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パドックの見かたを東大HCの獣医学専修生が伝授 天皇賞秋で注目すべき点は?

2019/10/27 06:00
東大ホースメンクラブ
2019年ダービー時のサートゥルナーリアⒸSPAIA(撮影:三木俊幸)

ⒸSPAIA(撮影:三木俊幸)

パドックで注目すべきところは?

今回のコラムのテーマは「パドック診断」。そもそもパドックって一体何を見ればいいの?と思っている方や、普段は新聞とにらめっこという方も多いはず。しかし、パドックには当日の仕上がりを見極めるヒントがたくさんある。そこで、東京大学「農学部獣医学専修」の筆者が天皇賞・秋出走馬のパドックでのチェックポイントを伝授したい。

当日の馬の状態はレース結果に大きな影響を与えるが、その状態が最も良く観察できるのがパドックである。2016年の天皇賞・秋で2着に好走したリアルスティールは、着外に沈んだ前走の安田記念のパドックでは二人引きにメンコ装着と万全の装備にもかかわらず落ち着いた周回ができていなかったが、一転して天皇賞・秋では一人引きにメンコなしでも落ち着いた周回を見せていた。

パドックではとにかく馬の様子を見るべきである。そして体型に注目する。ただし、異なる馬同士を比べるのはナンセンスだ。例えば先週の菊花賞勝ち馬ワールドプレミアは、パドックで首をブンブン振り回すなど気の悪いところを見せており、買うのを控えたくなるような様子だったが“ワールドプレミア的”にはいつも通りだった。つまり、1回だけ見て馬の状態を判断するのは難しく、その馬がどんな馬か知った上で見る必要がある。また、些細な点ではあるがパドックは騎手が跨る前に見るのが良い。なぜなら、騎手が跨った後は、馬がレースに行くと分かって興奮しやすく馬本来の状態が見えづらくなってしまうからだ。

それでは、馬の様子を見るポイントを挙げていこう。簡単に分かるものは、歩法、発汗、周回位置だ。歩法とは常歩・速歩など馬の歩き方のことで、パドックでは馬のテンションを反映している。首を使って大きな常歩で歩くことが理想であるが、何かに驚いたりして速歩になってしまうこともあるので多少の速歩は問題ない。 しかし、なかなか常歩で歩かないとなればテンションが高いと判断した方が良いだろう。

次に発汗も馬のテンションを表す指標の一つだ。これは豆知識であるが、馬は暑いだけでは汗をかかず、運動や興奮によってかく。つまり、パドックでの発汗は興奮を表していると言える。

最後に周回位置とはパドックの内側・外側のどこを歩いているかのことで、東京競馬場のパドックは地面の色が変わっているので分かりやすい。外側であるほど良いというわけではないが、リズム良く歩けている馬は内回りする必要がなく、落ち着いている馬は観客の近くを歩いても問題がないため、外目を歩く様子がしばしば見受けられる。

また、時間をかけてじっくり見てみると、馬装が前回と異なっていたり、馬を引いている人数が途中で変化したりすることが分かる。 先述のリアルスティールがいい例で、安田記念の時は二人引き、メンコ装着とかなりテンションが高くなることを想定したのだと考えられる。 メンコやブリンカーなどには音や視界を遮ることで馬が興奮するのを防ぎ集中を促す効果があるので、馬装からは厩舎がその馬の様子をどのように捉えているかうかがえる。また馬に対する制限が強く、テンションが上がってきた場合に二人引きに切り替えることがあるので、人数が前走と異なったり途中で変化したりした場合には注目したい。

ちなみに毛づやに関しては、GⅠともなるとどの馬も手入れが非常によく行き届いており健康状態も良いので毛づやが良く、素人目に判断するのは難しい。毛色や天候により見え方が大きく異なるのも“毛づや診断”が困難を極める要因の一つだ。

馬の様子の後は体型にも目を向けてみたい。特に馬体重の大幅な(10キロ以上)増減のある馬はよく観察し、太りすぎ、または痩せすぎなのかどうかを見極めよう。

NHKマイル時のケイアイノーテックⒸSPAIA(撮影:三木俊幸)

ⒸSPAIA(撮影:三木俊幸)

馬の腹のあたりが分かりやすく、太っている馬はカーブが緩やかで痩せている馬は股に向かって切れ上がっている。痩せていてテンションも高いような馬は、評価をやや下げたい。

上位人気でも課題をクリアできなければ下げ

今週は天皇賞秋が行われる。上位人気が予想されるのがアーモンドアイ、サートゥルナーリア、ダノンプレミアム、ワグネリアンだが、最もパドックに注目したいのはダノンプレミアムだ。前走安田記念では非常にテンションが高く常歩で歩くことが難しい状態で、二人引きで何とか対応しているという様子だった。好走しているレースのパドックではもう少し落ち着いているだけに、今回はテンションが課題となるだろう。落ち着いて歩けていれば前走の大敗は度外視、二人引きでも常歩で歩けるようであれば及第点、速歩となり我慢できず発汗も目立つようであれば評価は下げたい。

アーモンドアイはお手本のようなパドックで、いつも外目をのびのびと周回しておりテンションに課題のある馬ではないので、かわいい顔を眺めておく程度で良いだろう。

サートゥルナーリアも“パドックでは”比較的落ち着いているので、ひどくイレ込む様子がなければここでは問題無さそうだ。ワグネリアンも周回が進むと速歩が目立つが、そこからレースに向けてテンションがどんどん上がっていくタイプではないので、パドック中に速歩であってもそこまで気にしなくて良いだろう。

穴馬のパドックに刮目せよ

上位人気馬以外で注目したいのがアルアイン、ユーキャンスマイル、ウインブライト、カデナ、ゴーフォザサミットの5頭。アルアインは大阪杯のパドックが気配抜群、集中してリズムよく周回できていた。当日も落ち着いていれば。

2019年大阪杯のアルアインのパドックⒸ明石智子

Ⓒ明石智子

ユーキャンスマイルは前走新潟記念のパドックで、首を使って大きな常歩で歩いており気合の乗った様子で精神面の充実を感じさせた。この2頭は同じような気配で歩けていれば力を発揮できるだろう。

新潟記念のユーキャンスマイルのパドックⒸSPAIA(撮影:三木俊幸)

ⒸSPAIA(撮影:三木俊幸)

注目はウインブライト。前走太目残りだったので、今回馬体減で体も引き締まれば。

オールカマー時のウインブライトⒸSPAIA(撮影:三木俊幸)

ⒸSPAIA(撮影:三木俊幸)

大穴のカデナ、ゴーフォザサミットも体型に注目。カデナは小倉記念2着時が馬体をすっきり見せて好気配だったが、前走新潟記念ではもう一息の馬体だった。ここを目標にうまく仕上がってくれば面白い。

新潟記念時のカデナのパドックⒸSPAIA(撮影:三木俊幸)

ⒸSPAIA(撮影:三木俊幸)

ゴーフォザサミットは、大敗した札幌記念では大幅な馬体減で調整に苦しんだ印象。4歳時のそれ以外レースと同様に今回も500キロ台のふっくらした馬体で来られれば、激走も見られるかもしれない。

オールカマー時のゴーフォザサミットⒸSPAIA(撮影:三木俊幸)

ⒸSPAIA(撮影:三木俊幸)

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《ライタープロフィール》
東大ホースメンクラブ
約30年にわたる伝統をもつ東京大学の競馬サークル。現役東大生が日夜さまざまな角度から競馬を研究している。現在「東大ホースメンクラブの愉快な仲間たちのブログ」でも予想を公開中。