【ステイヤーズS】1200mごとのラップ比較で見えた、ディバインフォースら好走馬の適性とは

勝木淳

ステイヤーズS,インフォグラフィック,ⒸSPAIA

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年に一度のチャンス

暮れの名物マラソンレースを制したディバインフォースは、かつてワールドプレミアが勝った菊花賞で16番人気ながら上がり3F3位タイの末脚で猛然と追い込んで4着。父ワークフォース、母の父ゼンノロブロイという血統は現代競馬ではスピードで見劣り、鈍さが目立つものの、その分、スタミナが豊富だ。

下級条件に3000m級のレースがなく、菊花賞後は自己条件で人気を裏切ることも多かった。今春、阪神芝2600mという特殊条件で2勝クラスを突破。格上挑戦の天皇賞(春)15着など経験を積みながら、自身の得意条件を待っていた。

格上挑戦で挑んだステイヤーズSは国内平地最長距離重賞の中山芝3600m。距離もコースもスピードを問わない舞台はディバインフォースにとって最適条件だった。そうは言ってもそれは年に一度の機会。つかんだ価値は大きい。

スローでも中盤で緩まなかった

展開に関係なく、スローペースにしかならないマラソンレース。特に今年は逃げ馬不在、超がつく緩い流れになるのは明らかだった。ベテランのセダブリランテスを制してカウディーリョがハナに立つと、ペースは一気に緩み、スタートして400m通過後は14.4-13.3。1周目向正面に出る頃には隊列は落ち着いた。

ところが、3番手外にいたアイアンバローズがリズムを整えようとハナへ。そこで12.1とペースアップ。最初の1200mはそれでも1.18.1。走破時計が近いモンドインテロが勝った19年1.15.8、アルバートの16年が1.17.2だから、今年は特に遅い。アイアンバローズも1周目3、4コーナーでペースを落とし、正面スタンド前では連続13秒台。中間1200mは1.18.4と前半とほぼ同じ。

ここが今年の肝だった。先述の19年は同区間で一気にペースダウンして1.18.1、16年も1.18.9と緩んだ。今年は前半から中盤にかけて、時計こそ遅いが、極端なダウン区間が少なく、一定のリズムでレースが流れた。2400m平均ラップは13.04。緩んで折り合いを欠く場面もなかったが、遅いながらもレースを緊張感が支配していた。

最後の1200mは12.2-11.9-11.7-11.6-11.3-12.4で1.11.1。坂下まで長い区間で加速ラップを刻んで2着に残ったアイアンバローズはレースの緊張感を演出したことを考えても価値は高い。長距離ベストではないにしろ、父オルフェーヴル譲りの高い心肺機能は武器になる。

田辺裕信騎手の仕掛けに狂いなし

勝ったディバインフォースは遅い流れを唯一、中団から差してきた。気性的に難しいところもあるので、道中緩みがなく、追走も楽だったことも手伝ったが、外目を加速ラップに合わせてじわっと進出、早めに仕掛けすぎないように残り400m手前で前を射程圏内に入れつつ、最速ラップの11.3で末脚を全開に。さすがは田辺裕信騎手。脚の使わせどころは完璧だった。中山の中距離以上での仕掛けには舌を巻くばかり。

3着シルヴァーソニックは外目の3番手からアイアンバローズを捕まえに行く競馬。加速ラップを先に動いたために最後は苦しくなり、内にモタれ気味だったが、内田博幸騎手が気合でもたせて3着確保。こちらも父オルフェーヴルでスタミナがありそうだ。

4着トーセンカンビーナは出遅れて後手。マラソンレースといえでも、緩い流れで隊列の後方に収まらざるを得なかった。勝負に出ようと2周目で動いたが、もっと中盤でペースが落ちれば、動きやすかっただろう。

19年の後半1200m1.12.2、16年は1.11.3。中盤でたっぷり緩み、どの馬も脚をためたこれら2年と比較しても、遅いながらも一定のリズムを刻んだ今年の1.11.1は立派。中盤で動いた5着ゴーストを含め、上位馬たちは後半1200mの加速ラップを乗り切り、持続力に長けたことを証明、今後も重賞で十分戦える。勝ったディバインフォースは早くも来春ドバイ遠征を表明。これは楽しみだ。


2021年ステイヤーズSのレース結果,ⒸSPAIA



ライタープロフィール
勝木 淳
競馬ライター。競馬系出版社勤務を経てフリーに。優駿エッセイ賞2016にて『築地と競馬と』でグランプリ受賞。主に競馬のWEBフリーペーパー&ブログ『ウマフリ』や競馬雑誌『優駿』(中央競馬ピーアール・センター)にて記事を執筆。Yahoo!ニュース公式コメンテーターを務める。共著『競馬 伝説の名勝負 2005-2009 00年代後半戦』(星海社新書)。

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