【マイルCS】別れの寂しさ吹き飛ばす、グランアレグリア、圧巻の走り! これぞまさに有終の美

勝木淳

2021年マイルCSのレース結果,ⒸSPAIA

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生涯獲得賞金10億円牝馬に

牝馬の引退レースはかつて難しかった。繁殖という第二の馬生、新たな使命の担い手としての期待もあり、どうしてもギリギリまで仕上げきれない。そもそも長期間活躍することが難しい牝馬は、競走生活の後半になると、かつてのパフォーマンスを発揮できないと考えられてきた。

しかし昨年アーモンドアイが5歳で天皇賞(秋)とジャパンCを勝ち、最後は年下の三冠馬たちを一蹴。女王としてのプライドを抱きながらターフを去った。そして、今年はグランアレグリアがマイルCSを勝って、引退。もう以前の常識など通用しなくなったのか。それともアーモンドアイやグランアレグリアは歴史的名牝であり、例外的存在なのか。それを考えさせられた。

グランアレグリアはこの勝利でJRAGⅠ・6勝目となり、ブエナビスタやオルフェーヴル、ゴールドシップに並んだ。国内での獲得賞金10億円超えの牝馬はアーモンドアイ、ブエナビスタ、ジェンティルドンナ、ウオッカ、クロノジェネシスに次ぐ6頭目。マイルCS連覇は07年ダイワメジャー以来14年ぶり6頭目。さらにJRA芝1600m重賞6勝目はダイワメジャー、ウオッカ、クラレントの5勝を超え、歴代単独トップ。競馬史上にその名を残すトップオブトップのマイラーだ。

グランアレグリアが格の違いを見せた最後の直線

管理する藤沢和雄調教師はマイルCS6勝目、これは調教師の同一GⅠ勝利記録タイ。同1位は同師の天皇賞(秋)6勝。そんな記録づくしのマイルCSを振り返ろう。

戦前から純粋な逃げ馬は不在のため、阪神外回りのマイル戦らしくスローペースが予想された。先手を奪ったのはスワンSでも逃げた最内枠の3歳ホウオウアマゾン。昨年は控えたサリオスが積極的に好位に行き、外目からグレナディアガーズが抑えきれない雰囲気で前にとりつく。前半800mは12.5-11.2-11.9-12.0で47.6。昨年はレシステンシアが引っ張って、46.9だから明らかなスローペースだった。

グランアレグリアは中団の後ろ、ダノンザキッドの背後を進んだ。スプリンターズS後だった昨年よりゆったりと後ろに構えた。遅い流れを後ろで構え、差し切るわけだから、力が違う。

グレナディアガーズが我慢できずに早めに動いたこともあり、後半800mは11.7-11.1-10.7-11.5とズラリ11秒台。さすがマイル王決定戦。後半はスキがなく、どの馬も前半の消耗は少なく、手応えに十分余裕があった。勝負を決したのは残り400~200mの10.7。ここで大外から明らかに先行勢を飲み込む勢いで飛んできたグランアレグリアにもはや言葉は必要あるまい。

この日、史上最速で産駒のJRA通算勝ち星2500勝を達成した父ディープインパクトらしい、最後の600m32.7という極上の切れ味だった。これは今春Vマイルで記録した32.6に次ぐ決め手。本当にこれで引退なのかと思わずにいられない。別れは本当に惜しいが、2歳から5歳秋まで常に高いパフォーマンスを発揮する姿には感謝しかない。最後に課題といわれた中2週まで克服。もうなにも言うことはない。

0.1差まで迫ったシュネルマイスターの可能性

そのグランアレグリアに0.1差まで詰めた3歳シュネルマイスターは、来年のマイル戦線を間違いなくけん引する存在になるだろう。今回はグランアレグリアに最後の600mで0.2及ばずの32.9。最後の直線でインディチャンプに進路を封じられ、ダーリントンホールを押しのけ、外のスペースに持ち出すまでに若干、手間取った。グランアレグリアはそこでトップスピードに入っており、着差0.1にはそういった面も加味したい。よく最後まで伸びており、グランアレグリアに懸命に食い下がった走りに新マイル王としての力を感じる。ドイツ血統は基本的に奥手。3歳でここまでやれれば、来年は楽しみしかない。

3着は5番人気ダノンザキッド。これにはこの日5勝の川田将雅騎手の手腕が大きかった。課題の精神面は富士Sよりいくらかマシという程度で、この日も発汗が目立った。4コーナーではグランアレグリアと併走する形になり、手応えで見劣りながらも、最後まで馬はファイト。マイル戦2度目でGⅠ・3着と結果を残した。レース前の消耗が少なくなれば、来年もマイル路線で面白い。

4着には昨年2着のインディチャンプが入った。好位から抜群の手応え、結果は自身とは相性が悪いスローの切れ味比べになってしまい、3頭に先着を許したものの、復調を感じる走りだった。

スターホースの引退、別れは本当に寂しく、喪失感があるものだが、ここまで完璧な走りを披露されるとそんな寂寥感もどこかに吹き飛ぶ。幸せに満ちたハッピーエンドを目撃できた幸運をかみしめたい。

2021年マイルCSのレース展開,ⒸSPAIA



ライタープロフィール
勝木 淳
競馬ライター。競馬系出版社勤務を経てフリーに。優駿エッセイ賞2016にて『築地と競馬と』でグランプリ受賞。主に競馬のWEBフリーペーパー&ブログ『ウマフリ』や競馬雑誌『優駿』(中央競馬ピーアール・センター)にて記事を執筆。Yahoo!ニュース公式コメンテーターを務める。共著『競馬 伝説の名勝負 2000-2004 00年代前半戦』(星海社新書)。



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