【有馬記念】これぞ時代の分岐点 人馬ともに新時代へ、快勝エフフォーリア!

勝木淳

2021年有馬記念のレース結果,ⒸSPAIA

ⒸSPAIA

競馬界に吹いた新たな風

ここ数年、競馬には新しい風が吹き込んだ。地上波のゲームCMでかつての名馬たちがよみがえり、ベテラン競馬ファンはみんな驚いた。ゲームから競馬の世界に足を踏み入れるという新しい流れ。史実を知るほどにゲームが面白くなり、ゲームを楽しむほどに実在する競走馬に興味を抱く。ゲームも競馬も同じ沼地。はまったら最後。簡単には抜けられない。ようこそ、競馬の世界へ。

そしてJRAの年間プロモーション「HOT HOLIDAYS」。いくらなんでもそりゃないよというベテランファンもいるが、旬な俳優たちが競馬場を楽しそうに満喫する様子は、間違いなく若者の競馬へのイメージを変えてくれた。でなければ17年から5年間も続かない。この数年で競馬を好きになってくれた方たちが、もっともっとCMのように競馬場に遊びに行ける日を期待したい。競馬場に行き、生のサラブレッドを見て、レースを観戦すると、さらに競馬を好きになる。経験者は語る、である。

「HOT HOLIDAYS」最終年の今年は競馬界にとって時代の転換期でもあった。12月だけでもコントレイル、モズスーパーフレア、インディチャンプ、グランアレグリア、ダノンキングリー、ダノンスマッシュと多くのGⅠ馬が登録抹消。今年海外GⅠ・3勝の名牝ラヴズオンリーユーも1月に引退式を予定。昨年引退したアーモンドアイも含め、ここ何年かの競馬界を引っ張ってきた看板馬たちが続々とターフを去った。

クロノジェネシス、キセキのラストラン

有馬記念で引退を表明していたのはクロノジェネシスとキセキの2頭。キセキはアーモンドアイのジャパンC2.20.6を演出。クロノジェネシスがぶっちぎった宝塚記念2着などハイレベルな持久力戦で本領を発揮した。思えばGⅠタイトルは不良馬場、田んぼ状態の菊花賞。キセキのスタミナがこの何年かの中距離レースを支え、スローが定番のイメージを改めさせてくれた。

最後のパドックでの見栄えは若い頃と変わらず。レースでは自身は先手を奪わなかったが、先行集団の後ろからレースを進め、得意の持久力勝負。先に先に動きはじめ、4コーナーでは有力馬の前に位置し、自分のスタイルを貫いた。最後はさすがに疲れたか10着。長い間お疲れさまでした、といいたい。

そしてクロノジェネシス。宝塚記念で牝馬としては史上初グランプリ3連勝を達成。なかでもキセキが2着した20年宝塚記念は異次元ともいっていいほどの極悪馬場。そんなコンディションで楽々と抜け出し、6馬身差は牝馬のイメージを一新。日本のスピード競馬には対応できないと目されていた父バゴの評価を改めさせた。

デビューは440キロ。芦毛とは思えぬ黒くぬれた馬体、手足が長く、華奢なイメージも、秋華賞で20キロ増、20年宝塚記念、有馬記念ともにプラス10キロで勝利。あれよあれよと470キロ台の雄大な馬体に成長。キャリアを重ねるごとに心身ともに逞しくなる姿もまた心に残る。

有馬記念では枠順の差もあったが、終始、外の後ろにエフフォーリア。これまでのように馬群の外で競馬ができず、内に押し込められた。勝負所でエフフォーリアに先に動かれてしまい、結果的に追い出しを待たされる形に。仕掛け遅れの3着。それでも最後まで脚を使い、タイトルホルダーを交わし、ステラヴェローチェを封じた。エフフォーリア以外の3歳に先着を許さなかったところに女王のプライドをみた。

人馬ともに変幻自在、エフフォーリア

レースは前半1000m59.5(推定)。パンサラッサはもっと後ろを離したかったが、番手のタイトルホルダーがそれを許さず、ある程度ついて行く形。タイトルホルダーを目標にする好位勢は当然ながらマークする。パンサラッサの大逃げ、バラバラの縦長という形にはならなかった。1コーナー手前、前半900m地点までは11秒台。そこからゴールまで1600mはすべて12秒台。ギアチェンジがないタフな流れだった。

エフフォーリアはクロノジェネシスをマーク。勝負所で先に動いて外からクロノジェネシスを押し込め、仕掛けのタイミングを逃させた。横山武史騎手とエフフォーリアは変幻自在。皐月賞では4コーナーで仕掛けを待ち、日本ダービー、天皇賞(秋)、そして有馬記念は強気に動いた。結果、クロノジェネシスの得意なロングスパートを完封、今回の対クロノジェネシス戦略は完璧だった。ルメール騎手を封じた横山武史騎手もまた競馬界の未来を背負う存在。エフフォーリアとともに来年は天下を狙ってほしい。スピードと瞬発力を問う天皇賞(秋)、持久力戦の有馬記念。秋2勝はエフフォーリアの総合力の高さを証明。来年は独壇場ではないか。

時代の分岐点という意味では、エフフォーリアの堂々たる勝利で次世代へのバトンがつながった。ここ数年、競馬に魅了された方々にとって、この秋シーズンはスターホースが相次いで引退、さぞ寂しさを覚えただろう。しかし、必ず次の時代がはじまる。2、3年後にはみんな父、母馬としてターフに帰ってくる。引退するクロノジェネシスのエピローグは、来年に向けてのエフフォーリアのプロローグでもある。そんな有馬記念だった。

2021年有馬記念のレース展開図,ⒸSPAIA



ライタープロフィール
勝木 淳
競馬ライター。競馬系出版社勤務を経てフリーに。優駿エッセイ賞2016にて『築地と競馬と』でグランプリ受賞。主に競馬のWEBフリーペーパー&ブログ『ウマフリ』や競馬雑誌『優駿』(中央競馬ピーアール・センター)にて記事を執筆。Yahoo!ニュース公式コメンテーターを務める。共著『競馬 伝説の名勝負 2005-2009 00年代後半戦』(星海社新書)。


《関連記事》
【ホープフルS】オニャンコポンの進撃は止まらない!? 前走重賞組は過信禁物、今年はひと波乱あるか
【注目2歳馬】コマンドラインが“出世レース”で3馬身差の快勝 強さと同時に見えた課題とは?
【注目2歳馬】百日草特別を制したオニャンコポン 瞬発力を武器に重賞戦線でも活躍を期待

おすすめ記事