走りつつ、後半の向かい風を迎えた。後半600mは35.6で、ラスト200mは12.6。さすがにピューロマジックも風に体力を削られた。とはいえ、前半の差が最後に効いた。追いかけるヨシノイースターも2、3馬身前にいる勝ち馬をとらえるほどの脚がなかった。下手に体力温存を目論み、後ろを引きつけていれば勝てていない。
「迷わず行けよ、行けばわかるさ」といった競馬。雨の影響を受け、決着時計は速くなかったが、やはり小倉の開幕週はスピード任せの強引な競馬がいい。逃げ切って重賞連勝。ピューロマジックのスピードは秋に向けてポイントになる。
付き合いやすいヨシノイースター
血統としては一緒にレースに挑んだメディーヴァルの全きょうだい。兄はダート短距離と直線競馬に強いというアジアエクスプレスの典型。とはいえ、アジアエクスプレスは父ヘニーヒューズながら、3連勝で朝日杯FSを勝った芝GⅠ馬。ヘニーヒューズ輸入のきっかけをつくった。速い上がりを問われる芝特有の緩急では苦戦するが、一定のスピードで走れる短距離やダートは合う。産駒は総じてダートに強いが、メディーヴァル、ピューロマジックの母メジェルダはディープインパクト産駒で、母の父がもつ軽さが芝での活躍源にもなっている。アジアエクスプレスの持続力と母系の軽さを味方につけるには、ピューロマジックのような競馬がベスト。今後も相手のスピードに合わせるのではなく、相手に付き合わせないスピードで圧倒してほしい。
2着ヨシノイースターは開幕週特有の超高速馬場にならなかったことが好走要因。自身の記録は1:08.0で自分の力はきっちり出した。オープン昇級直後は後ろからの競馬で結果を残せなかったが、好位から攻められるようになり、安定感が増した。小回りの短距離では、好位にいる優位性は大きく、この形でそこそこ時計を要するなら、そう崩れないだろう。馬券的には単勝でなければ付き合いやすい。前に行ける分、末脚が鈍るので、相手には今回のように前にいる馬を選びたいところだ。
3着モズメイメイは16番人気と驚かせた。重賞2勝馬だが、いずれも3歳時の逃げ切り。ロケットスタートでライバルを圧倒していた頃はよかったが、その後は苦労していた。昨年の北九州記念10着以降は二桁着順続きで、早熟という評価も妥当。それが一転して、差して3着。中間、坂路で自己ベストを記録していたが、いったいなにがあったのか。直線ではサーマルウインドとのタイトな進路争いを力強く制し抜けてきた。イメージを一新した今回は次に果たしてつながるのか。注目だ。
ライタープロフィール
勝木 淳
競馬を主戦場とする文筆家。競馬系出版社勤務を経てフリーに。優駿エッセイ賞2016にて『築地と競馬と』でグランプリ受賞。主に競馬のWEBフリーペーパー&ブログ『ウマフリ』や競馬雑誌『優駿』(中央競馬ピーアール・センター)にて記事を執筆。Yahoo!ニュースエキスパートを務める。『キタサンブラック伝説 王道を駆け抜けたみんなの愛馬』(星海社新書)に寄稿。
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