【有馬記念回顧】レガレイラ「64年ぶり快挙」と戸崎圭太騎手の完璧なエスコート 来年は確たる軸なき混戦模様に?

勝木淳

2024年有馬記念レース結果,ⒸSPAIA

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超スローを制した戸崎圭太の手腕

2024年12月22日に中山競馬場で開催された有馬記念は、戸崎圭太騎手騎乗の3歳牝馬レガレイラが優勝。3歳牝馬の優勝は実に64年ぶり。JRA70周年を締めくくるグランプリにふさわしい結末ともいえる。

今秋の競馬のど真ん中にいたドウデュースが金曜日に出走取消。それ以前と以後ではレースの構図は様変わりした。

その混乱は尾を引き、最終的な人気はアーバンシック(菊花賞)、ダノンデサイル(日本ダービー)、ベラジオオペラ(大阪杯)と今年のGⅠ馬が並び、ジャスティンパレス、レガレイラと前年GⅠ馬が続いた。

上位人気が比較的記憶に新しい順だったのが、馬券購入者たちの混乱を示している。◎候補ドウデュースを失い、路頭に迷ってしまった。

ど真ん中がいなくなった有馬記念だが、ずっと変わっていなかったのが展開だ。メイショウタバルやホウオウビスケッツが除外され、逃げ馬が一切いない競馬になった。

中山芝2500mで先行するなら、枠順のアシストが欠かせない。みえみえのスローなら、機先を制するのは内枠のダノンデサイルかベラジオオペラ。スタートはベラジオオペラだったが、ハナはダノンデサイル。スタート直後の一瞬のことだった。ベラジオオペラの行く気のなさを察知してのハナ。小さな攻防も有馬記念の楽しみにひとつだ。

ダノンデサイルがハナなら、ペースは上がらない。戦前からの予想以上に遅く、1000m通過は推定1:02.9。これは9Rグッドラックハンデキャップの1:02.1より遅い。勝ち時計は0秒4速いので、後半の脚力はさすがにGⅠ級だったが、これだけ遅く末脚勝負になれば、距離適性は問われない。

中山芝2500mは流れが速ければステイヤー適性が必要だが、遅いと距離は考えなくていい。レガレイラの勝利にはそんな事情もある。この勝利で長距離志向とは決められない。

とはいえ、ホープフルSが鮮烈すぎた分、末脚頼みの馬になってしまい、今年は遅れ差しの競馬が目立った。スローを利用し、思い切って好位につけ、自力で勝ちに行く競馬にシフトチェンジした戸崎圭太騎手の導きは完璧だった。


シャフリヤールと併せ先着を許さない勝負根性

スピード競馬の現代では、自力で勝ちにいけないと成績は出せない。ドウデュースのような希代の末脚を繰り出せるなら別だが、後ろから進んで、勝てるほど甘くない。

超スローのためほぼ一団のまま2周目4コーナーを迎えており、勝つチャンスは各馬あった。残るは消耗具合だけ。前進気勢を抑え込まれるうちに、リズムを失った馬も多かった。

レガレイラは直線入り口で外に出し、大外から進出したシャフリヤールと併走することに。正直、中山の直線でダービー馬とびっしり併せ、先着できるとは思っていなかった。

今年はひとつも勝てないながら、敗戦を糧に逞しさを増していた。斤量差はあったものの、ダービー馬とびっしり競り合って抜かせなかった。その勝負根性こそがレガレイラの真骨頂だ。来年以降もこういった粘る競馬を展開すれば、結果を残せるだろう。

それにしても、この世代は昨年もレガレイラが最後にビッグタイトルを手にし、最優秀2歳牝馬のタイトルは混戦となったが、今年も最優秀3歳牝馬は難しくなった。牝馬二冠チェルヴィニアと有馬記念レガレイラ。どっちを上にするか、判断に悩む。クラシック至上主義ならチェルヴィニアだが、有馬記念のインパクトは大きい。


来年は確たる軸なき一年に

2着は2年連続で大外枠から。波乱の立役者はシャフリヤール。ダービー馬が10番人気とは舐められすぎた。

人気急落の要因は大外枠に尽きるだろう。だが、大外枠に入り人気を落とした実績馬が2年連続で気を吐いた。もう、有馬記念の公開抽選で肩を落とさなくていいのではないか。大外枠で前に壁がない状況でも完璧に折り合い、超スローを乗り切った。これぞ世界を渡り歩いたダービー馬の経験値だ。

勝利こそ2年前のドバイシーマクラシックからないが、世界を相手に互角の勝負を演じてきた。そのプライドが大外枠での完璧な立ち回りにみえた。着差はハナ差。外を回って先に動いた分の差といえばそれまでだが、届いてほしかった。

3着ダノンデサイルはマイペースに持ち込み、ダービー馬としての力は示した。だが、絶妙な立ち回りのダービー、チグハグになった菊花賞を考えると、今回の逃げはリズムを取り戻すという意味合いがあったか。ドウデュース云々関係なく、機会があればハナを狙っていたと推察する。

しかし、逃げたことで、馬の後ろで折り合うなど積み上げたものが失われる危険性はある。今後、どういったレースをするのか。戦法を想定するのに迷う。

来年はレガレイラとダノンデサイルの年といえるのか。混戦の有馬記念を抜けた先には、ドウデュースらが引退し、より一層、混戦の絵が広がる。

ひとまず、上記3歳2頭とアーバンシック、シンエンペラー、ドゥレッツァあたりが中心だろうが、確たる軸はいない。馬券的には楽しそうな一年になりそうだ。


2024年有馬記念レース回顧,ⒸSPAIA


ライタープロフィール
勝木 淳
競馬を主戦場とする文筆家。競馬系出版社勤務を経てフリーに。優駿エッセイ賞2016にて『築地と競馬と』でグランプリ受賞。主に競馬のWEBフリーペーパー&ブログ『ウマフリ』や競馬雑誌『優駿』(中央競馬ピーアール・センター)にて記事を執筆。Yahoo!ニュースエキスパートを務める。『アイドルホース列伝 超 1949-2024』(星海社新書)に寄稿。

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