【七夕賞】穴党注目の荒れる重賞、連覇はミヤビランベリただ1頭 七夕賞の歴史を振り返る

緒方きしん

七夕賞過去5年間の優勝馬ⒸSPAIA

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穴党も注目する一戦

今週は福島伝統の一戦、七夕賞。今年で57回目を迎える本競走は、サマー2000シリーズの開幕戦でもあり、競馬ファンに夏競馬の本格化を感じさせる一戦だ。2008年〜2014年の期間では2年に一度のペースで馬連が万馬券になるなど、ハイペースで高額配当が繰り出される「荒れる重賞」として知られ、多くの穴党ファンにとって注目のレースとなる。

ここを制した馬が秋冬や翌春に飛躍することも多く、2002年覇者イーグルカフェはジャパンカップダートを、1998年覇者オフサイドトラップは天皇賞(秋)を、1995年覇者フジヤマケンザンは香港国際カップを制した。近年でも、2019年覇者ミッキースワローが翌年の日経賞を勝利し、天皇賞(春)でも3着と好走した。

今年は昨年勝ち馬の7歳クレッシェンドラヴが参戦。さらに昨年3着のヴァンケドミンゴ、昨年の小倉記念覇者アールスター、ステイゴールド産駒の8歳馬マウントゴールドなど多彩な面々が集結。今年の七夕賞は波乱決着か、平穏決着か──。七夕賞の歴史を振り返る。

1番人気は苦戦傾向

七夕賞2016~2020年の優勝馬ⒸSPAIA



ハンデ重賞らしく、1番人気馬が馬券圏外となることも珍しくない七夕賞。ここ5年で優勝した1番人気馬は2017年のゼーヴィントただ1頭で、それ以外の4回はいずれも1番人気馬が馬券圏外に沈んでいる。特に2018年に勝利したメドウラークは12頭中の11番人気(単勝100.8倍)という人気薄。3着にはシンガリ人気のパワーポケットが食い込んだことで、三連単は25633.3倍の「200万馬券」になった。

元々、七夕賞と言えば「1番人気馬が勝てない」というジンクスがあるレース。1978年にカミノハヤブサが勝利して以降、長い間1番人気の連敗が続いていた。しかもその1978年は1800m戦時代で、1980年に現在の2000m戦になってからは20年以上1番人気が負け続けていたほど。

その流れを断ち切ったのが2005年のダイワレイダースで、鞍上は後藤浩輝騎手だった。ジンクスを破って以降はマイネルラクリマやミヤビランベリらが1番人気に応えて勝利しているものの、数年おきに爆発的に荒れる傾向はむしろ顕著になっている感もある。

ジンクスに打ち勝った後藤浩輝騎手は、2007年にも本レースを制覇。古くは岡部幸雄騎手が1970、71年・1982、83年と二度の連覇を達成しているほか、2002、03年には田中勝春騎手が、2016、17年には戸崎圭太騎手が連覇を達成。こうした七夕賞を得意とする騎手にも注目したい。

天の川から見守るミヤビランベリ

騎手の連覇が多い一方で、競走馬による連覇は過去に一度のみ。2008年・2009年の覇者、ミヤビランベリである。ミヤビランベリは父オペラハウス、母父ホリスキーという血統で、牝系を遡るとビユーチフルドリーマーという名牝に行き着く良血馬。

パーソロンやテスコボーイといった歴代の名種牡馬たちを掛け合わせてきた血統を持つ同馬だが、一度目の七夕賞は7番人気という評価の中での勝利だった。当時まだ条件馬だったミヤビランベリは、前走関ヶ原S(現3勝クラス)で13着に敗れていた悪い流れを断ち切る会心の逃走劇を披露。後の長距離王者マイネルキッツらを退け、馬連215.7倍の波乱を巻き起こした。

翌年、目黒記念勝利などを経て実績を積んだミヤビランベリは、前年とは打って変わって1番人気で七夕賞に出走。斤量は、53から57に増量されていた。シンガポールGⅠ勝ち馬シャドウゲイトらを相手に堂々たる競馬をして勝利すると、荒れる重賞の七夕賞を連覇した最初の馬となった。

ミヤビランベリは引退後、誘導馬などをして過ごしていたが、今年の3月21日に亡くなっている。その訃報と同年に、ミヤビランベリ以来となる「七夕賞連覇」を狙う馬が出走してくるというだけでも感慨深い。また、連覇はなくとも、アルコセニョーラは2年連続で2着、マイネルラクリマは優勝→3着と、前年の好走馬がそのまま好走するパターンは多い。4度七夕賞に挑戦して、2度3着に食い込んだグラスボンバーという馬もいた。

血統の奥深さを感じる面々

七夕賞の勝ち馬を見返すと、個性的な血統の馬を多く見かける。特に印象的なのは、2010年の勝ち馬ドモナラズ。名前もインパクトがあるが、面白いのはその母父であるナリタハヤブサだ。ナリタハヤブサは平成初期におけるダートの名馬で、牝系を辿れば名牝フロリースカツプの名がある良血馬でもある。しかし、ナリタハヤブサの産駒で繁殖牝馬となったのはただ1頭、それがドモナラズの母、アンプルカットだった。

ドモナラズは父がアフリートだったが、父の父がアフリートで七夕賞を制した馬もいた。それがスターリングローズ産駒アスカクリチャンである。アスカクリチャンは引退後に種牡馬となり、中央勝ち馬を複数輩出している。

今回の記事ではビユーチフルドリーマーやフロリースカツプといった1900年代初頭から日本で活躍してきた牝系の祖をご紹介した。今年の出走馬でも、ヴァンケドミンゴはフラストレート、アールスターはダイシング、ツーエムアロンソはタイランツクヰーンといった戦前の輸入牝馬に行き着く由緒ある血統馬である。特にツーエムアロンソは高祖母に1987年の二冠牝馬マックスビューティがいる良血。そういった牝系に流れる血にも思いを馳せながら、七夕の競馬を楽しんでいただきたい。

《ライタープロフィール》
緒方きしん
競馬ライター。1990年生まれ、札幌育ち。家族の影響で、物心つく前から毎週末の競馬を楽しみに過ごす日々を送る。2016年に新しい競馬のWEBメディア「ウマフリ」を設立し、馬券だけではない競馬の楽しみ方をサイトで提案している。好きな馬はレオダーバン、スペシャルウィーク、エアグルーヴ、ダイワスカーレット。

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