【新潟記念】父ステイゴールド譲りの意外性 混戦を断ったマイネルファンロンの奇策

勝木淳

2021年新潟記念のレース結果,ⒸSPAIA

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ステイゴールドは信じる人々を必ず救う

まるで新潟名物直線競馬かのような光景だった。最後の直線は内ラチから外ラチまでびっしり横一線。先に抜け出した馬から脚色が鈍り、どの馬の脚色がいいか読みにくい実況泣かせのレースを最後に差し切ったのは、外ラチ沿いを進んだマイネルファンロン。6歳でようやく手に入れた重賞タイトルは、ステイゴールド産駒JRA通算113勝目。これはヒンドスタンに並ぶ歴代4位タイ。上位3頭はサンデーサイレンス、ディープインパクト、キングカメハメハ。ステイゴールドも超一流の種牡馬だったといっていい。

さらにステイゴールド産駒は06年マーメイドSソリッドプラチナムから16年連続でJRA重賞勝ち。15年冬にこの世を去り、JRA登録産駒数は90頭を切ったものの、ファンはこの瞬間を待ち望んでいた。

ステイゴールドは現役時代、GⅠ・2、3着時の人気は10、9、4、11、7、12番人気。いつも大衆がステイゴールドを見放したときに激走した。主な勝ち鞍・阿寒湖特別と揶揄されようとも、出るたびに必ず信じて馬券を買ったファンに穴馬券を贈った。

GⅡドバイシーマクラシックを勝利、いよいよ国内GⅠに手が届くと思わせながら、左にささる悪癖を出して未勝利。引退レースに選んだ香港ヴァーズでとっておきの末脚を披露し、勝利。ステイゴールドがGⅠを勝つと信じ続ける人々の祈りを成就させた。GⅠでたびたび穴を開け、最後にGⅠを勝つ。人々の心を鷲づかみにし、ずっと信じてくれる人々を必ず救う、そんな現役時代だった。

マイネルファンロンは母マイネテレジア。春にオークスを勝ったユーバーレーベンの3歳上の兄だ。妹は父ゴールドシップ、兄は父ステイゴールド、もう岡田繁幸氏の顔しか浮かばない。ユーバーレーベンと同じ手塚貴久厩舎、今回はミルコ・デムーロ騎手が初騎乗。さらに騎手の感性に任せるという陣営のコメントまであった。察知すべきだった。

レース内容はデムーロ騎手の感性大爆発、これまでとはまるで一変した。先行してどこまでという形で6歳まできたマイネルファンロンを後方3番手まで下げ、最後の直線で外ラチまで持っていき、最後の600m33.4、メンバー中最速を記録するとは予測不能である。デムーロ騎手の感性とそこを信頼して任せた陣営の判断を称えるしかない。

これまでラスト600m最速を記録したのは3歳時の18年札幌平場戦のみ。マイネルファンロンには失礼だが、そんなに切れるとは思えない。だが、これもどこかで見た記憶がある。ステイゴールドの香港ヴァーズである。父は内ラチ沿いを伸びたが、息子は外ラチ沿いを伸びた。父はこの世を去ったが、その血はまだまだ巡る。

選択肢を広げたサマー2000王者トーセンスーリヤ

2着はサマー2000シリーズ制覇をかけたトーセンスーリヤ。トップハンデ57.5キロ、大外枠と条件は厳しかったが、横山和生騎手はこういった条件を踏まえ、レース前から控える競馬に決めていた。先行させていれば、最後の直線で馬場の大外を通れなかった。見事な読みだった。

またトーセンスーリヤにとって中団から最後まで伸びたのは今後の選択肢が広がり、収穫だった。これからは相手関係を見て競馬を選べる。結果的にこの馬の進路どりがマイネルファンロンをあそこへ導いた。これも人気馬の宿命である。2着でシリーズ優勝を決めた。秋は主戦場だったローカルからステップアップしたい。

レースは新潟記念らしい前後半1000m60.0-58.4の瞬発力勝負。最後の800mは11.8-11.3-11.0-12.1。インを通った馬は対応できず、外目から進出した先行勢リアアメリアらも残り600m11.3から11.0への再加速に苦しくなった。マイネルファンロンもここで辛くなりかけたが、デムーロ騎手が踏みとどまらせ、最後の12.1でもう一度伸びた。

3着クラヴェルは残り400mの攻防でトーセンスーリヤとマイネルファンロンの間を狙ったものの入れず、トーセンスーリヤの後ろで待たされる場面があり、その内に進路を切り替えた。トーセンスーリヤとはタイム差なし。極限に近い11.0での逡巡は痛かった。

上位6着まではふた桁馬番が占め、最後の直線は真ん中より外を通らないと伸びない特殊な競馬でもあったので、状態の悪い内側を走らされ力を出せなかった馬、リアアメリア、ショウナンバルディ、ザダル、パルティアーモらの巻き返しはありそうだ。

また差し馬勢上位独占のなか、番手から5着に粘った4歳ラインベックは要注意。母アパパネで、兄のモクレレ、ジナンボーは5歳で強くなったように成長力は十分。2、3歳で重賞好走歴がある素質馬だけにこの5着をきっかけにさらに強くなる可能性は十分ある。

2021年新潟記念のレース展開図,ⒸSPAIA



ライタープロフィール
勝木 淳
競馬ライター。競馬系出版社勤務を経てフリーに。優駿エッセイ賞2016にて『築地と競馬と』でグランプリ受賞。主に競馬のWEBフリーペーパー&ブログ『ウマフリ』や競馬雑誌『優駿』(中央競馬ピーアール・センター)にて記事を執筆。Yahoo!ニュース公式コメンテーターを務める。共著『競馬 伝説の名勝負 1990-1994 90年代前半戦』(星海社新書)。



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