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【東京新聞杯】4連勝で重賞V! いよいよ覚醒、イルーシヴパンサーの可能性とは

2022/02/07 10:40
勝木淳
2022年東京新聞杯のレース展開,ⒸSPAIA

ⒸSPAIA

時計次第で春も期待できる東京新聞杯

冬開催とはいえ東京新聞杯は相当速い時計が記録される。19年インディチャンプは1.31.9を叩き出し、安田記念まで駆けあがった。さすがは総合力が問われる東京芝1600m。裏づけに十分な時計さえ計時できれば、GⅠへの道も開ける。

しかし、速い時計には前半の流れが重要。前半800mにかかっているといっていい。17年ブラックスピネル1.34.9では前半800m49.8、18年リスグラシュー1.34.1も47.6。上記19年は45.7。平均より速めに流れていないと速い時計は出ない。差し馬にはコントロールできない前半800mが差し馬の素質を計る材料になり、その力を引き出すことになる。すべてを支配できないから競馬は面白い。

今年は3連勝で3勝クラスを卒業したイルーシヴパンサーが後方2番手から追い込みを決めた。その記録は1.32.3、前後半800mは46.4-45.9。極めてバランスのとれた平均ペースにイルーシヴパンサーの底力が引き出された。上がり最速33.1は次位カラテに0.8差をつける記録。この決め手をこれからも活かしたい。

先行馬には辛い早めのスパート

レースは58キロを背負ったトーラスジェミニが先行、59キロのケイデンスコールが積極的に番手にとりつき、ディアンドル、ヴェロックスが追う。前半800m12.2-11.1-11.4-11.7。速くなりそうな雰囲気もありつつ、トーラスジェミニがペースをコントロール。重賞レベルの馬たちであれば余裕で追走できる流れになった。その証拠に馬群がバラけず、ひと塊で進んだ。そのため内枠勢は密集した馬群に入り、プレッシャーを受け、進路を失った馬や力を出せなかった馬もいた。

その後は11.6-11.2-11.4-11.7。半マイル通過付近の3、4コーナーでわずかにペースが落ち、密集したまま勝負所へと入った。4コーナー付近からトーラスジェミニが一気にスパート、後ろもそれについていく。みんな手応えは楽だったので当然の仕掛けだが、結果的にはここでスパートした組が残り400m11.4で脚を使い切り、苦しくなった。

重賞らしくもったいぶらず、先行勢が先に仕掛けていく積極策によって差し馬に出番が回ってきた。東京競馬場で残り600~400mで速いラップを刻むと、坂をあがってから逆転される。一方で後ろを引きつけ過ぎると、直線で切れ負けしてしまう。東京競馬場の重賞を先行して押し切るのは難しく、それをクリアした馬はその先も注目すべきだろう。

勝負所で待たされた2、3着馬

差し馬に向いたとはいえ、みんな手応えに余裕があれば、スペース争いが激しくなる。進路をクリアにできず仕掛けが遅れた馬も多かった一方、勝ったイルーシヴパンサーは後方2番手、馬群に入らず追走したので、直線は大外に回れた。

これでコンビを組んで4戦4勝の田辺裕信騎手らしい気楽な競馬に見えたが、本人はこれまでの競馬を踏まえ、もうちょっと位置を取りたかった様子。馬のリズムに合わせた位置取りが結果を導いた。馬群に入っていれば、末脚をすべて引き出せただろうか。戦前の作戦にはめ込まず、馬と呼吸を合わせる騎乗は馬との信頼関係の証だった。

それにしても最後の決め手は迫力満点。3歳春は少し足りないところがあったが、1勝クラスから出直し、東京競馬場で3連勝。末脚を磨きあげた。18年リスグラシューと同じハーツクライ産駒特有の成長曲線が追いつき、覚醒した感もある。勝ち時計1.32.3はもう少し詰めないと苦しいが、末脚勝負のイルーシヴパンサーなら、前半の流れ次第で短縮も可能だろう。安田記念が楽しみになった。

2着は1番人気ファインルージュ。昨年三冠3、11、2着からマイルへの転戦は期待が大きかった。2着と結果を出したことでシフトは成功したといえよう。馬群に入ったため、勝負所で進路がなく、仕掛けを待たされた。その分、早めのペースアップに付き合わずに済み、脚もたまった。気になるのは相手が落ちたここも、勝ち馬に並べず2着と勝ちきれない雰囲気が出てきたところ。相手なりに走れる強みがウィークポイントにならなければいいが。

3着昨年の覇者カラテは、今月末引退の高橋祥泰調教師の管理馬。最後の直線は決してスムーズといえなかっただけにもったいなかった。それにしても毎年苦戦するニューイヤーS組だが、3着まで来たのはさすが。昨年は先行抜け出しで勝利したが、最近は前半の位置取りが後ろになりつつある。重賞で末脚勝負は分が悪い。年齢的なものかもしれないが、もう少し前で勝負したい。


2022年東京新聞杯のレース結果,ⒸSPAIA



ライタープロフィール
勝木 淳
競馬ライター。競馬系出版社勤務を経てフリーに。優駿エッセイ賞2016にて『築地と競馬と』でグランプリ受賞。主に競馬のWEBフリーペーパー&ブログ『ウマフリ』や競馬雑誌『優駿』(中央競馬ピーアール・センター)にて記事を執筆。Yahoo!ニュース個人オーサーを務める。共著『競馬 伝説の名勝負』シリーズ全4作(星海社新書)。




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