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【有馬記念】東大HCの獣医学専修生が診るパドックのチェックポイントは?

2019/12/21 17:00
東大ホースメンクラブ
2019年天皇賞秋時のアーモンドアイⒸSPAIA(撮影:三木俊幸)

ⒸSPAIA(撮影:三木俊幸)

今回のコラムのテーマは「パドック診断」。

2019年ジャパンC時のレイデオロⒸSPAIA(撮影:三木俊幸)

ⒸSPAIA(撮影:三木俊幸)

前回のパドック診断の記事では、調整過程を変えてきたスワーヴリチャードをピックアップし、「普段は一人引きでほとんど速歩にならない馬なので、同様の気配であれば問題無し。速歩が続いてしまうような状態であれば評価を下げたい」と書いた。それを踏まえ、当日のパドックを見た人はスワーヴリチャードが一人引きで落ち着いて歩いていたことから叩き2戦目で能力を十分に発揮できると考えただろう。結果は1着。鞍上の好騎乗もあったが、馬自身最後までしっかり足を伸ばして久々の戴冠となった。

一方、「気合が乗りやすく、テンションが課題の馬」と述べたレイデオロは、初めから二人引きで周回を重ねており、落ち着かず速歩になる姿が何度も見受けられた。結果は11着と大敗。能力を発揮することができなかった。

このように、パドックを通じ当日の馬の状態をよく観察することで、データでは消すことが難しい人気馬の取捨選択も可能となる。その際の観察ポイントは、第一に「馬の様子やテンション」、第二に「馬の体型」、そして「その馬の過去レースのパドックと比べる」だ。更に細かくいえば、騎手が跨った時点でレースに行くと判断した馬は興奮し、本来の状態が見えづらくなってしまうため、パドックは騎手が跨る前に見る方が良い。

過去の記事では、馬の様子やテンションを見る際のポイントとして「歩法」「発汗」「周回位置」「馬のリズム」「首の使い方」を挙げ、解説した。つまり、常歩で汗を掻かず、リズム良く首を使って外目を歩いている馬が良い状態といえる。

毛づやに関しては過去に「GⅠともなると手入れが非常によく行き届いており健康状態も良く、どの馬も毛づやが良いので素人目に判断するのは難しい」と述べたが、今回は「冬毛」について書きたい。

冬毛はその名の通り「冬の寒さから身を守るために生える毛」で、夏に生える毛よりも長くふわふわしている。春先の産地馬体検査の写真などでは、首や腹のあたりがモフモフしている馬を見ることができる。しかし、現役の競走馬は比較的温度管理された厩舎で飼養されていることに加え、運動量も豊富で筋肉が多く代謝も良いので冬場でも冬毛が伸びにくい。特に牡馬は、牝馬やセン馬に比べ冬毛が伸びにくいといわれている。

では、パドックで冬毛の生えている馬を見つけた場合はどのように評価すれば良いのだろう。休み明けなら代謝が良い状態まで戻り切っていない可能性があり、若い馬なら筋肉が未発達と考えられるため、少し評価を下げるのが良いだろう。ただし、冬毛が「生えやすい馬」と「生えにくい馬」というように個体差があるので、出来れば一年前のレースのパドックや写真と比較した方が、より正確に評価することができるだろう。

また、体型にも目を向けたい。特に、馬体重の増減が10キロ以上ある馬についてはよく観察し、「太りすぎ」なのか「痩せすぎ」なのかを見極めよう。その際、馬の腹のあたりを見れば分かりやすく、太っている馬はカーブが緩やかで、痩せている馬は股に向かって切れ上がっている。痩せていてテンションも高いような馬は、やや評価を下げたい。

以下、パドックでの注目馬とチェックポイントを伝授していく。

上位人気は好走時の状態維持がカギ

2019年天皇賞秋時のアーモンドアイⒸSPAIA(撮影:三木俊幸)

ⒸSPAIA(撮影:三木俊幸)

上位人気が予想されるアーモンドアイ、リスグラシュー、サートゥルナーリア、ワールドプレミアの中で、注目したいのはリスグラシューのパドックだ。昨年の夏に大きく馬体が成長したリスグラシューは、460キロ前後で競馬に臨めるようになって以降、GⅠでの成績も安定してきた。460キロ前後であれば宝塚記念時の好調を保てていると考えられ、宝塚記念時と比べ10キロ以上の増減があれば割り引きたい。そのため、帰国緒戦となる今回も馬体重に注目。

いつも外目をのびのびと周回しておりテンションにも課題がないアーモンドアイは、お手本のようなパドックでそれほど注目すべき点は無い。

サートゥルナーリアもパドックは比較的落ち着いているので、ひどくイレ込む様子がなければ問題無さそうだ。しかし、馬場入場後から発走までのテンションがこの馬の課題。パドック診断では無くなってしまうのだが、返し馬のテンションに注目したい。ワールドプレミアのパドックでは、いつもうるさい面を見せており、優勝した菊花賞のパドックでもSNSで話題になるほどの暴れっぷりだった。今回も賑やかなパドックになるとが想定されるが、この馬に関しては気にしなくて良いだろう。

帰国緒戦のパドックに熱視線

有馬記念はグランプリということで、海外遠征で世界と戦ってきた馬の参戦も目立つ。今回が帰国緒戦となるのは前述のリスグラシューに加え、フィエールマン、キセキ、ウインブライトが挙げられる。

2019年天皇賞秋時のアーモンドアイⒸSPAIA(撮影:三木俊幸)

ⒸSPAIA(撮影:三木俊幸)

この中で注目したいのはキセキだ。国内の近5走で、唯一馬券圏内を外した昨年の有馬記念では、パドック時に二人引きでも落ち着かない様子だった(前が牝馬であったことも原因の一つかもしれない)。それ以外の4走のパドックは、いずれも一人引きでほとんどテンションが上がる様子は無かったことから、帰国緒戦の今回はパドックでのテンションに注目したい。仮に、テンションに問題が無くても中山成績が悪いことで人気が落ちるようであれば、馬券的に非常に美味しい一頭だ。

穴馬のパドックも見逃せない

キセキⒸ明石智子

ⒸSPAIA(撮影:三木俊幸)

パドックに注目したい穴馬は、レイデオロ、スカーレットカラーの2頭。レイデオロはテンションが大きな課題の馬だが、決して能力が他に劣っているわけではない。むしろテンションという壁さえ乗り越えられれば、良い意味で裏切る可能性もあるので目が離せない。

前々走の府中牝馬Sでプラス8キロ、前走のエリザベス女王杯でプラス14キロ増のスカーレットカラーは、3走前のクイーンSで馬体が減っていたことを考慮しても、馬体が増えすぎてしまっていた印象。今回しっかりと馬体を絞って望めれば、能力を十分に発揮できそうだ。