【阪神JF】ウオッカが強烈な末脚でアストンマーチャンを強襲 後のGⅠ馬4頭が激突の2006年をプレイバック

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後のGⅠ馬4頭が激突 ウオッカ&アストンマーチャンの豪華競演
今週は阪神ジュベナイルフィリーズが開催される。過去にはヒシアマゾンやメジロドーベル、ブエナビスタやソダシらが制した2歳女王決定戦。今回はそんな中から2006年の一戦をピックアップして当時のレースを振り返っていく。
2006年の阪神JFは、重賞2勝馬アストンマーチャンが単勝1.6倍と圧倒的な1番人気だった。小倉2歳Sは牡馬もいるなか2着に2馬身半差をつける勝利。続くファンタジーSはJRA2歳レコードを0.5秒も更新する快勝劇を見せた。
重賞勝ち馬がアストンマーチャンただ1頭ということで実績では他。2番人気ルミナスハーバーは単勝8.9倍、3番人気ハロースピードは単勝9.1倍と離され、ここまでが単勝オッズ10倍以内だった。
4番人気は単勝11.1倍、2戦1勝で抽選を突破したウオッカ。母はシラオキから続く名牝系、父タニノギムレットの素質馬である。
ウオッカはデビュー戦を逃げて上がり最速タイで快勝。2戦目は上がり最速で追い込むも、出遅れが響き2着に敗れる。今回は10kg絞り、482kgでの出走。1勝馬ではあるものの、そのポテンシャルから4番人気に支持された。
他にも翌年GⅠを勝つピンクカメオやローブデコルテなどが出走。今思えば後のGⅠ馬4頭が激突する豪華なレースとなった。
2頭が見せた“別格”の走り ウオッカが強烈な末脚を発揮
晴れた空の下でゲートが開く。スタートは少しバラつき出遅れる馬も数頭いるなかで、アストンマーチャンとルミナスハーバーが絶好のスタートを決める。
外からアストンマーチャンと武豊騎手が内の様子を窺いながら先行の構えを見せる。しかしルミナスハーバーがハナを主張すると、武豊騎手はスッとルミナスハーバーの後ろに付けた。またウオッカも出足が良く、アストンマーチャンのすぐ後ろ中団にポジションを確保する。
2ハロン目から10.7-11.5-11.9と速いラップを刻む。アストンマーチャンの武豊騎手、ウオッカの四位洋文騎手はこの速い流れを感じて控えたようにも見えた。
道中は隊列に大きな動きはなく、先頭のルミナスハーバーが淡々としたペースを刻む。そのまま3、4コーナーに差し掛かり直線入口へ。
先頭のルミナスハーバーに、外からメジロアダーラが接近しながらコーナーを回る。直線に入ると、その内側の僅かなスペースから抜け出しを図ったのが、アストンマーチャンだ。武豊騎手の檄に応えて先頭に立つ。外でルミナスハーバーが抵抗するも、その勢いには敵わない。
またしても独走か。そう思われたとき、大外から1頭、鋭い末脚で伸びてきた馬がいた。ウオッカである。粘っていた先行勢をひとのみにすると、セーフティリードを取ろうとしていたアストンマーチャンにグングンと迫る。アストンマーチャンも末脚は鈍らず粘りを見せる。
ウオッカか、アストンマーチャンか。ゴール前でさらにもう1段階ギアを上げたウオッカが最後はクビ差交わして1着でゴールした。
2着アストンマーチャンと3着ルミナスハーバーには3馬身半差がついており、まさに2頭が抜きん出た能力を見せた一戦と言える。勝ち時計1分33秒1は、2歳芝1600mの日本レコードを0.3秒更新するものであった。
ウオッカの単勝11.1倍、そして馬単28.6倍は、後々の活躍を知る現代のファンからするとあまりにもオイシイ配当と言える。3着には2番人気のルミナスハーバーが残ったにもかかわらず、三連単は142.4倍。それほどファンのアストンマーチャンに対する信頼が厚かったということだ。
ギャラボーグなど抽選対象に素質溢れる牝馬が登録
その後の活躍は説明不要かもしれない。4着のローブデコルテは、ウオッカやアストンマーチャン、桜花賞馬ダイワスカーレットが不在のオークスを制覇。8着のピンクカメオはNHKマイルカップを制した。
アストンマーチャンは桜花賞こそ7着に敗れたが、3歳でスプリンターズSを逃げ切って勝利。快速女王として名を馳せた。しかし、残念ながら翌年に急逝してしまう。快速馬のあまりにも早い別れだった。
そして、勝利したウオッカは、翌年にダイワスカーレットという永遠のライバルと出会う。ウオッカは桜花賞で敗れた後、オークスに向かわず日本ダービーに挑戦。そこで64年ぶりの牝馬によるダービー制覇を成し遂げる。
さらに4歳で安田記念、天皇賞(秋)を勝ち、5歳でヴィクトリアマイル、安田記念、ジャパンCを勝利と東京競馬場で無類の強さを誇った。そんな彼女の最初のGⅠ制覇が阪神競馬場での阪神JFだったというのも、今振り返れば面白い。
ウオッカは引退後、繁殖牝馬としてアイルランドに渡る。そこで7番仔を産んだ2019年にこの世を去る。こちらもあまりにも突然で早い別れであった。
仔のタニノフランケルは日本でデビュー。小倉大賞典2着など重賞戦線で活躍。引退後は種牡馬となり、初年度産駒が今年デビューを迎えている。ウオッカの血はまだ繋がっている。
今年の阪神JFは重賞勝ち馬不在で大混戦模様。抽選対象も10頭を超える。その中にも良血馬ギャラボーグ、新馬勝ちから挑戦するスタニングレディやホワイトオーキッドなど素質溢れる馬たちが登録している。
彼女たちは抽選を突破してレースを制した大先輩ウオッカの背中を追っていけるだろうか。そして引退後も長生きをして、その血を広く残していって欲しいものである。
《ライタープロフィール》
緒方きしん
札幌生まれ、札幌育ちの競馬ライター。家族の影響で、物心つく前から毎週末の競馬を楽しみに過ごす日々を送る。2016年に新しい競馬のWEBメディア「ウマフリ」を設立し、馬券だけではない競馬の楽しみ方をサイトで提案している。好きな馬はレオダーバン、ビワハイジ、ダイワスカーレット、ドウデュース。
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