【CBC賞回顧】ドロップオブライトが重賞初V ピタリとハマった福永祐一調教師の戦略と幸英明騎手の好騎乗

勝木淳

2024年CBC賞のレース結果,ⒸSPAIA

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福永祐一厩舎の戦略

8月18日に中京競馬場で開催されたCBC賞は、福永祐一厩舎のドロップオブライトが好位3番手から抜け出し、重賞初Vを決めた。父トーセンラー、その母プリンセスオリビアから受け継ぐ成長力に魅力を感じる。

ドロップオブライトの勝利により、福永祐一調教師は重賞初タイトルを獲得した。開業から6カ月。6勝目での達成だった。

開業以来、的確なコメントでファンの支持を受ける姿勢は騎手時代から変わっていない。ドロップオブライトも「目一杯仕上げた。絶好調」と表現し、「知立Sを勝ったときからここへ」と手ごたえを表現した。

昨年オープン入りを決めた知立Sは、少頭数ながら離れた3番手から上がり600m32.9を記録して1.07.6で快勝。2着に2馬身差をつけた。頭数が少ないため目立っていないが、中京芝1200m適性を確信するには十分すぎる内容といっていい。

当時は松永昌博厩舎に所属しており、3月の六甲Sから福永祐一厩舎へ。1600、1400mと長めの距離を使い、距離の融通を模索しつつ長い距離で溜めを効かせられるよう試みた。

そして、満を持して中京芝1200mへ。この舞台は3コーナーまで400mもなく、小倉や中山のような下り坂でもない。激流になりにくい上に最後に急坂が待ち構える。なにがなんでも飛ばすという気概をもつ先行型がいない限り、速い流れは期待できない。

実際、スピード型ピューロマジックはハンデ55.5キロを嫌ってここを回避し、流れは落ち着く公算が高かった。ハイペースにならない高速馬場とあっては、先行型に断然有利。案の定、前後半600mは33.6-33.9。序盤で好位にいないと勝負圏内はなかった。

ドロップオブライトは枠順を活かして好位3番手で流れに乗り、ひと溜め。1400mを使った成果だろう。激流にならなかったことで、追走も楽。伸びないわけがなかった。最後は進路どりひとつ。これもグレイトゲイナーの内をタイミングよくこじ開けてクリア。福永祐一調教師、幸英明騎手、どちらも会心の一鞍だったにちがいない。


父トーセンラーの成長力

思えば、先週の小倉記念はキングヘイロー産駒リフレーミングが勝ち、今週は福永祐一調教師がCBC賞を勝った。中京といえば、キングヘイローにとってはGⅠ制覇を果たした地であり、福永祐一騎手が初騎乗初勝利をあげた競馬場でもある。26年前のクラシック三冠を戦い抜いたひとりのホースマンと、一頭の名馬。その物語が微かにつながっているような気もする。

ドロップオブライトの父トーセンラーは早期に重賞を勝ち、5歳秋のマイルCSでGⅠタイトルを獲得した。ディープインパクト産駒としては珍しい晩成型でもある。弟スピルバーグも若い頃はもどかしくも、5歳で天皇賞(秋)を制した。

ドロップオブライトの兄弟はプレシャスエース、テンテキセンセキなど活躍馬は短距離型ばかり。父の成長力と母系の距離適性を背景に、スプリント戦線で活躍してほしい。福永祐一調教師は早くも来年の高松宮記念を目標に、理想のローテーションを模索しているのではないか。


気がつけば“キングヘイロー馬券”

2着は3番人気スズハローム。抜群のスタートから下げて好位の後ろへ。スプリント戦特有の流れを避け、ひと溜め効かす作戦だったかもしれないが、結果的に溜めを効かせ過ぎたか。ドロップオブライトぐらいの位置に留めたかった。

だが、スプリント戦初出走のスズハロームに無理強いはできない。馬のリズムを整えながら走らせるには、好位の後ろが精一杯だったともとれる。もう少し流れてくれればといったところか。

選択肢が増える半面、今後の選択は難しくなった。ベストの1400mはGⅠがない。だが、中山芝1200mは忙しそうな予感もある。やはり、1400mに照準を絞ってもよさそうだ。

母の父ローレルゲレイロは2009年高松宮記念の勝ち馬。その父はキングヘイロー。キングヘイローに夢中になったものにとっては簡単な馬券だったか。

3着は先手を奪ったグランテスト。ピューロマジック回避で坂井瑠星騎手が一発を狙い、逃げの手にでた。まさに機を見るに敏。見事に策が当たり、前半600m33.6の絶妙なペースを演出した。

一方、ハンデ52kgでペースに恵まれながらも勝ち切ることができなかった。重賞を勝つにはもっと力をつけたいところだ。オープン特別で力を蓄え、再び重賞に挑戦してほしい。武器である先行力は発揮できた。現状、ベストは平坦コースだろう。

1番人気キタノエクスプレスは7着。前走1.07.0で走った反動もあったか。今回は少し位置が下がり、展開面で痛かった。溜めて伸びるタイプではなく、今後も先行策で上位を狙ってほしい。


2024年CBC賞のレース回顧,ⒸSPAIA


ライタープロフィール
勝木 淳
競馬を主戦場とする文筆家。競馬系出版社勤務を経てフリーに。優駿エッセイ賞2016にて『築地と競馬と』でグランプリ受賞。主に競馬のWEBフリーペーパー&ブログ『ウマフリ』や競馬雑誌『優駿』(中央競馬ピーアール・センター)にて記事を執筆。Yahoo!ニュースエキスパートを務める。『キタサンブラック伝説 王道を駆け抜けたみんなの愛馬』(星海社新書)に寄稿。

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