マーメイドSが荒れる要因と降級制度廃止による影響は?

Ⓒ三木俊幸
一筋縄ではいかないマーメイドS
1996年から始まったのが、今週行われる牝馬重賞・マーメイドSである。一応は3歳以上の参戦可能と銘打たれてはいるが、クラシックの戦いを終えたばかりの3歳馬が阪神2000mの条件へ出走すること自体が現実的ではなく、実質的には4歳以上の古馬たちによって争われるレースである。
創設当初こそ、エアグルーヴ、エリモエクセルなどの名牝が1番人気に応えて優勝を飾っていたが、これら前年のオークス馬が56kgの重量で出走できる別定戦であればこそ。
2006年にハンデ重賞と改められて以降は、人気馬の信頼度は一気に低下し、3連単配当10万超えは当たり前の重賞として定着している。一筋縄では収まらないレースを攻略するべく、その傾向を掘り下げて考えてみたい。
ハンデが勝敗を左右する重賞
2006年にハンデ戦となって以降、1番人気で勝利したのは2012年のグルヴェイグ、2014年のディアデラマドレのわずか2頭のみ。両者の共通点は角居厩舎所属の良血4歳馬であり、3歳時にGⅠに挑戦した経験はあるが、思うような結果が得られなかった点。
それ故、ともにいまだ将来を嘱望される身でありながら、4歳馬降級の恩恵を受け、条件馬だった。優勝後に陣営関係者が「53kgのハンデで勝つことは計算通りだった」と話していたことが印象的であった。
狙って重賞を勝つということ、成長途上と見れば素質馬であっても3歳時には無理を強いることを避けて、条件クラスにとどまらせることのできた余裕。全てが厩舎力のなせる業といえる戦略であり、マーメイドSがクラス分けさえも意味をなさないハンデによって、結果を左右されるレースということは、条件馬2頭を1番人気と支持したファンの間でも周知の事実であるのではないか。
ハンデがいかに結果へと影響するかは2017年、2018年と続けて、トップハンデ56kgを背負ったトーセンビクトリーが大敗していることからも、うかがい知れる。
上位の実績、長く脚の続かない小回りでこそのキャラ設定からも、有力であるはずの同馬ではあるが、「ハンデを背負っていては簡単なレースとはならない」と戦前に予見していたのも、2頭の1番人気馬を優勝へと導いた角居厩舎陣営の関係厩舎なのだから、やはりハンデを背負う馬にとって厳しいレースであると承知しておく必要がある。
どのような馬を狙うべきか
背負う斤量が違ってくれば、競馬の仕方も変わってくるということを分かりやすく示しているのが2017年、2018年のキンショーユキヒメの走り。
2017年は4着の結果ながらも、上がり最速の脚で猛然と追い込んで小差の2着争い3頭に加わった。しかし2018年は内めの密集を避けて外めを回るも末脚不発の7着。1年の間に条件戦を連勝、さらに直近の福島牝馬Sで重賞制覇を果たしたことで、ハンデは51kgから55kgへと大幅に増え、さらには9番人気から3番人気と支持を受ける立場となれば、展開待ちの直線勝負といった思い切った策に出られるはずもなく敗れ去った。
もちろん、実績馬がハンデを背負いながらも復権を果たしたケースもある。2013年優勝のマルセリーナは当時5歳。桜花賞から実に2年以上、勝利から見放されたことでのハンデ56kgは、自身にとっては勝負になり得る斤量だったのであろう。
しかし、前走で牡馬相手のハンデ戦に55kgで出走し、6着に敗れていながらも、牝馬限定のマーメイドSでは1kg増のハンデ。思惑とは違った斤量を背負いながらの7番人気の勝利は、陣営が勝利へ見せた執念と、負け続けたことで自由度の増した作戦をとれたことが勝因につながったと映った。
GⅠ、重賞勝ち馬と条件クラスの馬が、一緒に走る可能性があるという特異なレースがマーメイドSの立ち位置となれば、実績馬の参戦が難しくなるだけでなく、さらなる問題が生じてくる。条件馬に軽ハンデを乱発すると、斤量面や出走可否が分からないので、重賞であるにも関わらずリーディング上位騎手の騎乗を早期から決定することができない。
それにより、重賞での騎乗経験が少ない若手騎手から依頼が埋まるケースさえしばしば見られる。そのことがペースの乱れや、実力通りの決着を見ない結果を誘発する要因となれば…。
では乱戦必至という設定で寄りどころとするべきは?昨年優勝のアンドリエッテを例に出せば、まずは直近の成績には目をつむり、3歳時であろうと世代のトップクラスと差のない競馬をしていた実績を思い返し、それにしては恵まれたハンデが激走の要因となるのかもしれない。
さらには減量の苦労があるにも関わらず、ジョッキーが騎乗を選択すれば、不利な立ち回りはしないという決意と受け取れば、人気薄であろうと注意しなくてはならない。
降級制度廃止の影響は?
今年からの4歳馬降級制度の廃止に伴い、先週の番組編成替えからクラス別の呼称も改められた。その名が広く定着するかの議論は他に任せるとして、競走馬の淘汰を早めるシステムの中で、それぞれの立場でどう生き残る戦略を立てていくのか、それがレースのメンバー構成、結果にどのように結び付いていくかで、これまでの傾向、歴史はガラリと姿を変える可能性には注目してみたい。
例えば今年のマーメイドSは前走で準オープン(3勝クラス)を勝ち上がった馬が有力視されるメンバー構成。しかし4歳馬であれば、これまでのルールでは降級することによって準オープンからの格上挑戦となっていた例年なら、さらに1kg減のハンデで出走できていたのかもしれない。
クラス編成システムの違いがハンデ決定にどのような影響をもたらすのか。波乱必至の乱戦とするだけでなく、これからの傾向を読み解くうえでも、今年のマーメイドSは重要な意味を持つレースとなるのかもしれない。
