【セントウルS回顧】課題を克服したトウシンマカオ 充実一途でGⅠ制覇に向けチャンス到来
勝木淳
ⒸSPAIA
進化が止まらないトウシンマカオ
中山の京成杯AHと同じく、こちらもサマーシリーズ最終戦というより、今秋に向けた前哨戦といった色が濃かった。夏の主役ピューロマジック、モズメイメイもサマースプリントシリーズ逆転優勝をかけたが、レースは完全にスプリンターズSの前哨戦。レースは大外枠からあり余る前進気勢をみせたママコチャが積極的に3番手につけた。ダッシュ力で先手を奪ったピューロマジックは逃げたものの、これまでにないプレッシャーを受けた。今までは卓越したスピードで後ろを離し気味に進める同馬だったが、今回は後ろについて来られた。やはりコース形態上、ペースが上がりにくい中京で飛ばすのは簡単ではなく、メンバーもさすがに前走よりワンランク上だった。
ほぼ一団でひしめき合いながら迎えた後半は11.4-11.1-11.6。ここでついて来られない馬も多かった。これらハイレベルな先行勢の競り合いを後方から狙ったのが勝ったトウシンマカオ。ママコチャが休み明けのぶん、最後に脚が鈍ったところを見逃さなかった。これまで中京は【0-0-0-4】だが、2回は不良と重の高松宮記念。良馬場ならシルクロードS4着と鬼門というほどではなかった。表面的な成績の向こうを見ないといけなかった。反省したい。
さらにこれまで成績を残せなかった中京で上がり600m33.1の強烈な決め手。こういった一変は本格化の合図である可能性が高い。かつては平坦中心、その後は中山で重賞を勝ち、中京もクリアした。着実にGⅠに近づいている。好位から抜け出す好走パターンも今回は差して結果を出した。脚質の幅も広がり、マイナスポイントはほぼなくなった。これも本格化と呼んでいい。
母ユキノマーメイドの産駒には8歳でOP特別を勝ったベステンダンクがいる。その下のサンキューも7歳で3勝目をあげた晩成の血。トウシンマカオの成長曲線も母系の良さのあらわれ。父ビッグアーサーは5歳時に高松宮記念を勝ち、セントウルSも勝った。1番人気に推された同年のスプリンターズSはもはや語り草となっている最内ドン詰まりで消化不良の12着。トウシンマカオは父のぶんもスプリンターズSで思う存分走ってほしい。本番で1枠1番だけは引かないことを祈る。とはいえ今の自在性なら克服する可能性もある。
意外性のモズメイメイ
2着ママコチャは休み明けで+10kg、大外枠で前に壁がつくれず、かなり行きたがった。状態がよかった証だろう。休み明けで付いていけないより、次走につながる内容だった。好位の外から11.4-11.1を抜け出しており、脚力は明らかに上。爪の不安もなくなり、次走は最有力。クロフネの牝馬はソダシ、カレンチャン、アエロリット、ホエールキャプチャなど5歳でも活力を落とさない。ママコチャは7~9月【2-2-1-0】でこの時期に強い。今年のスプリンターズSは9月29日。データもあと押しする。
3着モズメイメイは最内枠から好位追走。この夏、競馬が非常に上手になったという意味でも上昇著しい。最後は狭いところを我慢強く抜け出しており、またひとつ新たな面をみせた。ただ、さすがに抜け出すのに手間取った感もあり、3着確保が精一杯。サマースプリントシリーズ逆転優勝を逃した。酷暑のなか、中3、中5週で3度走っただけに、GⅠに向けての上昇はどうだろうか。しかし、今回も7番人気に甘んじたように、人気と結果が裏腹なところがある。チューリップ賞7番人気1着など、つねに意外性を秘めるタイプだけに簡単には見限れない。
1番人気ピューロマジックは13着。デビュー3戦目から逃げるようになり、崩れたのは1400mのファンタジーS以来。1200mでは初だった。ここ2戦は葵S、北九州記念と平坦コースでスピードを発揮してきた。坂がある阪神だと1勝クラス2着、マーガレットS2着と最後に甘くなった。敗因はハイレベルな先行勢に突っつかれて厳しかっただけではなく、坂がこたえたのもあったか。中京は残り400~200mに坂がある。ピューロマジックが早々に脱落したのは明らかに坂適性。スピードタイプにはこの手のタイプが多く、トウシンマカオのようにいずれ克服する馬もいる。
また、中京は独特のコース形態でコース巧者を生む一方、苦手な馬も多くいる。中京は巧者を味方に、人気馬が苦手なら軽視する。難しいコースだからこそ、シンプルな作戦が有効になる。
ライタープロフィール
勝木 淳
競馬を主戦場とする文筆家。競馬系出版社勤務を経てフリーに。優駿エッセイ賞2016にて『築地と競馬と』でグランプリ受賞。主に競馬のWEBフリーペーパー&ブログ『ウマフリ』や競馬雑誌『優駿』(中央競馬ピーアール・センター)にて記事を執筆。Yahoo!ニュースエキスパートを務める。『キタサンブラック伝説 王道を駆け抜けたみんなの愛馬』(星海社新書)に寄稿。
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