【スプリンターズS】新王者ピクシーナイト 血統、レース内容からみえる未来とは

勝木淳

2021年スプリンターズSのレース結果,ⒸSPAIA

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展開に影響した心理戦

高松宮記念1、2着ダノンスマッシュとレシステンシアに対抗できる新興勢力はどの馬か。いわば世代間争いが主題。勝った3歳ピクシーナイトが強豪古馬の壁を一気に乗りこえた。今年のスプリンターズSは図式こそ明確だったものの、その推理は難解で、展開を含め競馬偏差値は高かった。

まずその展開だ。昨年ハイペース(前半600m32.8)を演出した2頭が顔をそろえた。モズスーパーフレアは北九州記念で逃げて前半600m33.2を記録して3着、ビアンフェは函館SSを前半600m32.8で逃げ切った。どちらも先手をとってこその快速馬だ。ここにセントウルSで番手から抜け出したレシステンシアと、キーンランドCで暴走気味に飛ばしたメイケイエールが加わる。メイケイエールの出方次第では超ハイペースまであった。さらにこの4頭の枠順は内からメイケイエール、ビアンフェ、レシステンシア、そしてモズスーパーフレアが大外枠。難易度を上げた。

さらに当日の馬場状態は時間が経つにつれ、乾いていき、インコース、先行馬が圧倒的有利。ハイペースは不可避といった状況だった。しかしスタートを決めたモズスーパーフレアが抜群のダッシュを効かせ、内のビアンフェをけん制、メイケイエールは外に逃避、レシステンシアもあっさり控えた。この状況でビアンフェはもう無茶できない。モズスーパーフレアのマイペースで進み、前半600mは33.3。昨年よりも良好な馬場状態を考えれば、ようやく平均ペースといった感じだった。

偉業達成! 親子4代GⅠ制覇

こうした展開を読み切ったのが勝ったピクシーナイトの福永祐一騎手。昨年猛ラップを刻んだ2頭が、再び無理をするはずがない。馬場読み名人が有利な内枠を引いた。このアドバンテージは大きく、実際にそれを最大限利用した。福永騎手が予想する以上に逞しくなったピクシーナイトは、ここ2走の1200m戦より行きっぷりが良化、余裕で好位の3番手を追走できた。

最後の直線ではモズスーパーフレアが案外突き放さなかったため、ビアンフェとの間に壁、外にレシステンシアという場面もあったが、巨漢ビアンフェを圧力ではじき、進路を自ら作った。器用さとパワーを兼備したピクシーナイトが強かったというよりない。

父モーリス、母の父キングヘイローはいずれもどちらかといえば晩成型。3歳秋のタイトル奪取は、将来の絶対王者への布石ではないか。父モーリスをさかのぼると、スクリーンヒーロー、グラスワンダー。ピクシーナイトがスプリンターズSを制したことで、親子4代にわたる日本国内GⅠ制覇を達成。しかもその4頭すべてが存命中。これは偉業である。さらに母系にはサクラバクシンオーの名前があり、日本が誇る快速血脈テスコボーイも内包する。

血の話でいえば、ピクシーナイトは福永騎手にとって思い入れがあるキングヘイローの血を引く。同騎手はこれがスプリンターズS初制覇だが、このレース初騎乗は99年キングヘイロー3着だった。ピクシーナイトの将来性は、好位から最後の600m33.4を記録、ここにすべてが詰まっている。ライバルはもはや太刀打ちできない。

こちらも素質は一級、メイケイエール

2着は2番人気レシステンシア。この日、ちょっと芝のレースで消極的な位置取りが多かったC.ルメール騎手。レシステンシアももう少し積極的でもよかったか。外枠から自然と外を回らされる形になったこともあり、4コーナーを追っつけながら回ってきた。やはり他力本願というか、他馬を追いかける形はレシステンシアのスタイルではないだろう。とはいえ、スプリント戦への適応力はこの1年で十分ついた。まだまだチャンスはある。

3着は10番人気シヴァージ。スプリンターズSらしい複穴だったが、この馬も枠順の優位が大きかった。道中はピクシーナイトの背後に潜み、最後の直線ではピクシーナイトの進路をなぞるように抜けてきた。これは吉田隼人騎手の好プレー。相手を決め、その背後をついていくことで進路をクリア、上位馬との力差を戦略で埋めてみせた。吉田隼人騎手のこうした騎乗は、皐月賞でエフフォーリア相手にしたものとそっくり。さしずめ、令和のマーク屋といっても過言ではない。これから本格化する秋のGⅠ戦線で味方につけたい。

4着メイケイエールは改めて能力を示した。発馬直後に真横に走り、外側へ逃避したように気性難は変わらず。他馬に迷惑をかける形になったが、結果は内枠から外目に出せて、競馬ができた。内側が圧倒的優位な馬場で、中団から終始外を回って自力で伸びた。このポジションから唯一、差を詰めてきた価値は大きい。気性という宿題は繰り越されたが、これをクリアできたときには大きいところも狙えるのではないか。

1番人気、春秋スプリントGⅠ連覇を狙ったダノンスマッシュは6着。外目を通ったことも痛かったが、早々に手応えを失くしてしまった。動きたいときに動けなかったのは、ダノンスマッシュらしくない。なにか故障などアクシデントがないことを願う。


2021年スプリンターズSのレース展開図,ⒸSPAIA



ライタープロフィール
勝木 淳
競馬ライター。競馬系出版社勤務を経てフリーに。優駿エッセイ賞2016にて『築地と競馬と』でグランプリ受賞。主に競馬のWEBフリーペーパー&ブログ『ウマフリ』や競馬雑誌『優駿』(中央競馬ピーアール・センター)にて記事を執筆。Yahoo!ニュース公式コメンテーターを務める。共著『競馬 伝説の名勝負 1995-1999 90年代後半戦』(星海社新書)。



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