【マイルCS】マイル適性高いウインマーベルが本命 対抗ソウルラッシュ
山崎エリカ

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外から動ける先行~差し馬が有利
マイルチャンピオンシップの舞台となる京都芝1600m(外回り)は、前半2F過ぎから3角の頂上を目指して坂を上るコース。坂の上り下りとなる4~5F目でペースが緩むため、極端なスローペースやハイペースにはなりにくい。
実際に京都開催の直近10回では一度も極端なペースになったことがなく、前後半4Fの平均を見ても46秒6-46秒3とあまり差はない。
ペースが平均化しやすいレースだけあって、同期間で逃げが1勝、先行2勝、中団2勝、差し2勝、追込3勝とどの脚質でも有利不利なく通用しているが、逃げ、追込馬の2~3着はゼロ。京都開催15日目(今年は17日目)で馬場の内側が傷んでいる影響もあって、外から動ける先行~差し馬が活躍している。
能力値1~5位の紹介

【能力値1位 ジャンタルマンタル】
今春の安田記念で芝マイルGⅠ・3勝目を達成した。
その安田記念では10番枠から五分のスタートを切り、じわっと先行して2列目の外を追走。3角手前でロングランが絡んでくると、やや抵抗して2列目の外を維持する。
3~4角ではコントロールしながら2列目の外で進め、直前序盤で仕掛けを待ち、ラスト2Fで軽く追われて先頭のマッドクールに並びかける。最後はそのまま抜け出して1馬身半差で完勝した。
このときは高速馬場で、前後半4F46秒7-46秒0。中盤で極端に緩んではいないが、前半3Fはロゴタイプが逃げ切った2016年と同じ35秒0と遅く、前有利の展開。しかし、向正面で外から寄られて進路が狭くなる場面や、前に壁が作れずにかなり掛かる場面があり、決してスムーズな競馬ではなかった。
そこから休養明けとなった前走の富士ステークスは2着。ガイアフォースに逆転を許す形となる。
その前走はコンクリートレベルの高速馬場で、前後半4F46秒7-46秒0というかなりのスローペース。ここではガイアフォースが逃げ馬の外3番手で突っ張ったために、本馬は終始2頭分外を回るロスを作ったことが痛かった。
また、前走は2走前の安田記念よりもペースが遅く、前に壁が作れなかったことで、ここでもかなり掛かっていた。折り合いに課題があり、昨年の皐月賞3着時のように超ハイペースを先行するか、前に壁を作って折り合わせる形がベストだ。
今回は前走よりもペースが上がりそうだが、上述したように極端なハイペースは考えにくい。また、前走では2走前の安田記念に次ぐ自身2番目の指数を記録しており、今回でしっかり上昇しきれない可能性もある。それでも、ここでは堂々の能力値1位。絶対に買っておきたい馬だ。
【能力値2位 ガイアフォース】
2023年、24年の安田記念ではともに4着だったが、今年の安田記念では2着と健闘した。
同レースでは7番枠からやや出遅れ、軽く促して中団中目を追走。道中では外から寄られて進路が狭くなり、一列位置が下がる不利。3角手前で中団中目から外に誘導したが、外に出し切れないまま3角に入る。
3~4角では包まれて進路がない状態だったが、4角では前の馬が下がった影響で一列位置が下がって直線へ。序盤でワンテンポ待ってソウルラッシュの後ろから外に誘導し、ラスト2Fで中団に食らいつく。ラスト1Fではグンと伸びてソウルラッシュをクビ差で捉え、2着を確保した。
ジャンタルマンタルの章でも触れたように、今年の安田記念は前有利の展開だったが、二度も位置が後退し、3~4角では外目を回るロス。さらに上がり勝負となった中で仕掛けがワンテンポ遅れており、スムーズな競馬ならジャンタルマンタルと際どい決着になっていた可能性が高い。
安田記念は折り合うことができていたことが大きな収穫で、前走の富士Sではジャンタルマンタルを逆転。前走はかなりのスローペースを逃げ馬の外2番手で突っ張り切って、ジャンタルマンタルに終始外を回るロスを作らせている。鞍上の技ありの勝利だった。
今回は休養明けの前走で自己最高指数を記録した後の一戦とあって過大評価は禁物だが、これまでのレースぶりから一転して楽に先行できた点は、ここへ来ての充実度を感じさせる。ジャンタルマンタル同様に軽視してはいけない馬だ。
【能力値3位タイ ソウルラッシュ】
長らく芝マイル路線で活躍してきた実績馬。昨秋のマイルCSで悲願のGⅠ制覇を達成した。
同レースでは3番枠からやや出遅れ、いつものように後方から追走。道中で後方外目から中目に入り込みながら3角に入る。
3~4角で中団馬群の中目のスペースを拾って進出し、4角で馬場の良い外目に誘導。直線序盤では好位列の外からさらに外へ進路を取りながらしぶとく伸び、先頭列付近へ。ラスト1Fで先頭のウインマーベルを捉えて抜け出すと、2馬身半差で完勝した。
このときの京都芝は前日の10Rまで雨が降り続いた影響で時計を要しており、標準レベルの馬場。前後半4Fは45秒7-46秒3と2014年に次ぐハイペースで、やや差し有利の展開。馬場と展開に後押しされた勝利だった。
本馬は芝1800mのドバイターフでも勝利しているように中距離色が強く、上がりの掛かる馬場と展開でこその馬。富士Sのような超高速馬場で上がりの速い決着は分が悪く、昨年も今年も伸び負けする形で2着、3着に敗れている。
特に今年の富士Sはコンクリートレベルの高速馬場で、レースの上がり3Fが33秒4と極端な上がり勝負かつ前有利の展開となっており、先行したガイアフォースやジャンタルマンタルを捉えることができなかった。
今年も昨秋と同じローテーションで挑む形になるが、今年はバルサムノートのような逃げ馬不在でペースが上がりそうもない点と、昨年ほど極端な外有利の馬場ではない点が不安。あとは今年の安田記念後の骨折の影響で順調に上昇しない可能性も考える。このことから本命に推すまでは至らず、対抗評価にとどめた。
【能力値3位タイ アスコリピチェーノ】
国内では7戦5勝、2着2回と一度も連対を外していない。
昨年のNHKマイルカップでは2着とジャンタルマンタルに敗れているが、このときは最後の直線序盤で同馬に蓋をされ、内を狙ったが失敗に終わり、馬群に突っ込んで数々の内の馬に不利を与えながら、自身も体が沈み込んで立て直すなど致命的な不利があったもの。ジャンタルマンタルとの勝負付けはまだ済んだとは言えない。
昨秋の京成杯オータムハンデキャップでは、3歳馬ながら古馬相手に完勝。ここでは10番枠からやや出遅れたが、押して中団中目のスペースを挽回して行く形。道中はある程度流れていたが、3~4角でややペースが落ちると、じわっと促して4列目で直線へ。序盤で一気に先頭列付近まで上がり、ラスト1Fで突き抜けて1馬身1/4差で完勝した。
当時は中山開幕週のコンクリートレベルの高速馬場で、前後半4F45秒6-45秒2の平均ペース。内有利のなか終始外を回るロスを作りながら、4角付近から加速する流れを抜け出して勝利している。
近走はテンに置かれるところもあるが、エンジンが掛かってからがしぶとく、本質は1800mくらいがベストの馬なのだろう。
2走前のヴィクトリアマイルでは1着。外有利の馬場で、アリスヴェリテがハイペースで引っ張ったことで展開に恵まれる形。クイーンズウォークをなんとか差し切る形での勝利だった。この内容自体は物足りないが、1351ターフスプリントを勝利した後の始動戦で、能力全開とはならなかったと見ている。
前走のジャックルマロワ賞は6着。ドーヴィル競馬場は欧州としては起伏が少なく、ほぼ平坦なコースで、良馬場だった昨年は1分33秒98(日本の計測方法ならあと約1秒速い)という日本国内でもよく目にするようなレベルの時計が出ている。
今年は稍重で、暫定前後半4F49秒20-45秒07というかなりのスローペースになったが、欧州特有の粘土質で日本馬にとってはタフな馬場だった。
本来差し馬の本馬が、2番枠からやや出遅れながらもスローを意識して外ラチ沿いの2列目を取りに行ってはさすがに苦しく、ラスト1Fで伸び切れなかったのも無理もない。まして前走はスタミナが不足する休養明けでもあった。
実績のある国内で本来の後方待機策なら巻き返せると見て、ここでは対抗評価も視野に入れていたが、5番枠と内枠に入った点は不安。スムーズなら上位争いに加われるとみているが、3~4角からエンジンをかけて行きたいタイプだけに、3~4角のペースダウンで包まれてしまうと、エンジンがかかり切らずに終わってしまう危険性もある。
【能力値5位タイ レーベンスティール】
芝1800mと芝2200mの重賞で計4勝の実績。2023年のセントライト記念や24年のオールカマーでも優勝しているが、ともに超高速馬場のスローペースで掛かる面を見せており、自己最高指数を記録したのは芝1800mで比較的折り合いもスムーズだった昨年のエプソムカップと前走・毎日王冠である。
前走は9番枠からまずまずのスタートを切って先行策。コントロールしながら2列目の中目で進めていたが、外から主張したサトノシャイニングを行かせて好位の中目で3角へ。
3~4角でもサトノシャイニングの後ろで我慢。3列目で直線を迎え、序盤で外に誘導しながら3番手を確保する。ラスト2Fでは2番手に上がり、先頭のホウオウビスケッツとは3/4差。ラスト1Fで同馬を捉え、半馬身差で勝利した。
このときはコンクリートレベルの高速馬場で、前後半4F46秒7-45秒4のスローペース。ペースは遅かったが、サトノシャイニングを壁にしてからは折り合いがついていた。ただ、折り合いがついていた2走前のしらさぎステークスで7着と崩れている辺りに、芝1600mへの適性には不安を感じさせる。
このときは3~4角で好位の中目で包まれ、序盤で仕掛けをワンテンポ待たされたが、しっかり進路を確保してからも伸びは地味。ラスト1Fで外から進路をカットされているが、川田将雅騎手が立ち上がるオーバーリアクションほどの不利でもなかった。
しかし、ややタフな馬場で消耗戦となった今年のアメリカジョッキークラブカップ出走馬は、ダノンデサイルのドバイシーマクラシック優勝の華々しさとは裏腹に、そのあとにスランプに陥った馬が多数いる。
本馬も2走前は本調子ではなかった可能性も高いだけに、ここで消すのは怖い。また、AJCC10着馬ディープモンスターなどの夏以降の復活劇を見ても、ここは警戒したい。
【能力値5位タイ オフトレイル】
例年、マイルCSの前哨戦はスワンS<<富士Sのところがあるが、今年はスワンSと富士Sの決着指数の差が小さく、意外とスワンSのレベルが高かった。そのスワンSの勝ち馬が本馬である。
前走は7番枠から出遅れ後方からの追走。道中でじわっと促し、後方から中団馬群のスペースを拾って中団中目で3角に入る。
3~4角では中団中目で包まれたが、直線序盤で外に進路を取って追い出し、しぶとく伸びて3列目付近に上がる。ラスト1Fでも伸び続け、まとめて前を捉えてクビ差で勝利した。
このときはコンクリートレベルの高速馬場で、前後半3F33秒5-34秒0の緩みない流れ。後方有利の展開だったが、芝1400mで2馬身も出遅れたなか、3角までに位置を挽回しての勝利だった。
本馬は福島芝1800mのラジオNIKKEI賞優勝の実績があるが、その次走の毎日王冠ではかなり掛かって12着と崩れ、短距離路線に転向。トップスピードを長く持続できるので本質の距離適性は芝1800mくらいだが、折り合い面を考えると芝1400mのほうが好ましい。
2走前は芝1600mの関屋記念で2着。ここではシンフォーエバーが大逃げを打って緩みなく流れたことでそれほど折り合いを欠くことなく、また1番枠からスタートを決めて最内をロスなく立ち回れたことも好走要因である。
折り合いさえつけば1600mでもこなせる馬なので、中盤で坂の上り下りがあって掛かりにくい京都芝1600mなら通用して不思議ない。
ただし、今回は休養明けの前走で展開に恵まれ、最高値タイの指数を記録した後の一戦。余力面での不安がある。現状では当落線上の一頭で、当日の京都芝がタフ寄りになれば買う方向に踏み切りたい。
本命はマイル適性が高いウインマーベル
ウインマーベルは2022年スプリンターズステークス2着をはじめ、短距離路線で活躍していたが、初めての芝1600m起用となった昨年のマイルCSで3着と好走した。
ここでは14番枠から好スタートを決め、内の各馬を行かせて好位の外を追走。道中ではバルサムノートが飛ばして行ったが、好位の外で我慢させる形で進めた。
3~4角で早めに仕掛けて2列目の外に誘導し、4角出口で大外の馬場の良いところを選択して直線へ。序盤で先頭に立ってクビほど前に出たが、ラスト1Fで苦しくなってエルトンバローズにクビ差捉えられた。
昨年のマイルCSは標準レベルの馬場で、ハイペースかつやや差し有利の展開。それを好位の外から早め先頭に立って善戦したのは、マイル適性が高ければこそ。そこで昨年の京王杯スプリングカップ優勝時に次ぐ高指数を記録している。
今春の安田記念では5着に敗れているが、スローで逃げるマッドクールの外2番手で折り合いを欠いたもの。展開は楽だったがかなり掛かっており、本馬は昨年のマイルCS時のようにペースが速くなったほうがいい。
前走のスワンSでは4着に敗れているが、オフトレイルの章でも触れているように今年のスワンSは例年よりもレベルが高かった。そのうえ超高速馬場で緩みない流れを2列目の最内で進めたために苦しくなってしまったが、これは休養明けの影響もあったはず。しかし、前走で厳しい流れを経験したことで、今回は息持ちが良くなると見ている。
今年は同型馬不在で逃げる可能性が高いが、京都芝1600mならある程度行かせても極端なハイペースにはならないので巻き返せると見る。ソウルラッシュがスケールダウンしていた場合にはおのずとチャンスが巡ってくるし、同馬に昨年同様の走りをされたとしても3着なら十分ありそう。今回の本命馬だ。
※パワーポイント指数(PP指数)とは?
●新馬・未勝利の平均勝ちタイムを基準「0」とし、それより価値が高ければマイナスで表示
例)ジャンタルマンタルの前走指数「-22」は、新馬・未勝利の平均勝ちタイムよりも2.2秒速い
●指数欄の背景色の緑は芝、茶色はダート
●能力値 =(前走指数+前々走指数+近5走の最高指数)÷3
●最高値とはその馬がこれまでに記録した一番高い指数
能力値と最高値ともに1位の馬は鉄板級。能力値上位馬は本命候補、最高値上位馬は穴馬候補
《ライタープロフィール》
山崎エリカ
類い稀な勝負強さで「負けない女」の異名をとる競馬研究家。独自に開発したPP指数を武器にレース分析し、高配当ゲットを狙う! netkeiba.com等で執筆。好きな馬は、強さと脆さが同居している、メジロパーマーのような逃げ馬。
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