【ターコイズS回顧】変則的な流れで適性みせたアルジーヌ “牝馬重賞に強い血”が開花する

勝木淳

2024年ターコイズステークス、レース結果,ⒸSPAIA

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逃げる津村明秀騎手の心理を読む

最大ハンデ差わずか3.5キロ。単勝オッズ一桁台が5頭と例年通り、実力差がない拮抗した戦いになった。同時に確固たる逃げ馬が見当たらず、展開読みも難しく、事前にレースの輪郭をつかめなかった。

レースを引っ張ったのは短距離を中心に使われてきたマメコ。これまで通りのダッシュを見せた結果、先手をとっていた。鞍上は津村明秀騎手。ハイペースになるはずもない。というのはその直前の10R霞ヶ浦特別で津村騎手は単勝1.6倍の一本かぶり、ヤマニンアドホックに騎乗し、逃げた。おそらくヤマニンアドホックは気が入りすぎていたのではないか。

その10Rではペースを落とす400m通過から800m標識まで10.9-10.9と飛ばしまくり、1000m通過57.4の超ハイペースを刻み、大逃げになった。中山芝1800mでこれほど速かったのは、1999年中山記念(1着キングヘイロー)、02年中山牝馬S(1着ダイヤモンドビコー)の2レースしかない。オーバーペースの前にヤマニンアドホックは15着大敗。思いっきり人気を裏切った。

騎手にとって騎乗馬が違うため、レースごとにつながりはないと言われるが、このケースではつながりを感じる。再び先手をとった津村騎手が強引な展開に持ち込むはずがない。実際、序盤こそ12.3-11.2-11.2と流れたが、向正面で11.6-11.8-11.9とペースダウン。600~1200m区間までペースを落とすという、明らかに先行優勢の流れに持ち込んだ。

この慎重なレース運びに津村騎手の心境が透けて見える。騎手だって人間。やらしかした後は細心の注意を払うものだ。マイル戦では珍しい変則ラップの正体はここにあるのではないか。

この時点で勝負は残り400mの瞬発力比べに。中山で終いだけの競馬になれば、先行勢のステージとなる。控えて溜めた馬たちはノーチャンスだった。好位~中団前で積極的に動いた馬たち同士の争いを制したのはアルジーヌ。前走オープン勝ちも、重賞経験は3着だったクイーンSだけ。実績を考えると、トップハンデタイ55.5キロは見込まれた印象だったが、ハンデキャッパーのジャッジは的確。御見それしました。


牝馬重賞に強い血統

アルジーヌは父ロードカナロア、母キャトルフィーユだから、どちらもケイアイファーム生産、ロードホースクラブ所属。出資者にとって一口馬主の魅力が詰まった馬であり、重賞勝利は無情の喜びだろう。母キャトルフィーユはクイーンSなどJRA4勝。姉レディアルバローザは中山牝馬S連覇を達成した。

彼女らの母ワンフォーローズはケイアイファームが輸入。レディアルバローザ、キャトルフィーユと重賞勝ち馬を出し、以降の産駒もケイアイファーム生産、ロードホースクラブ所属で走ってきた血統だ。フラワーCを制したエンジェルフェイスが青葉賞2着ロードレゼルを出してはいるが、この血統はいわゆる女系で、重賞勝ち馬は牝馬ばかり。アルジーヌはこの血統の3代目。ターコイズSの勝利によって、重賞勝利は4代目へとつながった。

アルジーヌはキャトルフィーユに流れるディープインパクトの血が伝える瞬発力と父ロードカナロアが持つスピードのバランスが絶妙。前走カシオペアSの1:44.8、今回の1:33.2のように速い時計が出て、極端に終いが速くない舞台がベスト。これはロードカナロアの影響だろう。牝馬重賞実績に強い血統ではあるが、牡馬相手の重賞にも適性を感じる。

2着ビヨンドザヴァレーは社台ファームが輸入したリリーオブザヴァレーの仔。兄に青葉賞を勝ったヴァンキッシュランがおり、母の父はガリレオであることからも中距離寄りの牝系。ただ、本馬は父イスラボニータに伝わるフジキセキの血が濃い。マイル前後で先行押し切りを得意とし、今回は中盤の緩みを味方に昇級初戦で結果を出した。変則的な流れであったことを踏まえれば、これで重賞即通用と見るのは早計だろう。だが、2走前の清水S勝ちは鮮やかであり、先行勢が手薄なオープン特別なら勝ち負けだ。

3着ドゥアイズも好位で運び、展開を味方につけた。今年はヴィクトリアマイル0.3秒差4着などマイルを中心にしぶとく伸びる競馬が多かったが、昨年暮れのリゲルSや今回のように好位でも立ち回れる。末脚を伸ばすよりも、“粘る”方向に発想を転換させると、成績が上向きそうだ。上がりが速くない競馬に適性があり、アルジーヌとは親和性を感じる。2頭が顔をそろえた際はセットで評価してもいい。

1番人気ミアネーロは8着。パドックは最後尾で、イレ込みが目立った。案の定、スタートで遅れて後方から。流れを考えると、チャンスはなかった。ただし、この状態でも最後は伸びており、やはり中山は合う。精神面を立て直して、再出発してほしい。

2024年ターコイズS、レース回顧,ⒸSPAIA


ライタープロフィール
勝木 淳
競馬を主戦場とする文筆家。競馬系出版社勤務を経てフリーに。優駿エッセイ賞2016にて『築地と競馬と』でグランプリ受賞。主に競馬のWEBフリーペーパー&ブログ『ウマフリ』や競馬雑誌『優駿』(中央競馬ピーアール・センター)にて記事を執筆。Yahoo!ニュースエキスパートを務める。『アイドルホース列伝 超 1949-2024』(星海社新書)に寄稿。

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