【武蔵野S】カギは最後の200mにアリ! ここで粘り強さを見せたソリストサンダー

ⒸSPAIA
息の入りにくい平均ペース
昨年の3、4着馬エアスピネルとワンダーリーデルが今年のフェブラリーS2、3着で穴を提供。問われる適性が大きく異なるチャンピオンズCの前哨戦というより、翌年のフェブラリーSを展望するレース。武蔵野Sの立ち位置はこんな感じ。JRA唯一の芝スタートのダート1600mはここしか走らない独特なコース巧者を生む。今年は東京ダート5勝のタガノビューティー、3勝のブルベアイリーデら重賞経験が浅い東京巧者が、上記のエアスピネル、ワンダーリーデル、そしてソリストサンダーら重賞常連組に挑戦。そこに3歳馬スマッシャー、バスラットレオンらが絡むという図式だった。
決着タイム1.35.0(やや重)は良馬場の昨年と同タイム。前後半800mは46.5-48.5。昨年46.1-48.9と比べると、前後半の落差は少なく、平均ラップ。昨年が珍しいぐらいで、東京ダート1600mとしては標準的な流れだった。
マイルCS南部杯で先行して2着とマイル実績を作ったヒロシゲゴールドが楽に先手を奪うところを内からリアンヴェリテが強引に逃げを主張。このコースで出ムチを入れながら先行するのは珍しい。この時点でハイペースを予感させたものの、ヒロシゲゴールドが引いたこともあり、序盤800mは12.2-10.6-11.6-12.1と隊列が決まってからペースは一旦落ちた。それでも東京のマイル戦らしく息の入りにくい流れではあった。
600m連続の加速に対応したソリストサンダー
勝ったソリストサンダーは先行勢の背後、中団の外目を追走。外枠から自然な形で流れに乗った。先行勢がある程度引っ張ったことで、ソリストサンダーは前と間合いをとって追走、結果として馬群に入ることなく、理想的な位置を確保できた。戸崎圭太騎手らしいシンプルで実直な位置取りが功を奏したともいえる。
後半800mは12.0-11.9-11.7-12.9。ヒロシゲゴールドら先行勢は4コーナーから直線入り口の11.9で脚を使い切り、ソリストサンダーが先頭に立ち、11.7と加速。ついてきたブルベアイリーデやスリーグランドら格下の馬を突き放した。残り800mから連続で600mの加速ラップに対応できる、重賞常連組と新勢力の力差はここにある。さすがのソリストサンダーも最後は12.9と時計を要したものの、苦しくても崩れずに持ちこたえられる、米国で大偉業を成し遂げたマルシュロレーヌのように最後まで耐えられるタフさはダートでは重要。ソリストサンダーもいよいよダートの一流馬に肩を並べる位置まできたといえる。
来年のフェブラリーSで通用するか
2、3着以下はこの12.9で明暗を分けた。2着エアスピネルは3、4コーナーで外に出さず、最後の直線では脚があがったヒロシゲゴールドの真後ろに入ってしまった。前の馬が伸びれば、抜け出せるが、前が止まってしまうと、壁になる。ここで待たされたのは痛かった。
待たされた分、末脚が切れたわけだが、間に合ったのは最後の200m12.9と時計を要したからこそ。2着にあがれたのは最後に恵まれたからだ。フェブラリーS2着など舞台適性は十分だっただけに、遅れ差しの形になったのはもったいなかった。8歳秋、残されたチャンスはそう多くはない。
3着オメガレインボーは道中後方追走。小回り1700mだと位置をとれるが、このコースでは末脚にかける形が合う。大外から勢いよく差してきた。もたついたエアスピネルより先にソリストサンダーに迫った分、早めに脚を使い切った。こちらは最後の12.9で苦しくなったクチだ。待って仕掛けるようなポジションではないので、大外から先に脚を使ったのは仕方ない。
ソリストサンダーと比べると、切れ味で上回るものの、最後に踏ん張れるタフさが足りない印象。もちろん、そこは休み明けの分もあっただろう。決して流れが味方したわけではなく、よく差し込んできており、その瞬発力は評価したい。重賞通用のきっかけはつかんだ。
さらにもったいなかったのは6着タガノビューティー。最内枠だったこともあるが、最後の直線でブルベアイリーデに内に押し込められ、進路を削られてしまった。結果的にオメガレインボーの外、大外まで持ち出して伸びてきた。横に走る形になっては6着もやむを得ず、力負けではない。
今年の武蔵野Sは600m連続で加速するラップは評価できるものの、最後の200m12.9はラップとしては急降下気味で、2、3着の逆転劇も含め、ここはカギ。もっと踏ん張れないとフェブラリーSは厳しいのではないか。

ライタープロフィール
勝木 淳
競馬ライター。競馬系出版社勤務を経てフリーに。優駿エッセイ賞2016にて『築地と競馬と』でグランプリ受賞。主に競馬のWEBフリーペーパー&ブログ『ウマフリ』や競馬雑誌『優駿』(中央競馬ピーアール・センター)にて記事を執筆。Yahoo!ニュース公式コメンテーターを務める。共著『競馬 伝説の名勝負 2000-2004 00年代前半戦』(星海社新書)。
《関連記事》
・秋華賞は2008年に3連単1098万馬券が飛び出す! 平均配当から見えてくる秋のGⅠレース攻略法とは?
・上手な付き合い方のコツは?ルメール騎手の「買える、買えない条件」
・2週連続G1制覇! 横山武史騎手の「買える条件・買えない条件」
