【クイーンS】ポイントは雨と小回り適性 マジックキャッスルの先行策は吉か凶か?

勝木淳

2021年クイーンSのレース結果,ⒸSPAIA

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逞しさ増したテルツェット

夏競馬攻略のカギは3歳馬の取捨選択にある。クイーンSも52キロで出走する3歳馬が【3-0-0-3】、勝率50%。昨年に続き、今年もその3歳牝馬はゼロ。4歳以上の争いとなると、焦点は前走レースになる。過去10年、直近の牝馬限定重賞であるヴィクトリアマイル(以下、Vマイル)とマーメイドSに出走した馬は【5-6-6-30】。今年もこの組の取捨選択がポイントになった。

Vマイル3着マジックキャッスル、5着シゲルピンクダイヤ、14着テルツェット、マーメイドS1着シャムロックヒル。結果はテルツェット、マジックキャッスルのVマイル組がワンツー、3着は格下のサトノセシルだった。

テルツェットは初GⅠだったVマイルこそ14着と大敗を喫したが、3歳夏から十分に間隔をとりながら4連勝、ダービー卿CTで牡馬相手に重賞V、ディープインパクト産駒の使い方のお手本でもあった。馬体重420キロ台の小さい牝馬ゆえ、新潟や東京とゆったりした軽いコース中心だったが、中山で重賞を勝ったことで時計を要するコースへの対応力も示し、洋芝の函館でも力を発揮した。もう非力で切れ味勝負向きといった認識は改めた方がいい。

マジックキャッスル先行で息の入らないタイトな展開

直前に強い雨。函館の芝は短時間でも一気に悪化する。実績上位の逃げ候補はシャムロックヒル。マーメイドSを内枠から斤量50キロで逃げ切ったが、外枠と5キロ増が影響したのか、1コーナーまでに行ききれず、北海道のダート路線で飛ばしていたローザノワールが先手を奪う。テルツェットは発馬直後から自分の形である控える作戦に徹する。折り合えれば最後は脚を使える、ルメール騎手は確信していた。この控えるという選択が勝因にもなった。

小回り1800mを意識し、ドナアトラエンテもマジックキャッスルも先行集団にとりつき、先行勢にプレッシャーがかかった。ラップ構成は1000m通過59.9から11.9-11.8-11.8-12.4。序盤からペースが緩む区間が一切ない、スキのないタイトな流れになり、ドナアトラエンテやシャムロックヒルなどが先行集団から脱落していき、インに潜り込んだフェアリーポルカが抜けだした。この馬は他馬が苦にするような馬場に滅法強い。

フェアリーポルカを目標に進出したマジックキャッスルだったが、前半のタイトな流れが響いたか、それほど伸びきれなかった。テルツェットは極端に外を回らないように進路をとり、直線はマジックキャッスルの背後をとる。この馬が抜け出して自分の進路ができるというルメール騎手らしい読みも冴えた。

2着マジックキャッスルは普段より前で競馬し、タイトな流れに巻き込まれるところもあったが、先行したことで新たな一面を見せたといっていい。一連のレースを見る限り、ベストは秋華賞や愛知杯のようなコーナー4回の中距離戦。秋のエリザベス女王杯はこの馬の適性に合いそうで楽しみだ。ただし、ここで先行したことで今後の競馬で前半のコントロールが難しくなる可能性もある。ソーマジックの血統は、ソーグリッタリングやソーヴァリアントなどをみると、母の父シンボリクリスエス譲りの気難しさも内包している。秋は精神面の見極めに注意したい。

明白になった洋芝、小回り適性

3着は8番人気サトノセシルが3勝クラスの身ながら好走。前走函館の洞爺湖特別を逃げ切っての格上挑戦が実った。その前走とは打って変わって、先行できずに控える形になったことが結果的には功を奏した。序盤は前走で逃げていただけに前に行きたがる素振りを見せていたが、大野拓弥騎手、上手になだめて馬を納得させた。ペースが厳しくなった勝負所で置かれたが、最後までしぶとく伸びた。洋芝に高い適性がある証だ。

2番人気ドナアトラエンテは11着。戦歴から時計を要する小回り1800mは合いそうな予感はあったが、序盤から息の入らない流れを追いかけ、4コーナーでも積極的に仕掛けた分、息切れしてしまった印象。マジックキャッスルを意識した競馬だったが、まだまだGⅠで勝ち負けする馬とは力差があったようだ。もう少し相手関係が楽になれば見直せるだろう。

4番人気シゲルピンクダイヤは10着。先行した分、甘くなったともいえるが、道中から手応えが悪く追いどおしの印象。道悪だと成績を落とす傾向があり、直前の雨が響いたともいえるが、器用さを欠くタイプでおそらく小回り適性がなかった。この馬は広いコース向きだ。

最後に5番人気7着イカットをとりあげる。とにかく北海道の洋芝に高い適性があり、思い切って格上挑戦してきた。道中は中団内ラチ沿いに待機。直線を向くまでじっと動かず、最後に進路を見つけて抜け出しを図った。ここまでは完璧に近く、見せ場は作ったが、フェアリーポルカに締められてブレーキをかけた。北海道シリーズで勝てるチャンスは十分ある。

2021年クイーンSのレース展開図,ⒸSPAIA



ライタープロフィール
勝木 淳
競馬ライター。競馬系出版社勤務を経てフリーに。優駿エッセイ賞2016にて『築地と競馬と』でグランプリ受賞。主に競馬のWEBフリーペーパー&ブログ『ウマフリ』や競馬雑誌『優駿』(中央競馬ピーアール・センター)にて記事を執筆。Yahoo!ニュース公式コメンテーターを務める。



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