【有馬記念】データ的に「JC1.0秒差の壁」があるが、それでも東大HCは高配当狙いのエタリオウ

ⒸSPAIA(撮影:三木俊幸)/p>
出走メンバーに要注目
12月22日(日)に中山競馬場で行われるのは有馬記念(GⅠ・芝2500m)。競馬ファンはもちろん、そうでない人にも広く認知されている年末の風物詩だ。また、今年はアーモンドアイやリスグラシューの出走で日本のみならず世界のホースマンからも注目を集める一戦となった。
今回は有馬記念ということで、いつも以上に気合を入れて、データで解剖していく。また、年末に一発どでかいのが欲しい、というファンのために人気の出ないような馬にもスポットを当てたいと思う。
まずはコースの特徴や馬場傾向、レース展開を分析していこう。

有馬記念の過去10年で1~3着馬の脚質に注目すると、2009年から13年まで馬券圏内に入った15頭のうち先行していたのはわずか4頭。つまり、残り11頭の道中の位置取りは全て中団ないし後方。この時は差し追い込み馬に有利なレースだったといえるだろう。
しかし2014年を境に直近の5年を見てみると、示しているのは真逆の様相。14・15年がスローペースだったこともあるが、半分以上が逃げか先行。それまでとは打って変わって前有利のレースに変貌を遂げた。
転換点となった2014年の秋には、芝コースの路盤改修が行われていた中山競馬場。工事の結果、以前と比べて水はけがよくなり、開催が進んでも良好な馬場状態が保たれるようになった模様。有馬記念は厳冬の中山で開催4週目以降に施行されるため、かつては内側の芝が傷んでいることが多かった。近年の馬場整備技術の進歩がもたらした変化と言えよう。
それゆえ基本的には「前目で器用に」という馬を狙っていくべきなのだろうが、今年に関してはペースが速くなりそうな気配濃厚。マイルGⅠでも逃げられるスピードを持ったアエロリットが恐らく逃げるが、8枠15番。競りたくはないものの逃げがベストのクロコスミア、先頭に立つまで行きたがる面をのぞかせるキセキもいる。オールカマーを逃げ切ったスティッフェリオもこの枠なら逃げに色気も出しそうで、隊列が落ち着くまでにひと悶着ある枠の並びになった。
さらに、断然の1番人気が確定的なアーモンドアイには、ハーツクライでディープインパクトを撃破した05年を始め、エイシンフラッシュ、オーシャンブルー、サトノダイヤモンドでの好走など有馬記念に滅法強いルメール騎手が騎乗。彼の有馬記念での騎乗スタイルはとにかく好位を確保して、ロスの少ない進路取りをしてくるのが特徴。アーモンドアイがそのスタイル通り先行した場合、これを負かそうとバチバチに意識してくるサートゥルナーリアやリスグラシューらも楽な競馬はさせまいとプレッシャーをかけてくるだろう。
そうなった場合、もし実力で劣る馬にチャンスが出るとすれば、先行して残すという作戦よりはじっくりとスタミナを温存して後半勝負にかける乗り方だろう。近年の傾向には反するが、今年のメンバー構成に限れば差してくる伏兵に期待をかけるのもありだと思う。
枠順抽選の悲喜こもごもは正しい?
スタートしてすぐコーナーを迎えることから内枠有利のイメージが強く、枠順抽選会でも内枠を得た陣営が歓喜し、外枠になってしまった陣営はなんとも言えない苦い表情を浮かべていたが、実際の勝率データも見てみよう。

データの抽出期間は先述した路盤改修が行われた後の2014年秋以降とした。勝率トップは1枠だが、意外にも2位は8枠だった。内か外かの2択で言えば確かに内枠有利の傾向が複勝率などに現れているが、個人的な感想としては「イメージほど差が大きくないな」という印象を抱いた。外すぎなければOK、くらいに捉えておこう。
続いて先週の馬場傾向を考えていく。今開催の中山は総じて内有利で推移してきた。先週もそれは同様で、コントラチェックがマイルを1.32.2という好タイムで逃げ切ったように速い時計も出る水準。傾向が変わらなければ内でレースを運びたいところ。
ただ、日曜の中山は今のところ雨予報が出ている。昨年も有馬記念前週までは内有利のイメージで予想していたところ、当日雨が降って傾向が一変。1~3着のブラストワンピース、レイデオロ、シュヴァルグランは全て道中外を回ってきていた馬で、特にシュヴァルグランは圧倒的に不利と思われる8枠で人気を大きく落としていたが、フタを開けてみたら問題なかった。最終的には当日の雨量や傾向を見てから判断したい。
ここまでの内容を整理すると、
1.今年のメンバーと枠の並びならハイペース濃厚。差し馬の一発を狙う
2.コースデータから内枠有利。ただしイメージほど極端ではない
3.今開催の馬場状態は内有利だが、雨が降ったら一変の可能性も
ということになる。以上を踏まえて出走馬の検討に入ろう。
データ上は狭き門だが…
まずアーモンドアイについて。デビュー2戦目以降は連戦連勝を続けていた同馬が唯一負けたのが今年の安田記念。天皇賞(秋)の予想記事に『海外遠征帰り、ベストよりは若干短いマイル、極端な内有利馬場で外枠、スタート後不利という悪条件が重なっていた。それでも直線は進路を探しながら外に出し、上がり32.4の鬼脚で猛然と追い込んで(完璧に立ち回った上位2頭と)小差3着というもの。「負けて強し」どころか「負けて怪物」と言っていい内容だ』と書いたのだが、この評価が間違っていなかったことを前走で証明してみせた。
熱発で香港遠征を取りやめたようだが、症状は軽微だったようだし、過保護なくらい大事に使われているこの馬がわざわざフィエールマン騎乗予定だったルメール騎手をスライドさせてまで出走する以上は状態不安など微塵もあるまい。直線の短い中山で不安の声もあるようだが、鞍上は有馬記念が世界一うまい男・ルメール。後方から追い込んで届かず、などという無策な競馬は絶対にしないだろう。
しかし、アーモンドアイに逆らえないとなるとオッズ的な旨味を他の馬で探さなければならなくなる。そういう意味で、アーモンドアイより馬券の中核を担う馬を本命にして、こちらは印上、対抗にとどめておく。
過去10年の有馬記念で4番人気以下ながら馬券に絡んだ13頭に注目すると前走ジャパンC組が6頭、それ以外のレースから来ていた馬が7頭だった。前走ジャパンC組が、そこでどういう結果だったのかに注目すると、1位入線馬から0.6~0.9秒差で負けていた馬の成績がやたらといい。当然ながら東京芝2400mと中山芝2500mではレースの質が全然違うため、1秒以内の“ほどよい”負けくらいなら巻き返せるということだろうし、人気を落とすので旨味もある。
ちなみに、11年前なのでデータには入っていないが2008年に14番人気2着でアッと言わせたアドマイヤモナークも前走ジャパンCで0.8秒差負けという内容だった。一方で、1.0秒以上負けていた馬は【0-0-1-21】とほぼ巻き返し不可能。いわば「JC1.0秒差の壁」が存在している。

そんなジャパンCでちょうど1.0秒差の7着だったエタリオウにこの壁を打ち破ってほしい。2走前の京都大賞典は直線だけの追い込みで上がり最速5着、前走は1,2,4,5,6着を3・4コーナー中間地点でラチ沿いを走っていた馬が占めたように極端な内有利馬場だったが、そんな中で外めの好位からしぶとく粘って7着は侮れない好内容。枠順抽選の結果2枠3番という好枠を引き当て、横山騎手も「非常に、いい。」とニヤリ。全く人気にはならないだろうが、3歳時に見せていた末脚が生きる形になれば3着以内の目がありそうだ。
3番手はワールドプレミア。春はズブさばかりが目立つ馬だったが、この2走で完全に開花。追い込み一辺倒だった馬が好発を決めて内目をうまく立ち回った前走に成長が見られた。脚質的にも鞍上的にも、アーモンドアイと自力で勝負というよりは前が競るのを尻目に虎視眈々、という競馬を狙っているだろう。3歳勢の中では唯一スタミナに不安がないのが強み。来年以降につながるような走りが見たい。
4番手はリスグラシュー。かつては引っかかる面が強く、以前のままなら2500mという距離は長かったと思うが、昨秋あたりから道中の我慢が利くようになってきた。ベストは2000m前後でも今ならこなせて不思議はない。前走コックスプレートは勝ち方こそ鮮やかだが、相手関係が日本の中距離路線と比較する材料に乏しすぎて、海外GⅠ勝ちそれ自体で今回評価を上げることはない。あくまで春の評価を据え置きで4番手。
人気薄で数頭挙げるなら、少し外の枠になってしまったがヴェロックス。こちらは今年の自分の展開想定が外れた時、つまり近年に似た先行力が生きるレースになる場合に浮上してきそうなタイプ。菊花賞は外枠から先行して目標にされる形になったし、ちょっと距離も長かった分の3着。イメージ的には14年2着のトゥザワールドに近い。
キセキは歴史的な泥んこ馬場だった菊花賞を勝っている馬で、重馬場適性は十分。ステイゴールド産駒の重馬場適性はよく言われるが、ルーラーシップ産駒も道悪を苦にしない産駒が多い印象があり、その代表例だ。よって雨量によっては評価を上げたいが、キセキの場合、行きたがる面を見せるので逃げたい馬とモロにカチあってしまうリスクはある。折り合いがカギ。
以下、印は内枠を引いたスワーヴリチャードとフィエールマン。スワーヴリチャードは左回りの2400mがベストで、好枠も生かせた前走があまりにもドンピシャだった。人気になるなら後追いは避けたかったが、今回は他のメンバーが人気を集めそうなので素直に抑えておく。
フィエールマンは能力を発揮できれば。ただこれまで大事に大事に間隔をとって使われてきた馬がフランス遠征で極悪馬場大敗の反動は気になる。別記事でもディープ産駒の海外帰りの緒戦GⅠは不振と書いたが、この馬もいかにも使いべりしそうなタイプなので抑える程度に。
サートゥルナーリアは距離が駄目、左回りが駄目、地下馬道を通ると気性が暴発する、今年の3歳世代のレベルが相対的に低いなど色々な説がある。実際には何が正しいのかまだ判然としないが、全て正解という可能性もある。個人的にはやはり距離が気になるところで、神戸新聞杯こそドスローの2番手から最後の直線だけの競馬だったので、こなせたように見えたが、2500mでタフな流れになった時には不安が残る。他のメンバーが豪華ということもあり、今回は印が回らなかった。
▽有馬記念予想▽
◎エタリオウ
○アーモンドアイ
▲ワールドプレミア
△リスグラシュー
×キセキ
×スワーヴリチャード
×フィエールマン
☆ヴェロックス
《ライタープロフィール》
東大ホースメンクラブ
約30年にわたる伝統をもつ東京大学の競馬サークル。現役東大生が日夜さまざまな角度から競馬を研究している。現在「東大ホースメンクラブの愉快な仲間たちのブログ」でも予想を公開中。
