【エリザベス女王杯】1番人気苦戦、下半期牝馬決戦の歴史 GⅠ史に残る大波乱とスノーフェアリーの連覇

緒方きしん

エリザベス女王杯過去5年の勝ち馬,ⒸSPAIA

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地方・海外の盛り上がりに続く大一番

JBCクラシックは船橋所属のミューチャリーが勝利。地方馬として史上初のJBCクラシック制覇を達成した。さらにアメリカ・ブリーダーズCデーでは、ラヴズオンリーユーとマルシュロレーヌが勝利。こちらも史上初づくしの快挙となり、大いに競馬界が盛り上がる一週間となった。

今週は注目の舞台が中央に戻り、エリザベス女王杯。京都競馬場の改修工事に伴い、昨年に引き続き阪神競馬場での開催となる。春に無敗で大阪杯を制したレイパパレ、オールカマーを制しいよいよGⅠタイトルを狙うウインマリリン、秋華賞の親子制覇を達成して勢いに乗るアカイトリノムスメなど、好メンバーが揃う一戦となった。

4歳(※旧表記。現在でいう3歳)世代限定戦の時代にはメジロラモーヌやホクトベガ、ヒシアマゾンが勝利。古馬も参戦可能になってからはメジロドーベルやアドマイヤグルーヴ、ダイワスカーレットが制している、歴史ある一戦。今回はエリザベス女王杯の歴史を振り返る。

1番人気は苦戦傾向

エリザベス女王杯過去5年の勝ち馬,ⒸSPAIA


1番人気はここ5年で1勝。唯一1番人気に応えたのはディフェンディングチャンピオンとして挑んだ昨年のラッキーライラックという状況だ。さらに5年を加えても、1番人気でのエリザベス女王杯制覇は2011年スノーフェアリーのみで、1番人気馬にとっては厳しいレースとなっている。

かと言って万馬券がポンポン飛び出すかと言えばそうではなく、やや荒れ気味の決着ということが少なくない。最後に馬連万馬券が飛び出したのは2016年。1着のクイーンズリングは3番人気だったが、12番人気のシングウィズジョイが2着に粘ったことで波乱となった。

2019年の1番人気は、先日BCフィリー&メアターフで勝利したラヴズオンリーユー。当時は無敗のオークス制覇から直行で、これが古馬との初対決だった。そこで惜しくも3着に敗れると、翌年もエリザベス女王杯に挑戦して同じく3着に敗れている。

今年はアメリカ遠征のため、『3度目の正直』とはならなかったが、かわりに大きな大きなタイトルを手にしている。

2017年〜2019年にはクロコスミアが3年連続で2着を記録。さすがに3年連続となるとレアケースだが、エリザベス女王杯では2年連続で同着順になる馬は少なくない。連覇であれば、スノーフェアリーやアドマイヤグルーヴ、メジロドーベルなど、連続2着だとヌーヴォレコルトやオースミハルカ、フサイチエアデールなど、連続3着だとミッキークイーンやアパパネらが挙げられる。

また、スイープトウショウは1着→2着→3着と、ラストは6歳のベテランになりつつ3年連続で馬券圏内に食い込んだ。騎手では武豊騎手が2001年〜2004年に4連覇を達成しているが、ここ5年は全て外国人騎手が勝利している。

クィーンスプマンテ・テイエムプリキュアの"逃走劇"

上述したように、2019年には当時無敗だった3歳馬ラヴズオンリーユーが敗北を喫している。ラヴズオンリーユーはオークスからの直行だったが、秋華賞に出走した有力3歳牝馬たちが挑戦してくることも多い。モズカッチャンやメイショウマンボ、ダイワスカーレットらが勝利を収めた一方で、アパパネやクロノジェネシス、ヴィルシーナ、エアメサイアといった名馬たちが敗北を喫した。

そして人気の3歳馬が敗れ、大波乱となったのが2009年。1.6倍の圧倒的支持を集めたのが、当年の二冠馬ブエナビスタだった。さらには2番人気ブロードストリートも3歳馬、海外から参戦の3番人気シャラナヤも3歳馬。そこにジェルミナル、ミクロコスモスら同期が加わり、有力な3歳馬が集まるフレッシュなエリザベス女王杯となった。

しかしレースが始まると、5歳馬クィーンスプマンテと6歳馬テイエムプリキュアが大逃げ。有力馬が後方で牽制し合うなか、2頭は3番手を20馬身ほど引き離して、逃げに逃げた。直線、猛然と追い込んでくるブエナビスタを退け、クィーンスプマンテ、テイエムプリキュアのワンツー決着となった。今でも大逃げのGⅠと言えばこのレースを連想するファンは少なくないだろう。

馬連は1020.3倍の十万馬券。三連単は150万を超える配当となった。勢いある3歳馬を古馬が戦術と底力で倒すシーンが見られるのもまた、エリザベス女王杯の醍醐味のひとつだろう。

カラ馬のままゴールしたポルトフィーノ

大逃げが大成功した2009年以外にも、鮮烈な印象を残すレースが多いのがエリザベス女王杯。イギリスから遠征してきて連覇を達成したスノーフェアリーの末脚は、2年とも驚くべき切れ味だった。

父の父はロックドゥカンブらを輩出したRed Ransomで、母の父の父はカルストンライトオらを輩出したウォーニング。母の母の父も、その後サトノクラウンを輩出するMarjuと、よく見れば日本でも適性を見せる血統が流れていたものの、慣れないであろう日本の馬場を上がり最速で駆け抜けたことは衝撃的だった。

2008年のポルトフィーノも印象的な一頭。ポルトフィーノは母にエアグルーヴを持つ良血馬。当然デビュー前から期待を集めたが、桜花賞を跛行、オークスを骨折で断念し、秋華賞は賞金不足により出走が叶わず。

エリザベス女王杯はデビューから4戦3勝で挑んだ念願のGⅠ舞台だったが、スタート直後に武豊騎手が落馬してしまう。当然、競走中止扱いとなったが、ポルトフィーノはそのまま走り続け、なんと騎手がいないまま先頭でゴールインしてしまったのだった。

今でも脳裏に焼き付いている名レース・珍レースたち。そんな華やかなレースがある一方で、先述したシングウィズジョイはエリザベス女王杯2着の次走AJCCで、他馬に接触して転倒・骨折し、予後不良の診断がくだってしまった。極限の状態で競い合う各馬・各鞍上が危険と隣り合わせであることを、改めて痛感する。

今年のエリザベス女王杯も、名馬・素質馬がズラリと揃った。全馬が無事完走するのはもちろん、各馬が実力を発揮し、現役生活を全うできることを祈りたい。

ライタープロフィール
緒方きしん
競馬ライター。1990年生まれ、札幌育ち。家族の影響で、物心つく前から毎週末の競馬を楽しみに過ごす日々を送る。2016年に新しい競馬のWEBメディア「ウマフリ」を設立し、馬券だけではない競馬の楽しみ方をサイトで提案している。好きな馬はレオダーバン、スペシャルウィーク、エアグルーヴ、ダイワスカーレット。

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