【日本ダービー】「最も運のある馬が勝つ」の格言は令和の時代も変わらない?

SPAIA編集部

東京競馬場のコースを駆ける馬群Ⓒ三木俊幸

Ⓒ三木俊幸

今の時代もダービーは〝最も運のある馬が勝つ〟のか?

「日本ダービー」とは、言わずと知れた日本競馬では最高峰に位置する競馬の祭典である。競走馬に関わる人々の〝全てはダービーの為に〟という強い思いは今も昔も変わらない。それだけに皐月賞の〝最も速い馬が勝つ〟、菊花賞の〝最も強い馬が勝つ〟に対して、ダービーは〝最も運のある馬が勝つ〟という昔の格言には少々の違和感を感じるところもあった。

もっともこの言葉は今よりもフルゲートが多頭数であり枠順の内外や、馬場状態などが結果に大きく影響を及ぼした前時代に語られたものであることは承知している。

しかしダービー優勝後に、目立った活躍を見せないまま引退した馬が多くいることも事実。それこそ大一番で運を使い果たしてしまったのか?もしくはそもそも一番強い馬ではなかったのか?

いにしえの格言を〝強いだけでは勝てないレースであり、運を呼び込むだけの準備をして来られた馬が勝つ〟と言い換えてみれば、現代にも通用する言葉なのかもしれない。

皐月賞組の順位に捉われないことが大切

当然のことながら皐月賞を経由してきた馬が有利である。2歳新馬のデビューが早まり、ダービーを目標とする3歳戦の番組整備が整ったことから、ローテーションの選択肢は広がりを見せそうなもの。

しかし、皐月賞が乱ペースとなって結果を疑問視された昨年でも、7着から巻き返したワグネリアンが優勝を果たし、皐月賞馬のエポカドーロが2着とワンツーを決めたことからも、しばらくはこの傾向は変わりなく続くものと思える。

ただし皐月賞をいわゆる〝叩き台〟としてダービーに全力投球した馬が散見されるようになってきたことから、その着順に捉われ過ぎるのは少々危険かもしれない。

ダービー馬はダービー馬から生まれる

続いて注目すべきは血統。サンデーサイレンスが日本で種牡馬として導入されると、日本競馬の血統図を塗り替えるほどの勢いで席巻し、その産駒の最高傑作であるディープインパクトの仔たちがその流れを受け継ぐ形で大活躍している。

そこにもう一頭のダービー馬、キングカメハメハが加わえて、近年は〝ダービー馬はダービー馬から生まれる〟という格言を体現している。この2頭に共通するキーワードとしては〝馬場の高速化〟が挙げられるのではないか。

もちろんダービーを勝つということは賞金や名誉以外にも、種牡馬入り(牝馬なら最上級の扱いでの繁殖入り)が確約されることとなり、その血が受け継がれていくことで生存の使命を果たせるという意義も大きい。

サンデーサイレンス産駒活躍の時代にまでさかのぼっても、馬場整備の技術が飛躍的に向上した時期と、瞬発力に秀でた個性の出現とが絶妙にマッチし、現在の日本競馬の血脈を形成したと言えるのではないだろうか。

ダービーは今も昔も人馬一体

NHKマイルC、オークスの優勝タイムを見ても、今年の東京競馬場は極めて時計の出やすい高速馬場だ。オークスで1、2着をディープインパクト産駒が占めたことからも、王道をいくこの血統からは、例え人気薄の伏兵という扱いであっても目が離せそうにない。

もちろん展開も重要な予想ファクターとなるが、他のレースと全く雰囲気が異なるのがダービーである。紛れの起こりづらい府中の2400mではペースに関わらず、好位のインを回る馬が有利とされるが、それは直線で容易にスペースのできる一般戦だから言えること。

モチベーションの高い18頭がしのぎを削る場面ではタイトな競馬となることは必然であり、有利に立ち回ろうと意識し過ぎることで、進路をなくして足を余す馬が多発すれば、逃げ切りだって決まることがあるし、大外一気の差し切りが決まる展開にだって成り得る。

そこで重要になるのはその馬に騎乗し続けたことで生まれる、人馬の信頼関係のようなものではないだろうか。後悔だけはしたくないという騎乗がダービーでは過去に多く見られた。失敗すれば非難の集中は避けられないだけに勇気の必要な行動ではあったと推察されるが、いずれも馬の力を信じていればこそ到達できた境地だ。

安田隆、小島貞、大西直、近年では石橋守。渋いジョッキーの活躍が目立った時代があったのも、ダービーが最高峰のレースである証しだったのかもしれない。継続しての騎乗が展開に惑わされない好騎乗を生んだ時代でもあった。

「この馬が一番強いから勝つべきである」という周囲の思惑を飛び越えたところで決着をみるのは、ダービーというレースに対する人々の熱量が今も変わっていないからではないか。その無形の力を多くの人は「運」と呼ぶのかもしれない。