【凱旋門賞】日本馬初挑戦から節目の50年 新たな試みとともに打倒エネイブルに挑む
三木俊幸
Ⓒゲッティイメージズ
近年は牝馬の活躍が目立つ
毎年10月の第1週にフランス・パリロンシャン競馬場で行われる凱旋門賞(GⅠ・芝2400m)。今年は10月6日(日)の日本時間23時05分に発走が予定されている。その名の通り、レース名はパリにある凱旋門に由来しており、ヨーロッパの競馬において最強馬決定戦として位置づけられている。また世界中のホースマンにとって、イギリスダービー、ケンタッキーダービーと並び一度は勝ちたいレースと言われている。
その始まりは第一次世界大戦後の1920年。フランスで、3歳馬の国際競走であるパリ大賞典に並ぶ、古馬の大レースを目指して創設された。しかし、創設後の約30年間はイギリスなど近隣諸国からは一流馬の出走がなく、創設時の目的を果たせていなかったが、1949年の大幅な賞金増額に伴い、世界一の高額賞金レースとして注目を集めることに成功した。
1965年にはシーバードが各国から集まった強豪相手に6馬身差の完勝。イギリスの専門誌タイムフォームでレーティング145ポンドを獲得した。この記録は2012年にフランケルが147ポンドを獲得するまで47年もの間、破られなかった。
1971年にはミルリーフがレコードで勝利。ミルリーフはイギリスダービー、キングジョージ6世&クイーンエリザベスS、そして凱旋門賞を制する初の偉業を成し遂げた。凱旋門賞は他にも、1986年のダンシングブレーヴなど偉大な馬を数多く輩出している。
近年では2008年にはザルカヴァ、2011年デインドリーム、2012年ソレミア、2013年と2014年に連覇したトレヴ、2016年のファウンド、そして2017年と2018年に勝利し、今年3連覇を目指すエネイブルなど、牝馬の活躍も目立っている。
スタート後のポジション争いがカギ
スタンドから見て左手奥にある風車前のポケットからスタートし、約1000mの直線コースを走ることとなる。最初の400mは平坦だが、3コーナーにかけて約10mの上り坂を駆け上がる。そして、頂上の3コーナーから4コーナー手前まで600mの下り坂が続く。
一見すると京都競馬場の外回りコースと似ているコースレイアウトだが、JRAでは中山競馬場の5.3mという勾配が最もきつく、その倍近くの勾配を上って下ることとなる。また、スタート後のポジション争いも激しくなるので、いかにして良いポジションを獲得するのかが、レースのカギを握っている。
坂を下りきると、今度は“偽りの直線”と言われる250mのフォルスストレートが待ち受けている。ここで仕掛けてしまうとゴール前で脚が上がってしまうので、我慢して脚をためる必要がある重要なポイントだ。
最後の直線は平坦で東京競馬場とほぼ同じ533m。しかし、凱旋門賞当日に内側の仮柵が外されるため、馬場状態が良い内側を通った馬が有利だと言われている。外から差し切るというのは容易ではない。いかにロスのないレースができるかが鍵となる。
初挑戦から節目の50年
日本調教馬として凱旋門賞に初めて挑戦したのは、1969年のスピードシンボリだった。しかし世界の壁は高く、着外に終わった。1972年にメジロムサシ、1986年にはシリウスシンボリが挑戦するも18着、14着と惨敗。その後は13年間日本調教馬の参戦がない時代が続いた。
1999年、フランスに長期遠征にやってきたエルコンドルパサーは、GⅠのサンクルー大賞で勝利をつかむ。フォワ賞にも勝って迎えた凱旋門賞では果敢に逃げ、モンジューにこそ敗れたものの、2着となり快挙達成まであと一歩のレースを見せた。
次こそはと期待を集めて、2006年に挑戦したのがディープインパクト。日本では圧倒的な力の差でクラシック三冠を達成し、「ディープなら勝てる」と多くのファンはそう思っていたに違いない。しかし結果は3位入線で後日薬物規定に違反したとして失格処分の裁定となり、日本中の競馬ファンが落胆した。
「ディープでダメなら……」そう思われていたが、2010年にナカヤマフェスタが2着となり、日本馬が凱旋門賞勝利へ着実に歩を進めたと証明した。2年後の2012年に挑戦したオルフェーヴルが、これまでの歴史で最も勝利に近づいた馬だと言っていいだろう。後方でじっくり足をため、直線で先頭に立った瞬間、日本中の誰もが「勝った」と思ったに違いない。ところがゴール直前で内側に寄れて急失速……。またしても勝利をつかめなかった。
翌年も凱旋門賞に挑戦してリベンジを狙ったが、3歳牝馬トレヴの前に為す術もなく完敗した。そのトレヴは2014年も勝利し、36年ぶりとなる凱旋門賞連覇を達成。歴史的名牝がジャスタウェイ、ゴールドシップ、ハープスターの日本馬3頭の前に立ちはだかった。
2016年以降も毎年日本馬は参戦しているが、結果を残せずに終わっている。スピードシンボリの挑戦から50年を迎える2019年は、フィエールマン、ブラストワンピース、キセキ、の3頭が出走する。節目の年に悲願の凱旋門賞制覇なるか、期待は高まる。
エネイブルには死角なし
今年の出走馬の中で、日本馬の最大のライバルになるのは5歳牝馬のエネイブルだろう。2017年、2018年と凱旋門賞を連覇しており、史上初となる3連覇を目指している。今年に入ってもエクリプスS、キングジョージ6世&クイーンエリザベスS、ヨークシャーオークスとGⅠ3連勝。逃げてよし、差してよし、道悪も苦にしない、まさに非の打ち所がない馬だ。
アイルランドの名門、エイダン・オブライエン厩舎が送り出す3歳馬ジャパンは、パリ大賞でGⅠ初制覇を果たすと、前走のインターナショナルSではエネイブルの最大のライバルだったクリスタルオーシャン(故障により引退)にアタマ差競り勝った。まだエネイブルとは対戦しておらず、逆転の可能性があるとすれば最有力候補に挙げられるだろう。
イギリスのブックメーカーで3番人気に推されているのは、今年のフランスダービー馬であるソットサス。フランスダービーではレコードを2.68秒も更新する強いレースを見せた。前走のニエル賞でもきっちりと勝利しており、地元フランスで期待は大きい。レコード勝ちが証明しているように、硬い馬場を得意としている一頭だ。当日の馬場状態には注目したい。
その他ではヴァルトガイストにも注意が必要だ。今年はプリンスオブウェールズS、キングジョージ6世&クイーンエリザベスSで3着と、エネイブルやクリスタルオーシャン相手に善戦している。正直なところ、エネイブルとの勝負付けは済んでいると言えるが、相手なりに走るタイプなので、馬券は押さえておきたい。
ニューマーケット滞在という新たな試み
対する日本馬は、フィエールマン、ブラストワンピース、キセキの3頭が出走する。フィエールマンとブラストワンピースはフランスのシャンティイではなく、あえて移動距離の長いイギリスのニューマーケットに滞在して調整を行なっている。
その理由として環境面での影響が大きいと考える。ニューマーケットは広大な敷地の中に、起伏のあるコースがいくつもあり、調教メニューのバリエーションが多い。また美浦、栗東の両トレセンの坂路はニューマーケットのウォーレンヒルの坂路コースを参考にして作られているという。つまり、これまで培ってきた調教ノウハウを生かすのにぴったりな場所なのだ。さらにディアドラも5月からニューマーケットに長期滞在を続けており、ナッソーSで勝利と結果を残している。その経験はフィエールマンとブラストワンピースにもプラスに働くだろう。
一方のキセキはシャンティイで調整が進められており、こちらは9月15日にパリロンシャン競馬場で行われた前哨戦フォワ賞に出走した。結果は4頭中3着だったが、凱旋門賞本番と同じコースを経験できたことは、馬にとっても本番でも騎乗するクリストフ・スミヨン騎手にとっても良い。叩かれた上積みに期待したい。
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