【北九州記念】ヨカヨカを巡る不思議な縁 改めてその偉業を振り返る

勝木淳

2021年北九州記念のレース結果,ⒸSPAIA

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熊本産馬初のJRA重賞V

熊本県の本田土寿牧場が生産したヨカヨカが北九州記念を勝った。牧場主の本田土寿さんは一代で牧場を築いた。かつては天皇賞(秋)でウオッカを破ったカンパニーが暮らしていた。熊本地震では地下水に泥が混じるなど大きな被害を受けた。丈夫で強い競走馬を生産すること、本田さんの信念は全国でサラブレッドを生産する人々と変わらない。九州からそういった馬を世に送りたい、本田さんのホースマンとしての願いをヨカヨカが叶えた。

熊本産馬初のJRA重賞V、育成を担ったJRA宮崎育成牧場は01年タムロチェリー以来20年ぶりのJRA重賞勝利。スクワートルスクワート産駒もはじめてのJRA重賞タイトル。九州産の星は夏の小倉で再び輝きを放ち、あらゆる願いを叶えた。

ヨカヨカの母の母ハニーバンは英国産。その母はCocotte。ハニーバンは97年ジャパンCを勝ったピルサドスキー、GⅠ・2勝ファインモーションの姉にあたる。兄妹の活躍からハニーバンは03年、日本に輸入される。そのときお腹にいた父デインヒルダンサーの産駒がヨカヨカの母ハニーダンサー。ハニーダンサーが繁殖入り後、16年に北海道から熊本へ渡り、本田さんが2頭目に生産したのがヨカヨカ。夏場の覚醒はファインモーションを思い起させる。

父スクワートルスクワートはブリーダーズCスプリントなど短距離路線で活躍後、03年に日本軽種馬協会によって日本に導入された。来日はヨカヨカの祖母ハニーバンと同じ年だった。仕上がりが早く、短距離で活躍する馬を多く出したため、九州の馬産地と相性がよかった。やがて生産者に請われる形で16年に九州へ移動。これはハニーダンサーと同じ。ヨカヨカは、ハニーバンの牝系とスクワートルスクワートの不思議な縁の結晶でもある。

さてヨカヨカは前走CBC賞5着。同じ小倉芝1200mが舞台だったため、当回顧で「1分6秒台はヨカヨカには辛かった。時計がかかるようなら北九州記念でも巻き返せる」と述べた。小倉の芝は3週間の休みがありながら、前週の不良馬場、当日の雨によって時計を適度に要する状態だった。

さらに8枠17番という外枠を引き、馬場状態がいい外目を先行できた。快速牝馬モズスーパーフレアがすんなりハナに行き、2番手以下を引き離して前半600m33.2。ヨカヨカは離れた3番手を進み、同区間33.8。道中の追走も勝負所の手応えもCBC賞を上回り、条件を含め、理想的な競馬だった。

侮れない3歳世代

2着はCBC賞を勝ったファストフォース。同じ小倉芝1200mということでこの2レースは今年に限ってはつながったわけだが、逃げて1.06.0を記録した直後にハンデ3キロ増、今度は同じ小倉でも正反対に近い馬場で逃げずに控え、1.08.4で2着。スプリンターとして本格化したといっていい。今後はわからないが、賞金はサマーシリーズで十分加算したので、もうひとつ上の舞台に挑戦してほしい。

3着は逃げたモズスーパーフレアがシゲルピンクルビーをハナ差しのいだ。昨年は今年と同じ56.5キロ、ジョーカナチャンに絡まれて前半600mは32.4。今年はプレッシャーをかけられることがなく、久々のマイペース先行が好走要因だろう。昨秋から徐々に粘りがなくなりつつあるのは事実。今回の好走は立派ではあるが、これでマークはさらに厳しくなる。

4着シゲルピンクルビーはこれまで好走がなかった函館SS組。これで北九州記念が1200mになった06年以降【0-0-0-10】。ハナ差4着まで来たことに驚いた。ヨカヨカを含め、3歳世代は侮れない。

3歳も北九州記念は相性が悪く、06年以降【0-3-2-26】。ヨカヨカの勝利は芝1800mだった93年シルクムーンライト以来の記録。毎年、頭を悩ませる超難関重賞において数少ない「消し」データがヨカヨカの勝利によって消えたことになる。ヨカヨカの勝利は様々な角度から偉業といっていい。

2021年北九州記念のレース結果,ⒸSPAIA



ライタープロフィール
勝木 淳
競馬ライター。競馬系出版社勤務を経てフリーに。優駿エッセイ賞2016にて『築地と競馬と』でグランプリ受賞。主に競馬のWEBフリーペーパー&ブログ『ウマフリ』や競馬雑誌『優駿』(中央競馬ピーアール・センター)にて記事を執筆。Yahoo!ニュース公式コメンテーターを務める。


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