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【中山記念】さらば、アポジー!マルターズアポジーが引き出した実績馬のポテンシャル

2020/03/02 11:40
勝木淳
2020年中山記念インフォグラフィック

ⒸSPAIA

さらば、アポジー

2020年中山記念インフォグラフィック

春の中山開幕は伝統のGⅡ中山記念。出走馬9頭中GⅠ馬が5頭集結した。

中山記念を連覇、香港のGⅠ連勝のウインブライト、春秋マイルGⅠ制覇のインディチャンプ、昨年の2着馬でエリザベス女王杯を勝ったラッキーライラックとそうそうたるメンツが揃った。だが、レースが行われた競馬場は無観客だった。なぜ、こんな事態になってしまったのかについては本記事の主旨から外れるので割愛するが、マルターズアポジーの最後の姿だけは見届けたかった、それが本音だ。

最初は抑えて最後に速い脚を使う、現代競馬の主流からかけ離れた存在、それがマルターズアポジー。父ゴスホークケンはどんな流れ、どんな競馬をしたとしても最後の3ハロンがほぼ同じという一本調子なところがあった。

それをそっくり受け継いだのがマルターズアポジー。キャリア40戦で初角を1番手で回らなかったのはたった4度という生粋の逃げ馬である。福島記念、小倉大賞典、関屋記念とGⅢ3勝は全て逃げ切り勝ち。2、3着はたった5度、勝つときは鮮やかであり、負けるときは大敗を喫する。逃げ馬らしい潔さである。

重賞3勝そのすべての手綱をとった武士沢友治騎手を背に挑んだ最後のレース、観客がいない中山競馬場をマルターズアポジーは逃げた。向正面では同じく引退レースのソウルスターリングにマークされるが、それ以下は離し、ラップを一切緩めない走りは彼の真骨頂である。11秒台後半のラップが続き、1000m通過59秒3と緩みがない、強くなければ生き残れない流れとなった。常に他馬のポテンシャルを引き出す、これがマルターズアポジーのすばらしさなのだ。最後の直線は力尽き、6着。テレビの前から拍手を送った。

1800mのスペシャリスト

勝ったダノンキングリーは底力が問われるペースをインの3番手から直線だけで抜け出して快勝した。抜け出した地点はマルターズアポジーが脱落した残り400~200mの11.3。

毎日王冠と中山記念、問われる適性が異なる舞台でも安定した末脚を使える、まさに1800mのスペシャリストである。ただしそれはGⅠが実施されない距離。このジレンマをいつまで抱えるだろうか。マイル戦では位置取りが下がってしまい、不利を受けやすくなる。この先は調教を積みスタミナを強化しつつ、先行力が生きる2000m戦で最後どこまで我慢できるかにかかってくるだろう。

明暗を分けた昨年の1、2着馬

2着ラッキーライラックは昨年に続いて2着。その昨年は勝利が求められる立場だったが、今年はGⅠ馬となり始動戦は余裕を持たせた状態だった。昨年と同じように3、4角で一旦手応えが悪くなりながら、最後の直線で盛り返すように伸びて2着。中山適性があるとはいえないなかでの2着は前途洋々。今年も昨年に引き続き大仕事をしそうな予感だ。

3着は引退レースと言われたソウルスターリング。マルターズアポジーの緩みない流れを最大限に利用したレース運びだった。馬群で折り合いを欠く姿が多かったが、最後に伸び伸びと走らせることができたことが好走要因だろう。続戦という報道も一部であるが、今後も気性面の不安を解消するようなレースが肝要だろう。

3連覇に挑んだウインブライトは7着。主戦松岡正海騎手の離脱は大きかったが、ミナリク騎手云々というより、今回はパドックでのんびりしており、仕上げに余裕があったような印象。ミナリク騎手が仕掛けようにも馬が反応していなかった。使いながら状態を上げるタイプであり、悲観するようなものではない。

マイルGⅠ2勝のインディチャンプは4着。馬体重+16キロのせいか、内枠でもかなり行きたがる場面があった。懸命になだめつつ、勝ったダノンキングリーの進路を追いかけるもラッキーライラックに競り負け、前にいたソウルスターリングも捕らえられなかった。せめて3着はほしかったところで4着、やはり1800mは同馬にとって明らかに長い舞台である。マイル戦での巻き返しに期待したい。

ライタープロフィール
勝木 淳
競馬ライター。競馬系出版社勤務を経てフリーに。優駿エッセイ賞2016にて「 築地と競馬と」でグランプリ受賞。中山競馬場のパドックに出没。主に競馬のWEBフリーペーパー&ブログ『ウマフリ』や競馬雑誌「優駿」にて記事を執筆。