【中京記念回顧】弱点克服のアルナシームが勝利 スピードの持続力武器に右の1800巧者へ
勝木淳
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アルナシームの秘める力
2024年7月21日に小倉競馬場で開催された中京記念はアルナシームが優勝。今年もカギを握ったのは小倉実績と1800m適性だった。
早くも小倉の夏は終わり、2024年小倉開催は終幕した。小倉芝1800mの中京記念は21、22年以来2年ぶり。過去2年の結果からみえるのは、サマーマイルシリーズであって非なるもの。1800mを得意とするか、小倉巧者か。はたまた両方か。
戦前の見立てどおり、勝ったアルナシームは1800m【4-2-0-4】、それも右回り1800m【4-2-0-2】で小倉大賞典4着の実績がある。逆にその4着に不安視する声もあったが、ハイペースを好位で粘って0秒3差と結果以上に内容は濃かった。
アルナシームといえば、3年前の東京スポーツ杯2歳Sを真っ先に思い出す。デビュー2戦目、3番人気と人気を背負ったこのレースで外枠からリズムを乱し、中盤にもかかわらず後方から動いて先頭に並ぶという若さあふれる破天荒な競馬を披露した。
結果は勝ったイクイノックスのポテンシャルを引き出し、6着。残り1000mのレースラップは11.7-11.6-11.0-11.9-11.4。同条件の毎日王冠でもなかなかお目にかかれないラップを2歳で叩き出した。厳しい競馬を演出しての6着は、気性面など時間はかかるかもしれないが、秘める可能性も感じさせた。
その後はマイル路線に向かうなど、流れに乗れるよう気性のコントロールを主軸に使われてきた。4歳6月の垂水S(阪神芝1800m)を逃げ切りオープン入り。昨秋カシオペアSでオープン初勝利。折り合いは改善され、鞍上のペース判断に従えるようになっていった。
そして今年5月の都大路Sで横山典弘騎手と初コンビを結成し、2着。かつて前進気勢が強すぎたアルナシームが中団から差す形をとれた。馬のリズムを第一に考えるベテランが気分よく走らせながら、それでいて勝負になるポジションをとれるよう味つけした。
経験を糧に成長した走り
中京記念は上手に走れるよう競馬を教えてきた陣営と、横山典弘騎手の最後のひと押しが最高の結果を導いた。
逃げ宣言のセルバーグ、行かないと持ち味を出せないテーオーシリウスが内枠に入り、どちらも引かない構えをみせた。序盤から12.2-10.4-11.7-11.5-11.7と先頭はラップを落とさず、前半1000m通過57.5。アルナシームにとって走りやすいハイペースの縦長隊列になった。
さすがに飛ばしすぎで、後半800mは12.4-12.5-12.5-12.3と失速のステージへ。テーオーシリウス、セルバーグが早々に脱落し、自然な形で好位集団につけたアルナシームは勝負圏内へ。ハイペース特有のラスト200m大失速とはならず、最後を12.3でまとめられたのはアルナシームの秘めるポテンシャルの証であり、小倉大賞典などの経験があったからこそ。
母の母はドバイマジェスティで、叔父にはアルアイン、シャフリヤール兄弟がいる。父モーリスの成長はゆっくりで、5歳にして心身ともに充実期を迎える。血統が伝えるスピードの持続力を武器に、1800mのスペシャリストとして活躍するだろう。
ただし、左回りは最後のひと伸びができないという弱点がある。次走が毎日王冠だと不安を感じる。もちろん、左回りを克服する可能性は否定できないが、現状では不安が大きい。とはいえ右回りの1800mと好走範囲が狭くても、それもまたアルナシームの個性だ。適条件での活躍を楽しみにしたい。
粘り腰が戻ってきたエルトンバローズ
2着エピファニーも、小倉大賞典覇者のコース巧者。向正面で外目に持ち出したかったが、出すチャンスがなく、勝負所は内へ。最後も極力、最内を避けるようにコースを選ぶも一歩足りなかった。
アルナシームの背後からその外を狙ったようだが、先行2頭がバテ、馬群が早めに一団になり、外へ持ち出せなかった。クビ差は内を上手くすくえた分のようにもみえたが、馬場のいい外を攻めていたらもっと弾けたのではとも思わせる。
小倉巧者であり、上がりが速くならない競馬が合う。瞬発力は足りないが、持続力なら負けない。今後も舞台を選びそうだ。
3着エルトンバローズはアルナシームの目標になってしまい、競り落とされた。
自在な脚質が魅力のディープブリランテ産駒。同産駒は速い上がりだとしんどい馬が多いが、エルトンバローズは先行して速い上がりも粘れる。中距離で強気に攻めて活路を見出したいところ。ブリンカーを着用して本来の粘り腰が戻ってきた印象があり、展開を味方につけてひと暴れしてほしい。
ライタープロフィール
勝木 淳
競馬を主戦場とする文筆家。競馬系出版社勤務を経てフリーに。優駿エッセイ賞2016にて『築地と競馬と』でグランプリ受賞。主に競馬のWEBフリーペーパー&ブログ『ウマフリ』や競馬雑誌『優駿』(中央競馬ピーアール・センター)にて記事を執筆。Yahoo!ニュースエキスパートを務める。『キタサンブラック伝説 王道を駆け抜けたみんなの愛馬』(星海社新書)に寄稿。
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