2009年エリザベス女王杯のクィーンスプマンテなど 「アッ」と言わせた逃げ切りGⅠレース3選
高橋楓
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大本命がいるときの「金縛り」!競馬の怖さを知った2009年エリザベス女王杯
子供の頃の思い出だ。彼の姿を初めて見たのは山形県上山市だった。私は現役時代の一番輝いていた時の姿を生で見た事はない。すでに目の前のその馬は全盛期を過ぎていた。それでも現場にいた大人たちは「何かを」期待せずにはいられない様子だった。
その名は「ツインターボ」。七夕賞にてターボエンジン全開で爆走しファンを魅了、オールカマーではGⅠ馬ライスシャワーや桜花賞馬シスタートウショウ、そして実力馬ホワイトストーン、鉄の女イクノディクタスなど錚々たるメンバーに影をも踏ませぬ逃走劇を披露した「世紀の逃げ馬」だ。今回は、そんな「逃げ馬」にスポットをあて、印象的なレースを振り返ってみたい。
「緑、黒三本輪」グリーンファームの勝負服、「桃、緑一本輪、袖黄縦縞」のテイエム軍団の勝負服が気分良く先頭争いをしている。クィーンスプマンテとテイエムプリキュアの2頭だ。前哨戦の京都大賞典でも先手争いをしたこの両馬。その際は逃げを主張したテイエムプリキュアが大差の殿負け、2番手を進んだクィーンスプマンテが9着と沈んでいた。
だからなのか。まるでこの2頭がいないかの様にレースが進んでいった。1000mを60.5秒と決して速くないペースにも関わらず、ブエナビスタを一団でマークし誰も鈴をつけにいかない。10馬身、15馬身、20馬身…。差が広がっていく。4コーナーを回った時には時すでに遅し。遥か前方で勝負は決していた。
結果はクィーンスプマンテが優勝し、クラブおよび田中博康騎手にとって嬉しいGⅠ初制覇となった。2着にテイエムプリキュア。猛然と追い込んだブエナビスタはわずかに届かず3着。場内の騒然としたざわつきは今でも忘れる事が出来ない。
これぞ「横山典弘騎手」の名人芸!イングランディーレが魅せた驚異の大逃げ!
2004年の天皇賞(春)も忘れられない。私はこのレースをWINS新宿へ一人で見に行っていた。そして、一度はマークカードにイングランディーレの単勝を塗っていただけにひと際印象に残っている。
前年の春にダイヤモンドS、日経賞を連勝し天皇賞(春)では5番人気に支持された本馬。その後は地方のダート重賞を走り続け前走は船橋のダイオライト記念。そのせいもあってか本番では完全な穴馬評価だった。
臨戦過程が気になった私は「さすがに穴を狙い過ぎか。」そう呟きマークカードを塗りなおした。AJCC2着、日経賞制覇と勢いに乗るウインジェネラーレの単勝に狙いを変更し、馬券を購入した。
ゲートが開く。激しく横山典弘騎手が手綱をしごきイングランディーレが先手を奪う。隣の見知らぬおじさんと「さすがノリだなぁ」なんて笑いながら話していた。しかし、2週目の向こう正面、坂の頂上に到達した時には明らかに声色が変わり始める。
「おい、先頭はノリだぞ!誰か捕まえにいかな、そのままやられるぞ!」。ラスト800mの頃には「あぁ…決まった。これは届かないよ。」諦めの境地だった。それほどの大逃げだった。この年は1番人気が菊花賞、有馬記念を2着し前哨戦の阪神大賞典を快勝したリンカーン、2冠馬であり産経大阪杯をきっちり勝ち上がったネオユニヴァースが2番人気。菊花賞馬ザッツザプレンティが3番人気で、クラシック路線で好走を続けたゼンノロブロイが4番人気。
私の記憶では新聞に「4歳4強激突」的な見出しが躍っていた思い出がある。得てして有力馬が牽制しあった結果、気持ち良く逃げた馬がそのまま先頭で大逃げとなる。競馬の教科書の様なレースとして今でも忘れられない。結局5歳馬のイングランディーレが大勝し、4歳馬ではゼンノロブロイが一矢報いて2着。3着には5歳馬のシルクフェイマスが入着した。
佐藤哲三騎手が導いたヴィクトリーロード!逃げも逃げたり9馬身差の圧勝劇!
1984年にグレード制が導入されて以降、GⅠレースにおいて3コーナーで先頭を走っていた逃げ馬がそのまま先頭でゴール板を駆け抜けたレースは延べ58レース。最大の着差で勝ったのは2003年のジャパンカップのタップダンスシチーである。
1着 タップダンスシチー 2分28秒7
2着 ザッツザプレンティ 2分30秒2(9馬身)
3着 シンボリクリスエス 2分30秒3(3/4馬身)
シンボリクリスエスやネオユニヴァースといったメンバーを相手に9馬身差の圧勝劇だった。そのせいもあるのか、私は当時から「タップダンスシチー=逃げ馬」のイメージが深く脳裏に焼き付いていたのだが、改めて42戦の成績を振り返ってみて驚いた。ジャパンカップの様に終始先頭で逃げの競馬を披露したのはわずか6戦しかないのである。
2000年 4歳500万円下 4着
2003年 京都大賞典 1着
2003年 ジャパンカップ 1着
2004年 有馬記念 2着
2005年 金鯱賞 1着
2005年 ジャパンカップ 10着
逃げたのはこれだけで、基本は先頭集団の中につけ淀みないレース展開に持ち込み、直線で叩き合う形を得意とするタイプだったのだ。サンデーサイレンス産駒が主流となり瞬発力が重要視される中、自身が得意とするレースに持ち込み、現役時代は12勝をあげた本馬。しかし、逃げで勝ったレースが3勝だけだったとは驚きだった。いかに1戦のイメージという事が馬券予想に影響を与えているのか、思い起こすきっかけとなった。
逃げ馬の馬券を買うと早々に紙屑と化してしまうリスクはある反面、最初から最後までハラハラドキドキ競馬を楽しめる可能性も。願わくはファンの心をつかんで離さない新たな逃げ馬のスター誕生を期待したい。
《ライタープロフィール》
高橋楓。秋田県出身。
競馬のWEBフリーペーパー&ブログ『ウマフリ』にてライターデビュー。競馬、ボートレース、競輪の記事を中心に執筆している。
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