【京都大賞典】マカヒキ、復活! 苦しいところで伸びる、これぞダービー馬の意地

勝木淳

2021年京都大賞典のレース結果,ⒸSPAIA

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ノーマークにした自省を込めて

秋本番を迎える10月開催、そのスタートを告げる毎日王冠と京都大賞典。その名を見るだけで気持ちがたかぶるのは、秋のクライマックスへの入り口であるのと同時に、これらレースに刻まれた名勝負の記憶が呼び起こされるからでもある。数多の名馬が駆け抜けた伝統のGⅡ、今年も歴史に残る一戦になった。

競馬は多様性の塊である。コース形態、芝、ダート、障害、短距離から長距離まで幅広い組み合わせのなかで、それぞれが力を出せる場所を探す。適性という個性を見つける戦いのなかで己の可能性を見出す姿に人生が自然と重なる。

この夏、多様性という言葉が多く世間を賑わせた。性別を問わず、キャリア重視、能力があれば若者にもチャンスを。それは進む方向としては正しい。しかし、それではベテランを切り捨てる方向へ行きはしないか。本当の多様性とはもっと幅広くなければいけない。男女、老壮青といったラベルを取り除かなければならない。8歳マカヒキの復活にそれを感じる。これはノーマークにした自省を込めて書く。

マカヒキ、価値ある復活

3歳9月ニエル賞以来勝利から遠ざかったマカヒキだが、2000~2400mのGⅡではデビューから1、1、3、2、3着。崩れていなかった。5年間勝てなかったダービー馬を陣営は8歳までただ走らせていただけではない。4歳5戦、5歳3戦、6歳5戦、7歳2戦、馬の体調と相談しながら、敬意をもってレースに出走させてきた。京都大賞典の勝利は金子オーナーと友道厩舎のダービー馬マカヒキへの想いが呼び込んだものだ。

それも単なる復活ではない。価値ある復活だった。ダービー馬の最年長勝利記録を更新(従来は6歳で毎日王冠を勝ったエイシンフラッシュ)、重賞勝利間隔「5年1カ月」は歴代3位だが、1、2位はその間、重賞以外を勝利しており、純粋に未勝利だった期間としては最長となる。

同じダービーを走ったリオンディーズは昨年から産駒が走り、ディーマジェスティ、ヴァンキッシュランは今年産駒がデビュー、サトノダイヤモンドとレインボーラインは来年初年度産駒がデビューする。ブレイブスマッシュは豪州で今年産駒が生まれ、スマートオーディンは今年種牡馬になった。そしてマカヒキは現役を続け、勝利した。ここまで色々な声があるなかで、それでも走らせてきた陣営の答えがここにあった。

レースは阪神芝2400mらしいタフな流れになった。ベレヌス、ダンビュライト、キセキら先行勢が引っ張り、前半800m通過後から11.9-11.5-11.5-11.8-11.7-11.6-11.8と残り200mまでずっと11秒台。一定のスピードを持続させなければならなかった。

マカヒキは早めにステッキが入り、手応えがよくはなかったが、藤岡康太騎手が馬にあきらめさせず叱咤をし続け、最後の200mで前を行くアリストテレスを捕らえた。どの馬も苦しかったゴール前200mの13.0でマカヒキは伸びた。いちばん苦しいときに力を出す、ダービー馬の意地がここにあった。4コーナーの手応えを考えると、そうとしか思えない。

次走人気になって疑いたい馬とは

2着アリストテレスは先行集団の直後。久々に積極策で、らしさを見せた。エピファネイア産駒らしく瞬発力勝負より持続力型。先行集団が作るタイトな流れが味方した。3コーナーでわずかにポジションを下げ、ひと息入れるなど騎乗は完璧。それだけにこれで負けたのは痛い。最後に13.0かかったのは流れも要因だろうが、距離がやや長いかもしれない。ベストは2000m前後だろう。

3着キセキは昨年の京都大賞典以来の好走。こちらも7歳でも変わらずタイトな流れには強い。外目の3番手で折り合いもつき、我慢できたことは収穫。ただし、行儀のいい競馬をできるようになったことで失われるものもある。我慢できるようになったことが吉と出るか凶と出るか、今後見定めたいところだ。

4、5着ディアマンミノル、ロードマイウェイは最後の13.0に乗じて差してきた伏兵。この着順をもって次走格下のレースで人気になるのであれば、疑ってみたい。

2番人気8着ヒートオンビートは外枠から終始外を通ったために伸びきれなかった。まだGⅡで横綱相撲をとる力はなかった。2着だった目黒記念は超がつくスローペースの前残り。後続が物理的に届かない状況での好走だった。まだ流れに恵まれるか、インで我慢するなど戦略で力差を縮めないと重賞では厳しい。

3番人気アイアンバローズは12着。最内枠から最初の直線で位置をとれず、1コーナーで寄られてしまい、頭を上げるほどの不利を受けてしまった。その後も中団のインコースで揉まれてしまい、今回は力を出せなかった。重賞ではもう少し前に行ける自在性が欲しい。

2021年京都大賞典のレース展開,ⒸSPAIA



ライタープロフィール
勝木 淳
競馬ライター。競馬系出版社勤務を経てフリーに。優駿エッセイ賞2016にて『築地と競馬と』でグランプリ受賞。主に競馬のWEBフリーペーパー&ブログ『ウマフリ』や競馬雑誌『優駿』(中央競馬ピーアール・センター)にて記事を執筆。Yahoo!ニュース公式コメンテーターを務める。共著『競馬 伝説の名勝負 1995-1999 90年代後半戦』(星海社新書)。



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