【関屋記念】サマーシリーズの先まで、ロータスランドの可能性とは

勝木淳

2021年関屋記念のレース結果,ⒸSPAIA

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武器は切れ味だけではない

新潟芝は土曜日まで続いた雨の影響と連続開催4週目の消耗から高速馬場ではなかった。それでも馬場発表は10レースから良馬場に回復。さすが水はけのよさはJRA全10場で屈指の新潟競馬場だ。

これは新潟の治水事業の成果でもある。信濃川と阿賀野川という大河が走る新潟はかつて水害に悩まされる、水はけの悪い地域だった。これを解消するための事業のひとつが関屋分水路。信濃川の流れを変える関屋分水路を作るにあたり、新潟競馬場は現在の場所に移転した。関屋記念はかつて新潟競馬場が関屋にあったことを伝えるレースだ。

関屋記念が良馬場以外だったのは20年でたった2度、それもやや重2回。昨年こそ馬場が荒れて1分33秒台の決着だったが、今年の決着時計は1分32秒7。これは馬場差を考えると、高速決着とはいえず、時計としては水準より遅い記録でもある。だが、軽さを求められる競馬にならなかったことは、かえって秋に向けて価値のあるレースになる可能性がある。

歳を重ねて再び快速度合いを増したマイスタイルが新潟大賞典に続きハナに立ち、徐々に馬群から抜け出し、単騎で進む。抑え気味に走って前半800mは12.7-11.0-11.3-11.6で46.6、マイスタイルとしては慎重な入りだった。

勝ったロータスランドは離れた3番手のイン。徐々に荒れてきた内側を追走した。直線ではマイスタイルの真後ろにつけ、進路を探す余裕もあった。外のミラアイトーン、その間を突くクリスティの動きをみて、ラチ沿いに飛び込んだ。追い出したのは内回りとの合流地点。外回りの乗り方としては理想的だった。

後半800mは11.5-11.4-11.2-12.0の46.1。ロータスランドは最速ラップ地点で内側からスルスルと先頭に立った。牝馬特有の瞬発力は夏の新潟では最大の武器になる。ただロータスランドは古馬になって切れ味にしぶとさを身につけたことで、本格化を遂げた。最後の200mを12.0でまとめられては後続も敵わない。前後半800m46.6-46.1、マイスタイルが演出した流れは牝馬の切れ味だけでは太刀打ちできない、力のあるマイラーこそがこなせるものだった。これをロータスランドは自力で先行して押し切った。その価値は時計以上に高いといっていい。これでサマーマイルシリーズ制覇はほぼ確実。その先も視野に入る。

京成杯AHで見直したいアンドラステ

力のあるマイラーこそ上位に来るレースだったことは、2着カラテも証明した。同馬が勝った東京新聞杯は前後半800m46.6-45.8。当時は先行して馬群を突き抜けてきたが、今回は中団の外目、ソングラインの背後というポジション。新潟外回りを意識して流れに乗った。最後は大外をソングラインと併せ馬で伸び、競り落とした。

GⅠ・2着の3歳牝馬51キロのソングラインをカラテが上回ったのはマイラーとしての資質の差、それを問われる流れだったからだろう。もっと切れ味比べの軽い競馬であれば、ソングラインには先着できなかった。裏を返せば、カラテも締まった流れのマイル戦に適性があるということ。春は初GⅠだった安田記念で大敗したものの、これを経験したことで秋はもっと走れるのではないか。

1番人気3着ソングラインは、関屋記念らしい軽い競馬にならなかった点が痛かった。カラテに外を封じられる形も辛かったが、残り200m標識を通過したあたりで脚色が鈍り、カラテに屈した。最後の200mは12.0とラップがやや落ちた地点。ここで脚色が周囲と一緒になるあたりは、まだまだマイラーとしては未完成な部分。NHKマイルCも最後は苦しかったように現状は1400mぐらいがベストかもしれない。ただ、春の激走から陣営は上手く立て直しており、悲観する内容ではない。

逃げたマイスタイルは4着に粘った。さすがに7歳になり、以前のような粘っこさは薄れつつあるが、マイル戦で単騎先行、平均的な流れに持ち込むと強い。関屋記念はスピードも問われ、最後は辛かったが、舞台次第では今後も面白い存在。単騎で行けるメンバーであれば、どこかで穴を開ける可能性は十分ある。

5着は7番人気グランデマーレ。長期休養から復活、マイル戦で連勝と期待されたが、最内枠で道中は馬群で狭くなる場面も多かった。窮屈な競馬を強いられながらも、馬群がバラけてからは嫌気を差さずにしっかり伸びた。能力を示せただけに枠順がもったいなかった。

中京記念を勝ったアンドラステは3番人気8着。昨年の関屋記念3着があるので、ワンターンのマイル戦に適性がないわけではないが、小倉での走りをみると、本質はコーナーが多い小回りがよさそう。重賞ではどうしても最後の末脚で劣ってしまう。次走は不明だが、極端な高速決着にならなければ最終戦の京成杯AHでの巻き返しを期待したい。

カラテの2着で関屋記念の7、8枠は、04年からずっと複勝圏内。高速マイルにもかかわらず、外枠が好走する舞台。来年まで覚えていられるだろうか。

2021年関屋記念のレース展開図,ⒸSPAIA



ライタープロフィール
勝木 淳
競馬ライター。競馬系出版社勤務を経てフリーに。優駿エッセイ賞2016にて『築地と競馬と』でグランプリ受賞。主に競馬のWEBフリーペーパー&ブログ『ウマフリ』や競馬雑誌『優駿』(中央競馬ピーアール・センター)にて記事を執筆。Yahoo!ニュース公式コメンテーターを務める。



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