【アイビスSD】騎手の判断光ったオールアットワンス バカラクイーンの内ラチ奇襲と覚えておきたい直線競馬のセオリー
勝木淳
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工夫が必要だった韋駄天S組の取捨
春の新潟は長い開催、天候不良の影響から例年以上に芝の状態が悪化した。開催最終週の韋駄天Sの勝ち時計56.5はレース創設以来もっとも遅い時計。最後の200mで時計がかかり、タマモメイトウの追い込みが決まった。アイビスSDは例年、古馬は韋駄天S組の分析、取捨選択がカギを握る。夏の開幕週は芝の張り替え作業も順調だったようで、夏開催らしい高速馬場だっただけに余計に迷わせた。
前走韋駄天S組は1、3、9、12着馬が出走、結果はそれぞれ7、15、2、9着だった。ここ2年アイビスSD1、2着のライオンボスが意地を見せた。勝ち時計54.2は韋駄天Sより2.3も速く、韋駄天S組が連対したものの、着順は逆転。つながってはいなかった。ここを読み切れるかどうかが古馬のポイントだった。
ライオンボスは韋駄天S9着という結果にとらわれず、12番枠からダッシュを効かせて外ラチ沿いをとり、ひたすら飛ばすという自分のやるべき競馬に徹した。直線競馬のセオリー通りの競馬、スピードに乗せられる時点で衰えはなさそう。陣営の立て直しが成功した。
格下でも狙いたい3歳牝馬51キロ
次のポイントは夏の短距離戦で有利な3歳馬の取捨選択。斤量53キロの3歳牡馬は20年まで通算【0-0-3-10】、3着は08年アポロドルチェが最後。3番人気モントライゼは12着。内枠から好位にはつけられたものの、序盤から手綱を促しながら、ついて行くのに精いっぱいといった感じ。この舞台に対応できるだけのスピードがなかった。距離適性は1400mぐらいではなかろうか。
アイビスSDで強いのは斤量51キロ3歳牝馬。レース創設以来、【2-3-2-5】。08年16着エイムアットビップ、12年10着ビウイッチアスなど1番人気を裏切ることもあったが、3歳で狙うなら、斤量51キロの牝馬だ。スピードの絶対値が必要なレースだけに斤量は大きなポイントになる。
今年は18年以来、久しぶりに3歳牝馬が2頭出走。1番人気オールアットワンスが勝利した。前走重賞3着とはいえ、まだ2勝クラスの馬。これを1番人気に支持するあたり、みんな馬券が上手い。外枠から発馬直後に先行争いで狭くなる場面があったが、石川裕紀人騎手が強気にスペースを主張、しっかり好位をキープした。ここが勝負の分かれ目だった。絶好の馬場状態で引けば、後手に回り、軽い斤量であっても差は詰められない。その後はロードエースが前に入ると、即座にその内側のスペースを確保、騎手の冷静な判断が光った。
1枠からの内枠奇襲の副作用
3番目は枠順。過去10年1枠は【0-0-0-17】。直線競馬の最内枠は引いた時点で評価をさげる。1枠1番バカラクイーンが14番人気3着と大穴を提供した。発馬直後から外ラチには目もくれず、ひたすら内ラチ沿いを一直線に駆け抜けた。直線競馬ではまれにこういったコース選択をすることがあるが、最後まで一切、外に行かずに好走した例は記憶にない。開幕週は内側の馬場状態もそこまで悪くなく、格下でありながら一発を狙う大胆な作戦。どうやら武井亮調教師の指示だったようだ。
よく直線競馬は外枠が内枠、内枠が外枠、内と外がひっくり返ると言われる。コーナーがある競馬では内枠はロスこそないが、馬群に揉まれ、スペースを失うリスクがある。一方、外枠はスペースをとりやすいものの、ロスが多い。これが直線競馬ではひっくり返る。確かに外枠は優位ではあるが、このレースも一目散に外ラチ沿いのスペースの奪い合いになり、進路を失った馬が多かった。そう考えれば、バカラクイーンはスペースを独占状態だった。
ただ、馬は群れで走ることで闘争心をかき立てるので、1頭ポツンと走ると、走る気力や集中力を失う。最後まで集中してしっかり走らせた菅原明良騎手を褒めたい。バカラクイーンの激走は、今後の直線競馬における内枠の対処方法として新たな形を示したわけだが、これは開幕週、バカラクイーンの直線競馬への適性などいろいろな条件がそろってのもの。そうそうできるものではない。やはり外枠、もしくは内側から外ラチに行けるダッシュ力がある馬を狙いたい。
ちなみにバカラクイーンは2勝クラスに出走できるので、次走自己条件で得意の直線競馬ならばまず上位人気になるだろうが、この激走だけで飛びつくのは危険だろう。枠順や相手関係はしっかり見極めたい。
ライタープロフィール
勝木 淳
競馬ライター。競馬系出版社勤務を経てフリーに。優駿エッセイ賞2016にて『築地と競馬と』でグランプリ受賞。主に競馬のWEBフリーペーパー&ブログ『ウマフリ』や競馬雑誌『優駿』(中央競馬ピーアール・センター)にて記事を執筆。Yahoo!ニュース公式コメンテーターを務める。
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