【セントライト記念回顧】進化遂げたアーバンシックの完璧な立ち回り ルメール騎手の戦略も冴えわたる
勝木 淳
ⒸSPAIA
力差を感じたトライアル
春の実績馬と夏の上がり馬が激突する秋のトライアルは、その実力差がどれほどあるかがポイントになる。セントライト記念ではラジオNIKKEI賞組のほかに対抗馬になり得る存在は1勝クラスを抜け出した2勝馬が中心。3勝をあげた馬が不在で、やや小粒な印象は否めなかった。
結果は1、2番人気が入れ替わった以外は6着まで人気通り。ほぼ下馬評通りに終わった。勝ったのは皐月賞4着アーバンシック、2着は同2着コスモキュランダと実績馬が揺らぐことはなかった。先手を奪ったのはダービーで逃げたエコロヴァルツ。番手につけたが行きたがったため、途中から先頭に立ったのがヤマニンアドホックだった。上がり馬は全体的についていけなかったあたりに力差を感じた。
先行集団がバラバラで後ろが団子状態という隊列もそんな実力差ゆえだろう。前半1000m通過1:00.5は馬場を考えると、スローペース。残り600mまで12秒台前半が続く流れでは、勝負をかけ、動かないと上位進出は望めない。動いたのは2着コスモキュランダで、よほど自信がないと厳しかったか。
コスモキュランダが外から抜群の手ごたえで進出し、残り600mは11.7-11.4-11.5。レースを先に動かしたコスモキュランダは主役にふさわしい堂々たる走りをみせたが、それをインで狙っていたのがアーバンシック。冬開催で目立つ直線向かい風や前夜の雨も影響したか、開幕週ほど高速化しなかったものの、上がりが速い中山では極力インを立ち回る効率のいい走りを求められる。
この日5勝をあげたルメール騎手はこれで中山重賞2連勝。今秋の中山を手の内に入れている。内で脚を溜め、最後は目標となる馬の外へ。アーバンシックの競馬は完璧だった。そう考えると、3~4角を外から先に攻めて早めに先頭へ立ったコスモキュランダはかなりの距離損だったが、やはり中山だとコーナーでの加速力が違う。強い競馬と完璧な競馬が交錯した結果の着順であり、着差1馬身3/4ほどアーバンシックとの差はない。
アーバンシックの進化
完璧な立ち回りで重賞タイトルをつかんだアーバンシックは母の母ランズエッジ、母の父ハービンジャー、父スワーヴリチャードだからレガレイラと同血になる。ローズSで反応の悪さがアダとなったレガレイラに対し、アーバンシックは完璧な競馬を完成させた。騎手も同じルメール騎手なわけで、競馬は不思議だ。
どちらも皐月賞では後方からいささか遅れ差しの形になり、惜敗。距離延長+直線が長いダービーで巻き返すのではと期待され、レガレイラ2番人気、アーバンシック4番人気も、結果は5、11着。スローで動けなかった。
秋緒戦で春と同じような内容で敗れたレガレイラに対し、アーバンシックは見事な立ち回り。ここにきて血統面だけでは語れない部分が出てきた。パドックでもレガレイラより歩幅が狭く、歩くピッチが速い。元来、反応が悪いわけではなく、春はまだ体が追いついていないため、あえて控えて競馬をしていたのではないか。
秋になり、自身の走りと体が合致してきたことで、立ち回りの巧さが出てきた。折り合いの不安もなく、菊花賞も楽しめる。今度はダノンデサイルの背後を追走していても不思議はない。位置さえ取れれば、決め手は決して劣らないはずだ。母の母ランズエッジはディープインパクトの妹であり、父はダンスインザダーク。距離の心配はいらない。競馬の形が完成しつつある秋は飛躍できる。
父アルアインをなぞるコスモキュランダ
2着コスモキュランダは負けて強しも、こちらは距離が微妙だろう。母サザンスピードはコーフィールドC(芝2400m)を勝ってはいるものの、芝1400~1600mで4勝をあげており、本質は長い距離向きとはいえない。その父サザンイメージもダート10ハロンのサンタアニタハンデなど中距離が中心。
そこに父アルアインだから、コスモキュランダのベストは2000m前後だろう。ダービーも一緒に途中で動いたサンライズアースに伸び負けた。中山に滅法強いなどアルアインの血が濃く、距離延長に不安が残る。アルアインもセントライト記念2着から菊花賞は7着に敗れている。もっとも、この年の菊花賞はキセキが勝った極悪馬場の年。その影響を差し引いても、不安は不安だろう。
一方でアルアインほど先行力はない。前半で脚を使わず、途中で動いて優位な位置をとり、粘り込むなど、策がないわけではなさそうだ。
権利付与の最後ひと枠3着にはエコロヴァルツ。途中でヤマニンアドホックに動かれるも、あわてず騒がず。最後は差して3着は確保した。流れ的に優位に進めた面は否めないが、先行できるということは、何度だって恵まれる可能性を秘めている。ダービーに比べると、粘り強さを増しており、先行する競馬に馬も慣れてきた。もうひと押し効くようになれば、楽しみも増すだろう。
ライタープロフィール
勝木 淳
競馬を主戦場とする文筆家。競馬系出版社勤務を経てフリーに。優駿エッセイ賞2016にて『築地と競馬と』でグランプリ受賞。主に競馬のWEBフリーペーパー&ブログ『ウマフリ』や競馬雑誌『優駿』(中央競馬ピーアール・センター)にて記事を執筆。Yahoo!ニュースエキスパートを務める。『キタサンブラック伝説 王道を駆け抜けたみんなの愛馬』(星海社新書)に寄稿。
《関連記事》
・【神戸新聞杯】ダービー上位馬不在で条件戦組に好機 血統も後押しするオールセインツとメリオーレム
・【オールカマー】5番人気以内、4歳馬が好データ レーベンスティール、サリエラが有力
・【神戸新聞杯】過去10年のレース結果一覧
おすすめ記事