【シンザン記念回顧】時計を要しながらも加速ラップを描いたリラエンブレム 操縦性の高さと力強さが光った一戦
勝木淳
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アルテヴェローチェ参戦が引き金に
先日の朝日杯FS1番人気だったアルテヴェローチェの参戦によって、メンバーレベルは一段あがった。というのも朝日杯FS経由での出走馬は、シンザン記念ではよく見かけるものの、1番人気馬の参戦は2005年ペールギュントだけ。間隔を詰めての参戦はGⅠ大敗組や伏兵ばかりだった。入れ込みが原因で5着に敗れたとはいえ、GⅠ主役級がシンザン記念に参戦することは極めて珍しい。
ちなみに、前走朝日杯FSで2番人気以内の馬は【3-0-0-0】。3頭とも1番人気に支持され、それに応えた。だがその後、3歳のうちに勝利したのはエーシントップ1頭のみ。GⅠから間隔を詰め、重賞を勝ち切ってしまうと、反動が出やすい。
2着に終わったアルテヴェローチェはどうだろうか。3戦連続マイル以下という戦績から、大一番はNHKマイルCに違いないだ。このあと休む時間はとれるが、直行だと間隔が長い。3歳春はローテーションが難しい。
アルテヴェローチェの参戦が引き金になったか、レースは全体的に締まった流れになった。中団のアルテヴェローチェに対し、前を行く馬はなるべくアドバンテージをとって直線を迎えようと、差し馬勢はアルテヴェローチェを意識した位置に収まりたい、と考えたか。
直近で逃げた馬は未勝利をスローで逃げ切ったラージギャラリーぐらいで、さして飛ばす馬は見当たらなかったが、勝負所まで一団で進んだ流れは序盤600m35.1、800m46.8。2ハロン目から3F連続11秒台と先行勢には負荷のかかる競馬になった。
出遅れたレーヴブリリアントが途中で動き、ハナに立つなど落ち着かなかったのも、アルテヴェローチェの存在があったからではないか。初手で先行集団を形成したアーリントンロウ、タイセイカレント、ゴールデンカイトは3コーナーで早くも位置を下げる形になってしまい、マイペースを守れなかった。ここは見直す余地ありだ。
混戦向きの立ち回りが光るリラエンブレム
全体的に前に比重がかかる流れのなか、勝ったリラエンブレムも初手は好位の内を確保。2コーナーから向正面では外から押し込められ、3コーナーから位置が下がる厳しい形になりながらも、人馬とも焦らず騒がずひと呼吸置いたことで、その後は馬群の切れ目から外へ持ち出せた。これが最大の勝因。待ったことで絶好のコースを抜けられた。
先週月曜日に雨中で開催され、一気に傷みが進んだ芝は4コーナーの損傷が特に激しい。ボコボコになった馬場で最速区間を迎えれば、なかなか対応できない。まして力がつき切っていない3歳ならなおさらだろう。
後半800mは12.0-12.1-11.9-11.8、47.8。レース上がり35.8と要したのは、馬場と展開の影響であり、時計を要しながらも加速ラップを描いたのは、持続力の証。リラエンブレムは上がり最速35.1を記録。好位の後ろから上がり最速では、後ろの馬が差すのは難しい。キャリア2戦でみせた操縦性の高さと、馬場を苦にしない力強さは評価できる。
当然、NHKマイルCが目標になるだろうが、東京の高速上がりへの対応はカギになる。上がり最速が35.1というレースを制した以上、33秒台の瞬発力に対しては不安が残る。だが、NHKマイルCはハイペースになりやすいレースであり、瞬発力勝負の軽い競馬にならないかもしれない。一定のラップを踏み、ゴールまで持続力を問う流れであれば、台頭もあるだろう。シンザン記念の4コーナーでみせた立ち回りは今後も混戦で生きてくる。
中距離に可能性を残すタイセイカレント
2着アルテヴェローチェは格上らしく終始、外を回り、ねじ伏せる形で一度は先頭に立つも、下げて後ろから来たリラエンブレムに差された。後ろから差されてしまったのは不満も、直線はフワフワした走りで、まだ幼さを感じた。イレ込むところなど、気性面が課題だ。その分、伸びしろはある。モーリス産駒だが、母の父ディープインパクトっぽいところがあり、リラエンブレムより軽い馬場が合う。
3着は14番人気ウォーターガーベラがマイネルチケットをハナ差とらえた。兄は昨年シンザン記念で同じくブービー人気から3着に激走したウォーターリヒトであり、非常に分かりやすい血統馬券といえる。あまりに単純だったので、逆に目に留まらなかったのは反省だ。
兄と似て、現時点では自ら勝ちにいくような競馬はできない。だが、兄は秋に3勝クラス、オープンを東京マイルで連勝。先日の京都金杯も2着と好走した。妹も春は成長待ちだが、いずれ通用する存在だ。もう少し早く成長できれば、あるいは春だって面白い。
5着タイセイカレントは枠なりに内へ潜り、最短距離で抜け出す策に出たが、レーヴブリリアントが早めに動いたことで、直線では進路を失った。イチかバチか強引に間を割ろうとした結果、斜行により武豊騎手は5年7カ月ぶりに騎乗停止になった。
珍しく荒っぽい騎乗をみせたが、手応えを踏まえれば、あのまま馬なりでゴールというわけにはいかない。もう少し待てばレーヴブリリアントが下がり、進路ができたようにも見えるが、それではタイミングが遅い。難しい判断だった。
タイセイカレント自身も少しギアチェンジがスムーズではないところがあり、反応が遅い。その分、先へ先へ仕掛けたかった。アルテヴェローチェと同じモーリス産駒だが、母系はガリレオ、ハービンジャーの父ダンシリと日本だと少し重い配合。今後も勝ち味の遅さがつきまとう。現状は成長待ちか。中距離挑戦もありではないか。
ライタープロフィール
勝木 淳
競馬を主戦場とする文筆家。競馬系出版社勤務を経てフリーに。優駿エッセイ賞2016にて『築地と競馬と』でグランプリ受賞。主に競馬のWEBフリーペーパー&ブログ『ウマフリ』や競馬雑誌『優駿』(中央競馬ピーアール・センター)にて記事を執筆。Yahoo!ニュースエキスパートを務める。『アイドルホース列伝 超 1949-2024』(星海社新書)に寄稿。
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