【シンザン記念】苦肉の策でも重賞勝利! 名手のジャッジにみえるマテンロウオリオンの武器とは

勝木淳

2022年シンザン記念のレース結果,ⒸSPAIA

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2戦目万両賞でのポツンのワケ

ときに芸術的な競馬でファンを魅了する横山典弘騎手。レース後にその内容について克明に語ることは珍しい。和生、武史騎手の父、つまりは昭和の男。メディアには多く語りたがらない。だらこそ、レース直後のインタビューで騎乗内容について語った詳細は貴重だ。しっかり心に留めておきたい。

マテンロウオリオン陣営はデビュー戦勝利、中1週で万両賞出走を描いていた。だが新馬戦でフェアリーS3番人気エバーシャドネーに捕まり、2着。未勝利のまま万両賞に出走、強気な格上挑戦だった。鞍上は昆厩舎の主戦である横山典弘騎手。

2度目の競馬はパドックをゆったりと周回、落ち着きというより、のんびりしていた様子。そういった精神状態からかゲートで出遅れてドン尻。馬のリズム重視が身上の横山典弘騎手は急かしたりしない。折り合えるポジションが最良の位置。いわゆる「ポツン」にはワケがある。ゆったりと構えて、最後は大外一気。上がり600mで次位に1秒差。年末にふさわしいド派手な走りを披露した。シンザン記念のレース後、横山典弘騎手はマテンロウオリオンの武器を切れ味と表現。言うなればシンザン記念は得意パターンを崩した競馬だった。

変幻自在な競馬に込められた名手の意図とは

3戦目でマテンロウオリオンはパドックから気難しさをみせる。若駒が間隔を詰めて出走すれば自然なこと。競馬を覚えて、かえって前向きになりすぎてしまう。これをクリアして賞金を加算しないと春はもっと厳しい。万両賞のような競馬はできないと悟った横山典弘騎手は、行かせ過ぎず、リズムを乱さないギリギリのラインを探った。リズム重視であっても、馬任せに行かせれば将来的に難しくなる。だからといって、無理に抑え込めばリズムは乱れる。馬の気分を害さず、レースを制御する、そういったさじ加減が絶妙。芸術的な競馬はこうして作られる。

マテンロウオリオンは3番手のインを追走。この日の中京は外を回るとアウト。先行するにしてもインから攻めないと勝負にならない。ただ、そういった馬場状態を読んだ結果というより、あくまで馬との折り合いを考えた位置取りだったという。外野は横山典弘騎手の意図を把握できていない。私も反省したい。

最後の直線、空くかどうかはギャンブルだった。逃げたシーズザデイが直線に向いて外に動いてくれた。まさにビクトリーロード。こうも鮮やかにインが開くとは。戦歴をたどってもマテンロウオリオンはツキも味方につけたようで、ちょっと神がかっている。春に大仕事をするのではないか。武器である2戦目にみせた切れ味は尋常ではなく、賞金加算によってゆったり間隔がとれるので、その武器を最大限に引き出せるだろう。

重賞通用の力を示したソリタリオ、レッドベルアーム

レースの前後半800mは47.0-47.1のバランス型。そのラップは12.6-11.1-11.5-11.8-12.0-11.9-11.5-11.7。ピクシーナイトの昨年ほど厳しくはないが、道中は11秒台後半を連発しながら、しまい11.7。最後は苦しくなっておらず、マテンロウオリオンを追撃した組も恵まれたわけではない。4コーナーで外に行って2着にきたソリタリオは通ったコースの差が出た。平均ラップになりやすいマイル戦であれば、重賞勝利は近い。

3着レッドベルアームは序盤で難しさをみせ、リズムを乱した。結果的に前半で攻められず、下げながらの追走。それでも最後はしぶとく伸びてきた。力はある。気性を考慮してのマイル戦出走。血統的には中距離路線を歩ませたいところ。レース経験を積むことで、前半のリズムを作りたい。

リズムを乱したのは1番人気7着ラスールも同じ。内枠で2コーナー付近から揉まれこんで、馬がパニックに。キャリア1戦の牝馬にはキツい状況だった。なんとか外を意識してストレスを減らそうとするも、一団の競馬でスムーズにはいかない。最後の直線も完全に進路がなく、外目に進路を求めている間に前と離されてしまった。末脚を繰り出せたのは最後の100m。もったいなかった。藤沢和雄師の定年に伴い、来月末には転厩。桜花賞まであと3カ月。今後は難しい選択を迫られる。


2022年シンザン記念のレース展開図,ⒸSPAIA



ライタープロフィール
勝木 淳
競馬ライター。競馬系出版社勤務を経てフリーに。優駿エッセイ賞2016にて『築地と競馬と』でグランプリ受賞。主に競馬のWEBフリーペーパー&ブログ『ウマフリ』や競馬雑誌『優駿』(中央競馬ピーアール・センター)にて記事を執筆。Yahoo!ニュース個人オーサーを務める。共著『競馬 伝説の名勝負』シリーズ全4作(星海社新書)。




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