【七夕賞】迷いなき大逃げで勝利を掴み取ったツインターボ&中舘英二騎手 1993年をプレイバック
緒方きしん

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秋の飛躍を狙う実績馬たちが参戦
今週は七夕賞が開催される。古くはサクラトウコウやダイナシュートが勝利。以降もオフサイドトラップやイーグルカフェ、セイウンハーデスなどファンの多い馬が勝利してきた一戦だ。
今回は、その中でもとびきりのアイドルホースと言えるツインターボが逃げ切った1993年の一戦をピックアップして、当時のレースを振り返っていく。
1993年は天皇賞(春)をライスシャワー、宝塚記念をメジロマックイーンが勝利。主役の一角とされていたトウカイテイオーは前年末の有馬記念惨敗後に長期休養に入り、復帰戦として予定していた宝塚記念を左前トウ骨の剥離骨折で回避していた。
テイオーは復活するのか、秋に向けて新興勢力は出るのか──夏競馬からも目が離せない状況となっていた。
逃げの名手・中舘英二と共に復活の逃げ切り勝ち
この年の七夕賞には同年の天皇賞(春)6着、宝塚記念5着のアイルトンシンボリが参戦。前年に条件戦から3連勝でステイヤーズステークスを制していた素質馬だけに、どのようなレースを見せるかに注目が集まり、2番人気の支持を集めていた。
さらに同世代からはダイワジェームスが参戦。こちらはGⅠ未出走ながら、前走はエプソムカップで2着など力をつけてきており、こちらが1番人気に支持された。
その人気馬2頭に続くのが、テイオーと同期の5歳ツインターボ(※満年齢で表記)。デビューからほぼ一貫して逃げの戦法で走ってきたが、2年前の有馬記念で大敗してからは掲示板に食い込めないレースが続いていた。
前走の新潟大賞典でも2番人気とファンの支持を集めたが、結果は8着。陣営は2年前のラジオたんぱ賞で重賞初制覇を達成した福島の地へ望みを託す。
鞍上はここが初コンビ結成となる中舘英二騎手。前年フラワーカップでは10番人気ブランドアートに騎乗し、2番手から押し切る競馬で重賞初制覇を達成。スタートの上手い騎手として名を売り始めていた。
当日は福島競馬場に4万7391人もの観衆が押し寄せた。下の世代から新スターが誕生するのか、ツインターボが中舘騎手とのコンビで復活の逃げ切りを決めるのか。入場者数レコードの大観衆が詰めかけた福島競馬場は、レース前から熱気に包まれていた。
ツインターボは大外枠からのスタート。実績ある逃げ馬が何頭もおり、普通であればハナを奪うか躊躇するような状況だ。それでもいつも通り、ツインターボは迷うことなくハナを奪った。
各馬が良いスタートを切ったのも気にせず、グングンと我が道を進む。2番手には3頭が並び追いかけるが、中舘騎手とともにツインターボは軽快に逃げて後続を引き離した。他の逃げ馬たちが控えているわけではないのは、前半1000m通過のタイムを見ただけで分かった。タイムは57秒4。観衆がざわつく。
追いかける後続ではまず、マイネルヨースが3頭から脱落。前年の七夕賞では4着、同年の京王杯スプリングカップでも3着と実力を見せていたが、後続馬群へと吸い込まれた。ほどなくして、残る2頭ユーワビームとトミケンドリームも後続に吸収された。
しかし中団、後方勢がポジションを上げているように見えたのは錯覚であり、先頭に視線を戻すと、もう追いつくことは不可能にも思える差がついていた。スタンドからの声援はさらに熱を帯びる。レース前の熱狂がさらに勢いを増した。
3、4コーナーでは人気の2頭アイルトンシンボリ、ダイワジェームスが外から一気に進出。田中勝春、蛯名正義の名手たちは、ツインターボをこのまま気持ち良く行かせてはならないと必死に前を追う。
最終直線、負けられない各馬が猛然と追い込む。しかしツインターボは止まらない。差を僅かに詰めたのは2着アイルトンシンボリのみ。ツインターボは4馬身差をつけて悠々と逃げ切った。
道中2番手を追走した3頭が14〜16着と殿負けしたことからも、この日のツインターボの凄まじさが伺える。大熱狂のゴール前、あの声援は福島競馬場の夏空に深く刻まれた。
単勝3番人気だったツインターボだが、2着2番人気アイルトンシンボリとの馬連は29.8倍。多くのファンがツインターボの大逃げ勝ち切りに期待して単勝馬券を握りしめていたのだろう。そう感じさせる一戦だった。
観衆を魅了する逃げで瞬く間にアイドルホースに
ツインターボはその次走オールカマーでも逃げ切り勝ちを収め、その名を広く知られるとともに、魅力的な逃げ馬としてアイドルホースとなった。中央では1995年まで現役を続行。1994年の有馬記念では次世代のニュースター・ナリタブライアンとも対決した。
鞍上の中舘騎手は、ツインターボと組んだ1993年9月の新馬戦でコンビを結成したヒシアマゾンで一気に大レースを勝ちまくる。
その一方、逃げの名手としても親しまれ、スプリンターズS(アストンマーチャン)、中日スポーツ賞4歳S(ユーワファルコン)、中日新聞杯(グランパドドゥ)などで逃げ切りを果たしている。
ツインターボは新潟大賞典を逃げて8着から七夕賞に参戦したが、今年はシリウスコルトが新潟大賞典を逃げ切って参戦する。管理するのは、あの夏、アイルトンシンボリに騎乗してツインターボの2着になった田中勝春調教師だ。
あの日ツインターボが巻き起こしたような熱気が再び見られるか。夏の福島競馬場に注目したい。
《ライタープロフィール》
緒方きしん
競馬ライター。札幌育ち。家族の影響で、物心つく前から毎週末の競馬を楽しみに過ごす日々を送る。2016年に新しい競馬のWEBメディア「ウマフリ」を設立し、馬券だけではない競馬の楽しみ方をサイトで提案している。好きな馬はレオダーバン、スペシャルウィーク、ダイワスカーレット、ドウデュース。
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