【京成杯AH回顧】ハンデ55.5kgでも完勝したアスコリピチェーノ タイムトゥヘヴンは中山なら再浮上も
勝木淳
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ハンデ55.5kgも完勝だったアスコリピチェーノ
1986年以降、3歳馬は古馬ハンデ戦で76勝をあげた。このうち、もっとも重い斤量を背負ったのは1988年鳴尾記念ヤエノムテキの58kg。牝馬の最高は56kgで93年阪神牝馬S(当時は阪神牝馬特別)ノースフライト、06年愛知杯のアドマイヤキッス。どちらも牝馬限定戦だった。次に重いのが92年鳴尾記念タケノベルベットの55kg。つまり、55.5kgで京成杯AHを勝ったアスコリピチェーノは牡馬相手にハンデ戦を勝った最重量記録を打ち立てたことになる。
思えば今夏、CBC賞でピューロマジックが同じ55.5kgを課せられ回避。重賞連勝中とはいえ、GⅠ馬アスコリピチェーノが同斤量だったのは恵まれたともとれる。そう考えたくなるほどの快勝だった。
前後半800m45.6-45.2のイーブン。高速馬場ゆえ記録ほど厳しくない。各馬、力を出せる状態でレースが進むなか、アスコリピチェーノは中団の外を追走した。外を回ると間に合わない。そんな馬場は百も承知。それでも差せるのは、ここでは格が違うということだろう。
終始外を回り阻むものもなく、ブレーキをかけることなく走りきって、2着タイムトゥヘヴンに1馬身1/4差。素晴らしい走りで好発進を決めた。今さらながら振り返ることはない。
だが、この先の可能性については想像が膨らむ。兄アスコルティアーモはキタサンブラック産駒だが、1800mは4勝に対し、2000mは【0-1-1-0】で距離の壁が存在する。短距離に適性があることが多い父ダイワメジャーの本馬がマイルにこだわるのは納得だ。
高速馬場とはいえ、1:30.8、上がり32.7で差し切ること自体がマイラーの証。京成杯AHからの始動はマイル路線を歩むことを意味するが、その目標はどこだろうか。11月初旬の豪州のゴールデンイーグルやブリーダーズCマイルなのか、それとも11月17日のマイルCSなのか。京成杯AHで始動したのも遠征の意識があったからではないか。結果次第でその選択肢があったとするなら、この勝利で現実味を帯びてきた。
後半4Fが意味するものとは
とはいえ、2着は近走冴えないタイムトゥヘヴン。メンバーレベルを現実的に判断するなら持ち上げすぎもよくない。近年は勝つと持ち上げすぎるきらいがあり、次走以降過度に期待をかけすぎる風潮もある。競馬はそんなに浅くはない。レース直後の感動も大事だが、冷静になって分析する力も問われる。馬券力はそうやって養われる。
それでもレースラップを振り返ると、レベルが低い戦いともいいきれない。後半800mは11.7-11.4-11.2-10.9と加速しており、最後の10.9で脱落する馬は多かった。高速馬場の助けがあったにせよ、差し切ったアスコリピチェーノは一定の評価をしないといけない。紫苑Sも同じようなラップをゴールまで描いており、今週の馬場特有の傾向かもしれないが、それでもゴールに向かって加速し続けるのは理想的な走りといっていい。
適性外でも踏ん張ったサンライズロナウド
2着タイムトゥヘヴンはこれで中山【2-3-0-9】。2年前のダービー卿CTを勝ったコース巧者だ。だが、22年京王杯SC3着以降は3着以内がなく、昨秋から大きな着差が目立っていた。いわゆる頭打ちの状況にあった。
前走関屋記念から再び手綱を任された柴田善臣騎手は後方から直線一本の競馬で闘志を蘇らせようとした。今回は中山で上がり600m33.5という後半は極限に近いレースになったため、最後まで走り切れる馬が少なかった。いわゆる展開待ちがハマった。この2着で復活とは必ずしもいえないかもしれないが、中山で展開さえ向けば好走できることは証明した。活躍する場が残されている以上、がんばってほしい。
対照的だったのは3着サンライズロナウド。関屋記念では後方2、3番手から直線一気にかけたが、今回は一転して先行策を選び2着争いを演じた。
横山典弘騎手は京成杯AH6勝。それもゼンノエルシド1:31.5、レオアクティブ1:30.7、トロワゼトワル1:30.3など高速決着の京成杯AHに強い。そんな名人の先行優勢の馬場を読み切った戦略が冴えた。サンライズロナウドは少し時計がかかる馬場が得意で、2着タイムトゥヘヴンにつかまったのは展開と適性の分だろう。いいかえれば、現状は時計が少しかかる馬場になれば、強気に本命を打てる。
2番人気ディオは6着。内枠から先行する姿勢をみせるも、外のドルチェモアなど先行意欲を示す馬が多く、引く形になったのは痛かった。後半が非常に速い馬場だったことを踏まえれば、理想はもう一歩前で流れに乗りたかったところ。位置取りで優位に立てる組み合わせなら再浮上する。コースを選ばないかわりに流れを選ぶタイプ。展開利が見込めれば、あっさりもある。
ライタープロフィール
勝木 淳
競馬を主戦場とする文筆家。競馬系出版社勤務を経てフリーに。優駿エッセイ賞2016にて『築地と競馬と』でグランプリ受賞。主に競馬のWEBフリーペーパー&ブログ『ウマフリ』や競馬雑誌『優駿』(中央競馬ピーアール・センター)にて記事を執筆。Yahoo!ニュースエキスパートを務める。『キタサンブラック伝説 王道を駆け抜けたみんなの愛馬』(星海社新書)に寄稿。
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