ダートでは意外な馬が現在トップ 今年の新種牡馬の中間評価
門田光生
Ⓒ明石智子
新種牡馬の中間評価
夏競馬が終わり、中央競馬は年末の有馬記念へ向けて助走が始まる。2歳戦もまた、ここからが本番。9月の中山と阪神、そして10月の東京、京都で将来の幹部生候補がスタンバイしているが、全ての馬がクラシックやGIを狙えるわけではない。仕上がりの早さを武器にして、強力なライバルがいない間にひと稼ぎするのも立派な作戦だ。
新馬勝ちは大事なステータスになるが、地方では賞金的な意味合いも大きい。古馬A級はおろか、重賞とそん色ない1着賞金が出る競馬場もある。地方競馬では中央以上に新馬勝ちする価値があるといえるだろう。リーディングを賞金順で並べる場合(特に地方2歳部門)、新馬勝ちの賞金がそのままリーディング上位の評価になるので大切である。
また、中央でも今年から「スーパー未勝利」と呼ばれる秋開催の3歳未勝利戦が廃止。仕上がりの遅い馬がより不利となってしまった。これには賛否両論あるだろうが、ともかく現状のルールでは仕上がりが早いに越したことはない。
そこで、今年産駒がデビューした新種牡馬のスタートダッシュを調べてみた。現役時代の成長曲線と一致しているのか、はたまた生産頭数に比例しているのか。調べると意外な馬が上位に顔を出していることがわかる。今後の馬券作戦の参考になれば幸いだ。ちなみに、データは全て9月8日時点でのものである。
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まずは中央・地方の総合ランキング。賞金順に並べると中央の重賞を勝った種牡馬が上位にきてしまうので、勝利数順に並べている。
総合1位はトゥザワールド。現役時代に皐月賞と有馬記念、そして豪州でGI2着の実績があったが、生産頭数から見ても分かるように、キズナやエピファネイアらGI勝ち馬に比べると注目度はそれほど高くなかったはず。マラソンでいえば、まだ序盤とはいえ見事なスタートダッシュを決めたといえる。
2、3位は新種牡馬ランキングの本命候補であるキズナとエピファネイア。現役時代のライバルが、ここでもしのぎを削っているのが面白い。いきなり重賞勝ち馬を出したキズナが一歩リードといったところか。
ここで注目したいのはニホンピロアワーズ。12頭と生産頭数は少ないが、早くも7頭がデビューして4頭が勝ち上がっている。8歳まで一線級で走り続けた馬で、しかも中・長距離馬ということで、産駒の早期駆けには驚きだ。
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ちなみに、ニホンピロアワーズとよく似た馬がいる。それがスズカコーズウェイだ。この馬は息の長い活躍を見せたが、現役時代には重賞1勝止まりで種牡馬入り。初年度から種付け頭数に恵まれなかったが、少ない頭数ながら驚異の勝ち上がり率を誇り、初年度産駒が活躍した次の年には種付け頭数が前年から約6倍に跳ね上がった。
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現在、ダートの2歳種牡馬ランキングで3位のスズカコーズウェイ。1位がサウスヴィグラス、2位がパイロで、大御所2頭に続いての3位は立派なもの。ニホンピロアワーズもこれからの活躍次第では第2のスズカコーズウェイになる可能性を秘めている。
評判通りのキズナ
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お次は2歳中央。こちらはほぼ生産頭数の多い順に並んでいる。キズナ、エピファネイアともに、まだ生産頭数の4分の1ほどしかデビューしていない。ともに現役時代は芝の中距離で活躍。今後、そういった番組が増えてくるこれからが、本領発揮なのかもしれない。
それにしても好ダッシュを決めたキズナ。函館2歳Sを勝ったビアンフェの母は、すずらん賞(芝1200m)勝ちの短距離馬。コスモス賞を勝ったルーチェデラヴィタの母は中距離馬。以前に新種牡馬の展望記事の中で「キズナは母系の良さを出している」と関係者が語っていたが、まさにその通りだ。この慧眼には恐れ入る。
実はダート馬?トゥザワールド
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続いて2歳地方。地方競馬は9割以上がダート競馬で、しかも門別では4月に新馬戦が始まる。大事なのはダート適性、スピード、そして仕上がりの早さだ。
ここでのトップはトゥザワールド。2歳総合と併せて二冠達成なのだが、実は中央競馬では1勝しかしていない。前述したようにトゥザワールドは現役時代に芝の中距離で活躍した馬で、ダートは一度も走っていない。その産駒がダートで大活躍というのは意外にも思えるが、母は初ダートとなったフェブラリーSで3着し、ドバイワールドカップでも2着した巧者。この母系は芝をこなすからダートを使う機会が少ないだけで、芝以上の活躍をする馬が出現しても何らおかしくない。トゥザワールド産駒がダートで活躍するのもまた必然のことなのかもしれない。
気になったのはフェノーメノ。天皇賞・春を2度勝った生粋のステイヤーで血統も芝向きなのだが、産駒は6勝中5勝がダート。距離が延びてさらに活躍馬を出すのか、それともこのままダートの短距離向きとなるのか、現時点では分からない。しかし、今後も注目していい種牡馬といえるだろう。
遺伝子を受け継ぐステイゴールド産駒
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最後に2歳芝。ほぼ2歳中央と同じだが、ここで取り上げたいのはゴールドシップ。産駒が札幌2歳Sでワンツーを決めて一躍有名になったが、実はゴールドシップ産駒で勝利を挙げていたのはその2頭だけ。現役時代も個性的な馬ということで人気だったが、産駒もびっくりするようなことをやってのけた。さすがである。
そのゴールドシップ産駒だが、これまで33走した中で芝が30回。もちろん、勝利したのも芝のみ。個人的にはハービンジャーに印象がかぶるのだが、この先産駒の傾向がどう変わっていくのか、これまた注目である。
現役時代と違ってダートで活躍する産駒を出しているフェノーメノ、そして自身と同じようなタイプを出しているゴールドシップ。ともに芝のステイヤーで、しかも同じステイゴールド産駒。まだ始まったばかりとはいえ、ここまで違う傾向が出るとは。
ステイゴールドは現役時代も種牡馬としても意外性の塊だったが、産駒にまでそれが受け継がれているようである。
《関連データ》
キズナは「母系の良さをうまく引き出している」今年産駒がデビューする種牡馬、新種牡馬の血統背景
《ライタープロフィール》
門田 光生(かどた みつお)
競馬専門紙「競馬ニホン」で調教班として20年以上在籍。本社予想や「最終逆転」コーナーを担当し、編集部チーフも兼任。現在、サンケイスポーツにて地方競馬を中心に予想・記事を執筆中。
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