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【阪神JF回顧】スターアニスが激戦を制す 重賞馬不在は28年ぶり、大混戦のなかで輝いた経験値

2025/12/15 10:41
勝木淳
2025年阪神JF、レース結果,ⒸSPAIA

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実力差が明白になったハイペース

2歳女王決定戦・阪神ジュベナイルフィリーズはスターアニスが勝ち、重賞初制覇。2着ギャラボーグ、3着タイセイボーグで決着した。

JRA重賞ウイナーが出走馬にいないのは28年ぶり。確固たる軸なき一戦は、各馬が勝機を見出す混戦になったせいか、予想以上に厳しい競馬になった。

重賞ウイナー不在以上に響いたのが、厳しい競馬の経験値。2歳牝馬による争いは、将来性を踏まえ、競馬を教える意味合いが強い。早期に厳しい競馬を強いるのは将来に響いてしまう。みんな、まずは理想的な競馬スタイルを目指し、道中はエコな走りで体力を温存し、勝負所でギアチェンジ、最後にトップスピードへ入る形を教えていく。

そんな前哨戦が続くなか、最初に厳しい競馬を経験するのが暮れのGⅠ。ここで実力差をはかることになる。その意味では軸なき一戦ではあったものの、来春に向けた勢力図を明白できるだけの競馬ではあった。

レース序盤は12.4-10.5-10.8の33.7。この数字はレシステンシアがレコード勝ちを収めた2019年や、リバティアイランドが勝った22年と同タイム。10秒台が2回も出たのははじめてだ。同じ「33.7」であっても、スタート直後は位置取りを探りながら入り、ダッシュがついてからじわじわと前で争うという厳しいものだった。

800m通過45.3はレシステンシアの45.5を上回り、22年45.2より0.1遅いだけ。リバティアイランドが底力をみせた年とほぼ同じ流れになった。

ちなみに、22年の後半800mは11.8-11.1-12.5-12.5の47.9。今年は12.0-12.0-11.4-11.9の47.3。22年ほどコーナーに突っ込んでいかなかった分、直線で加速する流れを生み、結果的に実力差をはかるだけの根拠ある競馬になった。


母の父ダイワメジャーの面影

スターアニスは好位の後ろで脚を溜め、直線は外から上がり34.5の末脚を使い、内から迫るギャラボーグに並ばれそうになりながら、最後に突き放して1馬身1/4差勝利。申し分ない内容だった。

厳しい競馬の経験がほぼない出走馬のなかで、スターアニスは唯一といっていいほど重賞でしんどい競馬をしていた。それが中京2歳ステークスだ。

前年までの小倉2歳ステークスにかわり、夏競馬最終週の中京芝1400mで行われた中京2歳Sは短距離志向の馬たちも出走しており、序盤の600mは33.3の流れを経験していた。そのラップタイムは12.1-10.4-10.8。阪神JFよりも厳しかった。

そこで勝ち馬とはクビ差、3着馬とは7馬身差。その実力を改めてGⅠで証明した。実力に経験を上乗せしたとなれば、世代トップ評価も納得だろう。

母エピセアロームは最終的にはスプリント路線へ進み、セントウルステークスで1:07.3を記録した。しかし、2歳から3歳春までは阪神JF8着、チューリップ賞2着と進み、クラシック路線を歩んだ。この世代の牝馬三冠馬といえば、同じ石坂正厩舎のジェンティルドンナだ。戦友のあと押しもあっただろうか。

スターアニスは馬体的にボリュームを感じるものの、スプリンター特有の胴の詰まった感じがない。毛色の栗毛は母系の影響であり、母の父ダイワメジャーがみえる。2000mもこなす超A級マイラーの血が、スターアニスの距離適性を支えていく。


むしろ5着は評価できるアランカール

2着ギャラボーグは未勝利を勝った直後の身であり、抽選を突破してきた一頭。実力としてはまだまだだが、レース展開を味方につければ上位進出はある。徹底してインにこだわり、直線も内をさばいてきたレース振りにそんな意図がみえる。まさにその通りの競馬であり、運を味方につけた完璧な運びだったのではないか。

1勝馬でここまで戦えれば十分だろう。ハイペースでの強さは父ロードカナロアの影響を感じる。兄はNHKマイルカップを勝ったダノンスコーピオン、そして同日の最終レース・甲東特別で3着に入ったダノンキラウェア。マイル戦での期待は高く、今回の厳しい競馬を経て、来春どんな姿を見せるのか楽しみだ。

3着タイセイボーグは新潟2歳ステークス2着、アルテミスステークス3着とメンバー上位の重賞実績をもっており、力通りの好走ではあった。

父は新種牡馬インディチャンプ。ステイゴールドの系統でありながら、春秋マイルGⅠ制覇を達成した名マイラーだ。産駒はクラシック向きの仕上がり早ではないかもしれないと目されたが、GⅠ好走馬を送ったことで、評価も変わってくるだろう。

1番人気アランカールは5着。スタートで遅れ、速いペースを追いかける形になってしまった。一旦ペースが落ちた地点で外をまくって出ていったが、さすがに息が入る区間がなく、伸びを欠いた。

とはいえ、少頭数かつスローペースの野路菊ステークス勝ちからこの競馬に対応するのは難しい。押し出された感がある1番人気だっただけに、そう悲観することはない。むしろ5着はよく走った。流れ一つでまた結果は変わる。

2025年阪神JF、レース回顧,ⒸSPAIA


《ライタープロフィール》
勝木 淳
競馬を主戦場とする文筆家。競馬系出版社勤務を経てフリーに。優駿エッセイ賞2016にて『築地と競馬と』でグランプリ受賞。主に競馬のWEBフリーペーパー&ブログ『ウマフリ』や競馬雑誌『優駿』(中央競馬ピーアール・センター)にて記事を執筆。Yahoo!ニュースオーサーを務める。『名馬コレクション 伝説のグランプリホース』(ガイドワークス)に寄稿。

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