【函館2歳S】快速物語の始まりを告げるレコードV アグネスワールドが制した1997年をプレイバック

緒方きしん

1997年函館3歳ステークスの出馬表と結果,ⒸSPAIA

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2歳の快速馬が集まる一戦

今週は函館競馬場で函館2歳ステークスが開催される。古くはエルプスやダイナアクトレス、ホクトヘリオスらが勝利。2010年以降もアクティブミノルやブランボヌール、ビアンフェと多くの快速馬が勝利してきた。

今回はそんな中から1997年の一戦をピックアップして当時のレースを振り返っていく。

ダービーの翌週に函館で土日あわせて4つの新馬戦が開催され、1998年の頂点を目指して新世代がデビューし始めていた。芝1200m戦ではボールドエンペラーやダンツシリウス、エモシオン、アグネスワールドといった素質馬がデビュー。

しかし、4つの中で最も印象に残る勝ち方をしたのは、日曜ダート1000m戦に登場したサラトガビューティだ。なんと2着に9馬身、3着にはさらに4馬身の差をつけて完勝していた。

サラトガビューティの父アジュディケーティング産駒のアジュディケーターが1995年京成杯3歳ステークスを制しており、強さに血統的な裏付けもあった。

サラトガビューティは2戦目のラベンダー賞も2着に7馬身差をつける完勝。レースにはマイネルメッサー、ボールドエンペラーといった素質馬も出走していたため、その強さは群を抜いていた。

サラトガビューティが函館3歳Sに出てくる──。世間の評価を示すかのように、単勝オッズは新馬戦の1.9倍、ラベンダー賞の2.0倍に比べ、3戦目の函館3歳Sは1.5倍と信頼度を上げていた。

ざわつく場内を切り裂く、マッチレースのレコードV

函館3歳Sは、前年の覇者マイネルマックスがそこから京成杯3歳Sと朝日杯3歳Sを連勝。JRA賞最優秀2歳牡馬にも選出され、NHKマイルカップや日本ダービーにも出走するなど活躍を見せていた。

今年もそこに続く馬が出るのか。出るならサラトガビューティか、それとも──。多くの注目が集まるなか、単勝2.0倍の2番人気に推されたのはアグネスワールドだった。3番人気ファインバレイが単勝21.4倍、7番人気以降は単勝万馬券という明らかな二強対決の様相だった。

アグネスワールドを管理するのは森秀行調教師。1993年ジャパンCをレガシーワールドで制していたほか、香港遠征したフジヤマケンザンなど多くの活躍馬を管理する調教師であった。

さらに同氏はスキーキャプテン(1992年生まれ)、シーキングザパール(1994年生まれ)といった優秀なマル外を見出すことで実績を残しており、翌年にはシーキングザパール&武豊騎手とともにフランスのGⅠモーリスドゲスト賞へ挑戦し、見事に優勝している。アグネスワールドは同じくマル外&武豊騎手と、活躍パターンに当てはまっていた。

レースは最内枠のサラトガビューティ藤田伸二騎手、7枠7番のアグネスワールド武豊騎手はいずれもそれなりのスタートを決めた。

しかしそこから2頭が押してスピードに乗っていくと、まずは武豊騎手が内をチラッと確認。そして2番手におさまり、サラトガビューティが先頭を確保。隊列が決まると、藤田騎手も外側に顔を向け、ライバルの状況を確認。二強対決だけあって、互いを強く意識し合っているようにも見えた。

スピードの違う2頭がレースを引っ張り、ペースは緩むことなく進んでいく。他の馬たちも外から進出を試みるも、2頭に追いつくことは叶わない。先頭2頭のポジションは入れ替わることなく最後の直線を迎えた。

──速いぞ。

観衆がその速さにざわめく。直線は2頭が後続をグングンと突き放し、マッチレースに。2頭が馬体をあわせた競り合いがしばらく続く。しかし次第にアグネスワールドが前に出始めてそのまま押し切るようにリードを広げると、1馬身3/4差をつけたところがゴールだった。

2着サラトガビューティと3着エイシンパリスの差は7馬身。勝ちタイムの1:09.8は当時のレコード。さらにこの勝利は武豊騎手にとって、史上2人目の『中央競馬全10場重賞制覇』という大記録を達成するものでもあった。

馬連1.5倍、枠連1.4倍のガチガチ決着。三連複や三連単の発売もないため、一番配当が高かったのは3着馬エイシンパリスの複勝(3.1倍)。それほど抜けた存在2頭の決着だった。

今年はレコード連発 好タイム決着は必至

その後、アグネスワールドは4歳(※満年齢で表記)で武豊騎手とのコンビでフランスGⅠアベイドロンシャン賞を制覇。翌年にはイギリスGⅠのジュライカップも制し、その快速ぶりを世界に見せつけた。

2着サラトガビューティはデイリー杯3歳S2着、阪神3歳牝馬S4着など活躍。繁殖牝馬としても枝葉を伸ばしており、子世代からはポートラヴが5勝、孫世代からはユキノスライダーが6勝をあげた。

今年の函館2歳Sは芝1000mの新馬戦を逃げ切ったカイショーや、芝1200mの新馬戦を好位から抜け出したブラックチャリスらが激突。前者は2着に3馬身差をつけて2歳コースレコードを更新(56秒4)、後者も同じく2歳コースレコードを更新(1分8秒2)している。

ハイレベルなメンバーが集結し、今年はレコード決着となるだろうか。そしてここから世界のスプリント界に飛び出していく、快速馬は現われるだろうか。注目したい。

《ライタープロフィール》
緒方きしん
札幌育ちの競馬ライター。家族の影響で、物心つく前から毎週末の競馬を楽しみに過ごす日々を送る。2016年に新しい競馬のWEBメディア「ウマフリ」を設立し、馬券だけではない競馬の楽しみ方をサイトで提案している。好きな馬はレオダーバン、スペシャルウィーク、ダイワスカーレット、ドウデュース。

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