【札幌記念回顧】ノースブリッジが強気な競馬で快勝 モーリス産駒の得意条件を見事に生かす
勝木淳
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苦手を克服する難しさ
誰にでも苦手なことはある。不得手に対してどうするか。この考え方も時代とともに変化してきた。かつて、苦手は絶対克服しなければいけない壁だった。しかし、苦手に時間を要するぐらいなら、得意を伸ばす方が実力を発揮できるという心持ちが主流になり、プラス思考の大切さに重きを置くようになってきた。それでも苦手が自身のパフォーマンスに大きく影響するなら、決して避けられない。完璧に消すことはできずとも、せめて苦手意識を拭える程度には克服しなければいけない。
プログノーシスはまたもゲートが開く寸前で暴れてしまい、体勢が整わないままスタートすることに。この日、奇しくもCBC賞ではサウンドビバーチェが本馬場入場時に3度目の放馬。どちらも陣営は様々な工夫を施し、再発防止に努めてきた。それでも苦手は越えられない。人も馬も同じだ。苦手なものはどうしたって苦手。最後は自身の力で克服するしかないが、それは人間以上に馬にとっては難しいこと。これも競馬特有のもどかしさでもある。
モーリス産駒らしいノースブリッジ
一方、得意な形に持ち込んだのが勝ったノースブリッジだ。これで重賞3勝目。エプソムC、AJCC、札幌記念。一見、バラバラなようにみえるが、さすがはモーリス産駒といった戦歴といえよう。産駒が得意とするのは広いコースを先行して押し切る形だ。ところが高速決着は苦手だからモーリス産駒は悩ましい。東京のような広いコースは一般的に高速決着になりやすい。高速決着、特に上がりが速い競馬にウィークポイントがある同産駒は好走条件を選ぶ。道悪の東京、コーナーが緩い中山外回り、そして札幌は得意とする。適度に時計がかかる広いコースのイメージに近い。
小回りをこなす器用さがあれば、モーリス産駒が活躍する場も増えると思うが、できればコーナーが緩く、曲線部分で急かされない競馬がベスト。札幌記念はジャックドールに続き早くも2勝目。モーリス産駒は得意不得手がわかりやすく、ある意味で付き合いやすい。
レース展開はプログノーシスが後方になり、完全にレースの眼は後ろについた。アウスヴァールが逃げ、離れた2番手にノースブリッジ。この形も最高だった。リズムよく運びながら、後ろについたレースの眼を気にすることなく、早々にアウスヴァールをとらえに動いた。まずは自分の競馬に徹することを優先する。岩田康誠騎手らしい潔い競馬もノースブリッジには合う。強気な競馬と舞台設定。すべてが合致した勝利といえる。
中東、香港と果敢に挑み、札幌記念制覇までたどり着いた。当然、残すはGⅠ。天皇賞(秋)が距離としては合う。当日の馬場が少しでも時計を要してくれれば、チャンスは巡ってくる。この辺はモーリス産駒らしく、割り切って考えたい。
ノースブリッジと似た適性のジオグリフ
2着ジオグリフは今年の中山記念以来の馬券圏内。こちらはドレフォン産駒で芝だと速くなりすぎない馬場とコースがベスト。札幌は重賞を勝った舞台であり、適性が一致する。ノースブリッジと似たような適性があると覚えておきたい。今回は後ろにいるプログノーシスのまくりを警戒し、思い切ってノースブリッジとの差を詰められなかった。前年は道中で位置を押し上げる競馬だっただけに、これは仕方ない。これもレース展開のあやだ。
3着ステラヴェローチェも適度に時計がかかる舞台が良かった。1.45.4で勝った大阪城Sもあるが、本質は少し時計を要する馬場でこそ。休養が長く、思ったように競馬に出走できていないが、今年は順調だ。使いながら復調しており、秋は面白い存在になるだろう。
プログノーシスは4着。苦手なゲートは織り込み済みで、これまではまくりで打破してきた。今回も同じような状況ながら、昨年のようにはいかなかった。パフォーマンスが落ちたともいえるが、休み明けは走りすぎるタイプだけに、今回はそれを考慮した調整だったともとれる。次走が試金石だろう。
ライタープロフィール
勝木 淳
競馬を主戦場とする文筆家。競馬系出版社勤務を経てフリーに。優駿エッセイ賞2016にて『築地と競馬と』でグランプリ受賞。主に競馬のWEBフリーペーパー&ブログ『ウマフリ』や競馬雑誌『優駿』(中央競馬ピーアール・センター)にて記事を執筆。Yahoo!ニュースエキスパートを務める。『キタサンブラック伝説 王道を駆け抜けたみんなの愛馬』(星海社新書)に寄稿。
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