【神戸新聞杯】その軌跡、まるでクロノジェネシス! ステラヴェローチェ最後の一冠へ王手!

勝木淳

2021年神戸新聞杯のレース結果,ⒸSPAIA

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カギはひと夏の成長

ここまで3歳秋のトライアルレース紫苑S、ローズS、セントライト記念のうち、春のクラシック好走馬が勝ったのはファインルージュの紫苑Sしかなく、菊花賞路線のセントライト記念は日本ダービー経由がそろって着外に敗れ、昨今の傾向とは異なる結果が続いた。かつては、ひと夏越して迎える秋には春の勢力図が崩れることがあった。逆転の秋というやつである。

しかしながら、当然、春の実績馬だって夏を越す。競馬に出なくても夏の間、成長はできる。ここまでのトライアルでは春の実績馬が馬体重を増やして出走することが少なかった。競馬に向けて仕上げてきたといえばそうかもしれないが、3歳夏は人間で言えば十代の後半あたり。太るのではなく、大きくなる、体が出来上がる寸前の状態だ。そういった意味で、夏の間に伸び伸びと成長できた馬が少ない印象があった。

神戸新聞杯ではステラヴェローチェが馬体重+18キロ。理想的な成長を遂げ、馬体の迫力はダービー馬シャフリヤールを上回った。父バゴという意味ではクロノジェネシスが重なる。同馬は3歳秋ぶっつけで挑んだ秋華賞、+20キロで出走し快勝。春のクラシック連続3着のもどかしさを払拭した。ステラヴェローチェは春の成績といい、秋初戦の馬体重といいクロノジェネシスとほぼ同じ。バゴ産駒の成長力は恐ろしく、体をどんどん大きくしながらパフォーマンスをあげる。クロノジェネシスは秋華賞から26キロも体重を増やし、グランプリ3連覇を達成、凱旋門賞に挑むべく渡仏した。

現役屈指の道悪巧者ステラヴェローチェ

中京競馬場は朝から週中の予報になかった雨に見舞われ、神戸新聞杯は36年ぶりの不良馬場。道悪のトライアルは本番に向けて頭を悩ませる。ただ、不良馬場となれば、現役屈指の道悪巧者ステラヴェローチェである。同じく不良馬場だった2歳秋のサウジアラビアRCを圧勝。昔はよく道悪巧者を「水かきがついている」と表現したものだが、まさにステラヴェローチェがそれである。

馬場状態から吉田隼人騎手には自信があった。明らかなスローペースであっても、あえて後方2番手に控え、シャフリヤールの動きに合わせながら進出。最後の直線はモンテディオが目の前にいて進路を失いかけたが、モンテディオが外へ行き、前が空いた。待つ余裕すらあった。シャフリヤールが道悪を気にして馬場の外目を意識したのに対して、こちらはインでも気にならない。道悪への適性が結果に影響したのは明らかだろう。

しかしステラヴェローチェは良馬場の日本ダービーを2分22秒7で走り、0.2差3着。最後の600mはシャフリヤールと同タイムの33.4。一瞬だけ仕掛けが遅れた分の差しかない。菊花賞が良馬場であっても逆転可能だ。ステラヴェローチェにはバゴの成長力がある。

まるで走りが違ったシャフリヤール

ダービー馬シャフリヤールは4着。過去10年、日本ダービー馬は神戸新聞杯で【5-0-0-0】。関西圏で行われる秋のトライアルが神戸新聞杯のみになった過去20年でみても、馬券圏内を外したのははじめてだった。ちょっとショックといえばショックな結果だ。

しかし、日本ダービーを2着とタイム差なしで勝利した馬はグレード制導入後の84年以降、フサイチコンコルド、アグネスフライト、エイシンフラッシュ、ディープブリランテ、マカヒキ、ロジャーバローズ、シャフリヤールの7頭。これらの次走成績は、シャフリヤールの4着で【1-3-0-2】。勝利をあげたのは16年マカヒキ(ニエル賞1着)のみ、勝てなかったことは悲観材料ではない。無事に走ればチャンスはまた来る。

ここまでの走りから明らかに道悪はマイナス材料。道中も外目を走らせ、後半1000mで唯一11秒台を記録した残り600~400m(11.9)で外を動いたため、最後は脚があがった。ハミに頼っていたと福永騎手がコメントしたように道悪が敗因。良馬場であれば、まだまだ巻き返せる。今後は菊花賞へ行くのか不明だが、道悪を走ったダメージを蓄積させないことを第一に考えるだろう。

2着レッドジェネシスは馬場状態がよくない京都新聞杯1着と同じ設定での好走。舞台としてはベストに近かっただけに勝ちたかった。こちらもインを突いて抜け出しており、ステラヴェローチェと同じく道悪はプラスに働く。硬い馬場ではステラヴェローチェほど力を出せないので、今後も馬場状態次第で取捨を決めたい。

3着モンテディオはテイエムタツマキのマイペースに乗じた。いくら不良馬場とはいえ、前半は13秒台が連続して刻まれ、1000m通過1分3秒8。この流れなら、差しを決めた馬たちを称えたい。本番でさらにという雰囲気はない。

2021年神戸新聞杯のレース展開,ⒸSPAIA



ライタープロフィール
勝木 淳
競馬ライター。競馬系出版社勤務を経てフリーに。優駿エッセイ賞2016にて『築地と競馬と』でグランプリ受賞。主に競馬のWEBフリーペーパー&ブログ『ウマフリ』や競馬雑誌『優駿』(中央競馬ピーアール・センター)にて記事を執筆。Yahoo!ニュース公式コメンテーターを務める。共著『競馬 伝説の名勝負 1995-1999 90年代後半戦』(星海社新書)。



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