【セントライト記念】大胆な追い込みアサマノイタズラ 逆転の一冠へ、2着ソーヴァリアント

勝木淳

2021年セントライト記念のレース結果,ⒸSPAIA

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タイトルホルダー包囲網が生んだ淀みない流れ

秋は逆転の季節。菊花賞トライアルも春の実績馬に夏の上がり馬がどこまで通用するかという図式が相場。ところが近年、春のクラシック出走馬が強く、夏に強くなった馬が通じない結果が多く、逆転の秋という印象は薄れつつあった。

今年の主役タイトルホルダーも春2冠2、6着の実績馬。まして中山の重賞4、1、2着とコース巧者の先行馬。まずはこの馬を目標にという心理が想像以上に強かった。

スタート直後の攻防ではノースブリッジがハナに行き、タイトルホルダーがその外で我慢させながら番手につけ、隊列はあっさり決まりかけた。この形ならタイトルホルダーがもっとも力を出せる。ところが、ペースが緩みかけた1コーナー入り口で外からワールドリバイバルが勢いよく先手を奪い、つられるように外枠のルペルカーリア、グラティアスが押し寄せる。その結果、タイトルホルダーは閉じ込められた。最後の直線で行き場を失う伏線はここにあった。

タイトルホルダーの戦歴を考えると過剰ともとれなくもないが、トライアルレースは最低でも権利を獲得しないといけない。先行勢が菊花賞に出るためにはタイトルホルダーに簡単に走られるわけにはいかない。こうした心理が結果的に緩みのない流れを形成した。

1000m通過1分00秒5。ノースブリッジがハナに立って、一旦緩みそうなところを阻止したことで、道中はずっと12.0もしくは12.2というラップが刻まれ、一定のペースを保って走るという緊張が続く息の入りにくい流れになった。

残り600m標識で先行勢の背後にいたソーヴァリアント、カレンルシェルブルが外目を動き、さらにペースアップ。最後の600mは11.5-11.7-12.2。淀みないペースを引っ張った先行勢にさらなるペースアップは厳しかった。

決め打ち系の田辺騎手

先行勢の攻防に乗じたのがアサマノイタズラ。後方13番手追走からソーヴァリアントらの仕掛けにひと呼吸おいて、残り400mでスパート。田辺裕信騎手らしい決め打ちが大当たり。展開を味方につけた勝利ではあるものの、スプリングS2着の実力馬。ラジオNIKKEI賞12着があったにしても、ちょっと甘く見られた印象。そうは言いつつ、ここまで大胆な追い込みは乗り替わった田辺騎手の手腕。毎回安定して走れない馬ではある。

馬名由来は、群馬県民ならみんな知っている上毛カルタ「浅間のいたずら、鬼の押し出し」。今回は追い出しのタイミングが鬼だった。この日誕生日だった手塚貴久調教師はレース内容から距離への手応えを感じた様子。クラシック登録がない馬だけに菊花賞出走は流動的だが、菊花賞が消耗戦になった場合に出番はあるか。

2、3着馬は菊花賞有力候補

先行勢に厳しい競馬だったことを考えれば、積極的に4コーナー先頭という競馬で勝負したソーヴァリアントはもっとも評価したいところ。北海道で2勝クラスを圧勝した典型的な夏の上がり馬、トライアルでは出走権をとると同時に春の実績馬相手にどこまで通用するかが試金石だった。内容を考えれば、このレースでの課題はクリアできたといっていい。

母ソーマジックこそ桜花賞3着という結果を残したが、産駒は4歳秋にOP入りしたソーグリッタリング(父ステイゴールド)や秋華賞2着、4歳になって崩れなくなったマジックキャッスル(父ディープインパクト)など晩成型が多い。父はステイゴールド系オルフェーヴル、間違いなくソーヴァリアントの成長曲線は、夏を境に上昇中。菊花賞最大の惑星馬だ。

3着は2歳ホープフルS以来だったオーソクレース。デビュー2連勝でGⅠ・3番人気に支持された期待馬が骨折を克服、この3着で復活の狼煙をあげた。骨折で春を棒に振ったものの、成績が落ちたわけではない。ケガさえ治ればこのぐらい走って当然。ここを使ったことでさらに上昇すれば、一気に頂点へという場面もある。

母マリアライトは、道悪のエリザベス女王杯や宝塚記念を勝ち、日経賞や目黒記念2、3着があるステイヤータイプの牝馬。父は菊花賞圧勝のエピファネイア。体調次第だろうが、ぜひ挑戦してほしい。

厳しい包囲網に遭い、最後はスペースがなかったとはいえ、タイトルホルダーは13着。先行したグラティアス9着、インコースでスパートが遅れたヴィクティファルス5着など、春の実績馬がことごとく敗退。それぞれ敗因はあるものの、馬体重が春とは変わらない馬ばかりで、いささか成長力を欠いた印象もある。春の実績馬も夏を越して成長することで上がり馬に対抗できる。

菊花賞はエフフォーリアがおらず、シャフリヤールも天皇賞に回る可能性がある。来週の神戸新聞杯の結果次第だが、今年の秋こそは逆転の一冠まで視野に入れたい。

2021年セントライト記念のレース展開図,ⒸSPAIA



ライタープロフィール
勝木 淳
競馬ライター。競馬系出版社勤務を経てフリーに。優駿エッセイ賞2016にて『築地と競馬と』でグランプリ受賞。主に競馬のWEBフリーペーパー&ブログ『ウマフリ』や競馬雑誌『優駿』(中央競馬ピーアール・センター)にて記事を執筆。Yahoo!ニュース公式コメンテーターを務める。共著『競馬 伝説の名勝負 1990-1994 90年代前半戦』(星海社新書)。



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